愚者の神問
「ウソよ!!」
「<(>▽<)>ノシ☆☆☆」
奥座敷に坐す吾の前に立った上弦と下弦は、実際に光っているかというほど生き生きと輝き、叫んだ。
上弦と下弦は吾の眷属であり、しかして神の眷属とはいえ、未だ幼き童べ。
童べは、悪戯が好きなものだ。そして眷属というのもまた、勝るとも劣らぬ悪戯好きだ。
双方揃った以上、結果は推して知るべし――とはいえ。
「うむ、まあ座れ」
「きゃー☆」
「((((>▽<))))ノシノシノシ」
ひとつ頷くと、吾は上下の腰を抱き、己の膝に招いた。
同じ童べでも万年反抗期の養い子と違い、吾の求めに素直なのが二匹だ。眷属ということもあるが、性質だろう。
招かれるまま――というより率先し、むしろ二匹で競うようにして吾の膝に登ってくる。
二匹が落ち着いたところで、吾は常より引き締まり、厳しめの表情をつくった。背を叩いてあやしてやりつつも、首を横に振る。
「確か俗世に於いて今日は、嘘を吐く日となっておるらしいの?由来も意味も是非も一切不明だが、いくら日和とはいえ、幼い身のそなたらが嘘吐くことを、養育者としてそうそう許容するわけに」
「ながいわ、蝕!」
――初めの初めで、すでに堪えきれなくなった上弦が叫ぶ。同意して、下弦もこくこくと頷いた。
「(○ω○)wwwww」
「いいすぎよ、下弦!!でもはげどう!!はうどうゆうどうだわ!!」
「うむ。………下弦はともかく、上弦の言い分もわからなかったの、今は……」
吾は軽く、目線だけで天を仰いだ。これでいて一応、躾けの最中なのだがのう……まったく通じておる気がせん。養い子相手にもよく思うことではあるが、子育てとはむつかしいものよのう………。
とはいえこの年頃の童べなんぞ、そんなものだ。ましてや眷属ともなれば、力を振るって押さえつける必要もなく、自ら場に留まっているだけでも手間がない、御の字というもの。
そしてまあ、――これがもっとも重要なことなのだが。
養育者として避けえぬにしても、説教はする吾も面倒だ。
「うむ、つまりな」
利害の一致というもので諸々を端折ると、吾は二匹を膝に抱えたまま、懐から菓子袋をひとつ、取り出した。
「言っても、いかんことはいかんので、仕置きをする。そういうわけでこの、すっぱからむーちょニガイおしおき味:激甘辛すっぱハニーハバネロレモンを、見よ」
「『見る』だけなの?!食べさせないの?!」
「Σ((((;○ж○))))」
驚愕する二匹に、吾は眉をひそめた。確かに仕置きと言うなら、食わせるべきじゃろう――が。
以前、口にした味を舌に甦らせつつ、吾は首を横に振った。
「童べのそなたらには、過ぎる味じゃ。いくらどうでも健康を害す。しかし仕置きなので、見ることは見よ」
言いながら、二匹の手に菓子袋を渡す。素直に取ったものの、幼い二匹の手は珍しくも、ぶるぶるわなわなと震えていた。
うむ。――どうやら強要するまでもなく、想像を絶するその味ぶりを想起し、目が離せないらしい。視線は食い入るようだ。
しかも全身随所に残るふわふわのキツネ毛は大きく開いて立ち、ふさふさの耳は反り返って、持ち上がった尻尾は天を突くが如くという、いわば臨戦態勢。
「食べたくないわ!まったく食べたくないわ!!でも見てると食べたくなるの!!むしろ食べないといけないキモチになってくるの!!」
「(((;゜Д゜)))」
「いいこというわね、下弦!まさにゴーモンよ!!蝕のオニカミっ!」
「否、吾はキツネじゃが」
神は神でも、吾を類するなら鬼神ではなく畜生神、さらに細かに分けるなら、狐神だ。
訂正してから吾は二匹へ――この様子では聞こえていなかろうとわかってはいたが――、改めて問いを放った。
「それでな、そなたら……現れて否やの第一声に『嘘だ』と叫びおったが、結局今回、なにが嘘で、どのような嘘だったのだ?そなたらもな、日和に従うのは構わぬが、せめても嘘を吐いてから『嘘だ』と宣言してくれんものかのう………」