なにかの気配を感じて、双魔はふと目を開く。まだ暗い。

ヴィッター・ハニィ

「………起きたか」

「ん、かんな………?」

ベッドで眠る自分に伸し掛かるようにしていたのは、双子の兄だった。いったいいつ帰ったのか、まだ普段着のままのようだ。

双魔は眠い目を擦り、枕元の時計を確認しようと顔を上げる。その動きが、途中で止まった。

「ぁ、神無………!」

肩を押さえ、体重を掛けてくる神無からは、埃と、わずかな血の臭いがする。

なにより、頭が眩むように香り立つ、雄の臭い。

「…………ケンカ、してきたの………?」

「ああ」

震える声でおずおずと訊いた双魔に、神無は暗闇にもわかるほど、凶悪に笑った。

「血が騒いで落ち着かない。どうにかしないと、誰か殺しそうだ」

「……っ」

びくりと竦む双魔にさらに笑い、神無は布団を肌蹴た。薄いパジャマに包まれた、小さな体が現れる。

神無はちろりとくちびるを舐め、布の上から弟の体を撫でた。

「か、んな………っ」

「嫌だとでも?」

「………」

問えば、双魔は黙りこむ。

神無は満足げに頷き、双魔のパジャマのズボンに手を掛ける。躊躇いもなく下着ごと剥ぎ取り、全身の華奢さを裏切らない場所を露わにした。

「……っ」

隠そうとするように、双魔の足がもぞついた。その動きの儚さと愛らしさに、神無の咽喉がごくりと鳴る。

運動しない双魔の足は細く、力ない。神無が太ももを掴んで少し力を入れると、簡単に割り開くことが出来る。

「ん、ぃたい………っ」

「くくっ」

「んぅ……っ」

上がった小さな悲鳴に、返るのが笑い声だ。

双魔は慌ててくちびるを噛み、枕に顔を押しつけた。

外で喧嘩をしてきて、血が騒いでいると言うときの神無は嗜虐趣味だ。

双魔が悲鳴を上げれば上げるだけ、悦び、煽られる。

しかし嗜虐趣味となっていても、どうしても悲鳴を聞きたいわけでもない。双魔がくちびるを噛んで悲鳴を堪えていても、それで行為がエスカレートすることはない。

だが悲鳴を聞いて煽られると、行為は簡単にエスカレートする。

だから、肝心なのは最初だ――最初にあまりにも悲鳴を上げて煽り立てると、神無の気晴らしは長時間に及び、そのうえ内容が酷くなる。

震える太ももの間を見つめ、神無はくちびるを舐めた。

小さいころから、まるで変わらない。双魔のそこは、かわいらしい。

今は暗くてよく見えないが、明かりの下で見るときれいなピンク色で、誰のこともまだ知らないとよくわかる。

「ん………っっ」

くちびるを噛んでいても、双魔はびくりと震えて呻き声を漏らした。

神無のくちびるが、くたりと力なく垂れていた双魔のものを含んだのだ。口内は熱く、ぬめる舌は双魔のものを躊躇いもなく舐めしゃぶる。

「ぁ………っふ、ぁあ………っ」

含んだくちびるがきゅっと窄まり、熱を帯びだしたものを締めつける。そうしておいて舌を絡めながら上下に扱かれ、先端を吸われる。

「ん………っは、ぁ、かんなぁ………っ」

双魔の瞳が熱に潤み、声が甘く蕩けて名前を呼ぶ。

神無のくちびるは双魔を咥えたままわずかに綻び、すぐにまた熱心な愛撫に戻った。

双魔のものがすっかり反り返り、雫をこぼし始めたところで、神無は先端に舌を押しこんで開き、ちゅうちゅうと音を立てて啜る。

激しく尿意を誘われて、双魔は腰をくねらせ、逃げるように体をずらした。けれどすぐに神無の手が腰を掴み、元の場所に引き戻す。

双魔の瞳から、ぼろりと涙がこぼれた。

「ん、ゃあ、だめ………そんな、いっぱい、吸ったらだめ………っだめ、かんなぁ………っ」

