joker loves a saint

いつも通りの時間に、カイトは託児室へとがくたんをお迎えに行った。

がくたんはなぜか、託児室の玄関に正座してカイトを迎えた。

「ええと、がくたん……」

きりりと迎えられたカイトは、軽く天を仰ぐ。

確かにがくたんは、幼いながらもサムライの気質を持った、並外れて礼儀正しい子だ。しっかり者で、大人びている。

そのせいかどうかはわからないが、同年代の子供と比べても難しい言葉を操るし、滑舌もわりとはっきりしているほうだ。

そしてそのがくたんが、正座してカイトを迎えた。背筋をまっすぐぴんと伸ばし、拳は膝上という――

「あの、がくたん。カイト、なにか……」

幼子と目線を合わせるべく腰を落とし、膝を抱えて座ったカイトはてへへと、誤魔化し笑いを浮かべた。なにかやらかしちゃったかなと、すでにばっさばっさと全力で白旗を振っている。

「うむ、かいちょ……」

微妙なところに自信のない保護者に対し、根拠不明の絶大なる自信を漲らせる幼子は、重々しく口を開いた。

「きょうがどういう日であるか、せっしゃも理解せぬではないでごじゃる。シャレのわからぬイシアタマとなるつもりもないゆえ、ひとがいかようにふるまおうとも、咎めだてする気はないでごじゃる。しかしてひとはひと、せっしゃはせっしゃ」

「ん今日………四月、の……いちんち……だっけ………?」

非常に堅苦しく長ったらしい演説をぶつがくたんに、カイトはきょとりと瞳を瞬かせた。

言われて巡らせる、『今日』という日付と、そこに付随する意味――

ぼやぼやと記憶を漁るカイトに構わず、がくたんはきっぱりオトコマエに宣言した。

「いたじゅらは良いでごじゃるが、ウソはだめでごじゃる万人がどう思おうと、せっしゃは己の節を曲げず、きょうがなんであろうとも、けっっっして決して、ウソなどつかぬでごじゃるかいちょっ!」

「はいぃっ?!」

撓る鞭のようにぴしりと呼ばれ、カイトは反射的に背筋を伸ばした。応える声は完全に裏返って、疚しさをこれでもかと主張している。

前にするのは幼子だ。しかし関係ない。いや、むしろ幼子相手であり、己が大人であればこそ――

疚しい大人へ、未だ義の世界に生きる幼子は、信じる強さで言い切った。

「えいぷぃうーゆであろうと、かいちょはせっしゃの嫁、せっしゃはかいちょの婿でごじゃるせっしゃはかいちょのことが、しんじつまこと、だいしゅきでごじゃる!!」

「がくたん………っ!」

堪えきれずに背筋を走ったものにぷるりと震えて、カイトはふわふわほんわりと目元を染めた。

まったくもって、困ったちみっこだ。

ちみっこのくせに漢気に溢れてオトコマエでイロオトコで、カイトは頻繁にときめかされてしまう。相手はちみっこちみっこちみっこと、なにかの呪文のように常に唱えて自制していても、がくたんはカイトの思惑など簡単に超える。

軽く超えて格好良くて、カイトをめろめろきゅんきゅんの、トリコにしてしまうのだ。ちみっこのくせに。

こんなことでは、将来が危ぶまれる。きっとモテてモテて仕様がないし、カイトはもっともっとときめいて――

「もう、がくたんったら……」

カイトはとろんと蕩けた甘い瞳で、若武者のごとき様相のがくたんを熱っぽく見つめた。ふんわりと、笑う。

「っていう、ウソ?」