「なにが駄目だ」

甘く悲鳴を上げる双魔に、くちびるをつけたまま、神無が笑う。敏感に尖った場所にふっと息を吹きかけ、ぷくりと浮かぶ雫を舐めた。

「こんなに濡らしておいて、駄目も糞もあるか」

「ふぁ………っ」

びくびくと震えた双魔の根本を、神無は手でぎゅっと押さえつける。

「ぃ、た………っ」

「まだイくなよ。味わい切ってない」

「ゃあ……っ」

華奢な体が、押さえられた熱に激しく震える。

双魔はぼろぼろと涙をこぼしながら、下半身に顔を埋めて自分を味わう神無を見下ろした。

「かんなぁ………」

呼んでも、応えはない。ただ、舐めしゃぶるぴちゃぴちゃという水音だけが響く。

きゅっと腹が締まって、双魔は手を伸ばした。神無の髪を掴み、引く。

「かんなぁ………」

「………」

わずかに渋面になって視線だけ投げた神無に、双魔は腰をもぞつかせ、洟を啜った。

「ぉねが………ぃ、かんな…………」

「………」

「ぉねがぃ…………」

弱々しく、強請る。

神無の咽喉が鳴り、根元を押さえる手に力が篭もった。

「ぃ、ん……っ」

指が食い込んだ瞬間に双魔は顔をしかめて、足指をきゅっと丸める。痛みを堪える顔に、神無は体を起こし、のみならず乗り出して見入った。

「ぁ………っく……」

「………」

指を食いこませれば食いこませるだけ、双魔は震えて縮こまる。

ぎゅ、と瞳を閉じて苦鳴を堪える姿に、神無はしばらく見惚れた。

「か、んな………」

「イきたいか?」

「ん……っ」

低く訊くと、双魔はこくこくと頷いた。閉じていた瞳を開き、体に伸し掛かる神無を、懇願するように見上げる。

「イきたい………」

「だったら強請れ。おねだりは教えてやっただろう?」

「………っ」

嗜虐たっぷりの笑みで言われ、双魔はくちびるを噛んだ。

確かに、教えられた。イきたいときには、こう言えと。

その言葉は、双魔にはあまりに恥ずかしい。

「……っ」

「じゃあ、このままだな」

「っ」

躊躇ってくちびるを震わせるだけの双魔に、神無は笑って言って、再び屈みこんだ。

根元を押さえつけたままの下半身に顔を埋めると、痛いほどに張りつめるものをくちびるに含む。

「んぁ……っ」

舌でねっとりと舐められ、くすぐられる。

だらしなく雫をこぼし続ける先端を割り開くように舌が入って、ちろちろ舐めていたかと思えば、音を立てて啜られる。

すぐにもイけそうなのに、きつく押さえつけられていて、イけない。

「ん……っ、か、んな………っかんな、言う………っ言う、から……っ」

「ふぅん?」

「んぅっ」

含まれたまま鼻を鳴らされて、双魔はがくがくと太ももを震わせる。

それでも懸命に息を整えると、ぎゅっと瞳を閉じた。

「あ…」

「目を開けろ」

「ぅ……っ」

「きちんとオレを見て言え」

「……っ」

命令に、双魔は洟を啜った。

ただ言うだけでも恥ずかしいのに、神無の顔を見つめながら言うなど。

しかし言わなければ、神無の行為は延々と長引き、その果てには――

「………っ、ぁ、神無……」

双魔は懸命に瞳を開き、顔を上げて待つ神無を見つめる。嗜虐的な笑みが見えてしまって、咽喉が一瞬詰まった。

一度震えてから、双魔は大きく息を吸う。

「神無………の、口………で、ぼくの………せーえき、飲んで…………」

「………」

「っぁ」

双魔が言った途端、暗闇にも明らかに、神無のくちびるが悦楽に歪んだ。

堪えきれないように舌がくちびるを舐め、根元を押さえていた手が扱くようにやわらかく動く。

「ん……っんん……っ」

もどかしく駆け上がる熱に、双魔は期待に震える。

ぎゅ、と握りしめた拳に、神無はくちびるを落とした。

やわらかな肌をてろりと舐め、じゃれるように咬みつく。

「ぁ、神無……っ」

「飲んで欲しいのか、オレに双魔、おまえの精液を」

「ん……っ」

問われて、双魔はさらにきつくシーツを掴んだ。戦慄くくちびるを開き、暗闇ですら炯々と光って見える神無の瞳を見返す。

「………の、んで………ほしい………」

詰まる咽喉を押して、吐き出す。もぞりと、腰が蠢いた。

「神無の、口に………ぜんぶ、出したい………」

「……」

言い切ると、神無は満足そうに瞳を細めた。やわやわと揉みしだいていた手が、敏感に尖る先端を押す。

「ぃっ」

走る痛みと、それを凌駕するような快楽と。

仰け反る双魔の下半身に、神無は舌なめずりしながら顔を埋めた。

「全部、飲んでやるからな………」

「んん……っ」

熱い吐息が吹きかけられ、すっぽりとくちびるに飲みこまれる。舌が絡まり、複雑に纏わりついて扱いた。

たらたらとこぼれる蜜を吸い上げられ、さらに誘うように舌が入り込む。

「ぁ、神無………っイく………っん………っっ」

「……っ」

一際甘い声を上げて全身を震わせた双魔が、神無の口の中に精液を吐き出す。

間歇的に吹き出すそれをこぼすこともなく吸い上げ、飲みこみ、さらに残滓まできれいに啜って、ようやく神無は顔を上げた。

「は……っふ………っ」

焦らされたうえでようやく頂点を極めた余韻で、双魔は切なく震えている。薄いパジャマ越しに、小さな乳首が尖っているのがわかった。

晒された体はあまりに無防備で、か弱い。

神無は瞳を細めて、弟の醸し出す色気を堪能した。

「ん………っか、んな?」

神無は自分で剥ぎ取った双魔のパジャマの下で、濡れそぼる場所を適当に拭いて床に放り出した。狭いベッドに無理やり双魔と並んで横になると、跳ね除けた布団を被る。

細い腰を掴んで自分と密着させ、曝け出されたままの下半身に手を絡める。

「かんな……っ」

「眠い」

「…っ」

双魔の密着させられた下半身は、神無のものが熱を持っていることを感じている。この状態で『眠い』はない。

けれど神無は自分の熱には無頓着で、ひたすらに双魔に押しつけるだけ押しつけて、本当に眠りこんでしまった。

「………神無……」

押しつけられたものが持つ、熱を知っている。それを口で味わうことも、腹にねじ込まれることも。

なのに、神無はなにをすることもなく、双魔を抱いて眠ってしまった。

剥きだしの尻に神無の手があって、そこから沁み出す熱で、イったばかりなのに、じくじくと下半身が疼く。

とはいえ今夜は、すべてがもう終わりだ。

どうしてこの状態で眠れるのかさっぱりわからないが、従順な双魔を味わえれば、神無は精神的に充足してしまう。

騒ぐ血が落ち着けば、乱闘の疲れが出て、眠る。

「………もう……」

双魔は諦めのため息をついて、強張る体から力を抜いた。

こんな状態で眠れる気はしないが、仕方ない。眠った神無を起こして熱をどうにかしろと迫れば、それこそ一晩中眠れない。

「………神無」

甘くあまく名前を呼ぶと、双魔は顔を伸び上がらせた。眠りこんでいる証にわずかに緩むくちびるに、小さくキスをする。

軽く舌を差しこんで舐めると、仄かに自分の残滓が香った。

「……」

再びため息をついて、双魔は神無の胸に埋まる。瞳を閉じると、ぎゅっと縋りついた。