思わずがっくりくる変柄下着を穿いた受け子、つまりは十六夜を見て、萎えよと。萎えさせたるわと。

笑止という。

綿帽子

たかが下着の柄がおかしい程度で、挫けるような俺の十六夜への思いではない。そんな程度の脆弱な思いで、ひとの身で神を口説いたりするものか。

いや、違うな。そうじゃない。敢えて言おう。

そんな貧弱な覚悟で、『十六夜を』口説き続けたりするものか。

なにしろ――

「えと。だって、ねだってこれ、ほら。ほら……ちっちゃいあなとおっきいあなが、こう、こう、こう……ねあって、んで、俺の頭には耳が………きつね耳が、あって、ねね?」

性格的なものは、もちろんある。さらに寝惚けているというのもあるが、もとからひとの言葉があまりうまくなく、たどたどしいしゃべりの十六夜だ。

しかも今は焦りから、いつも以上にどもりどもりのつっかえつっかえで、正直、言葉を拾うのは大変だ。

大変だが、まあ、言いたいことはわかる。わかったうえで、主として答えるならばだ。

「自分でも、己が間違っている可能性に気がついているよな、こなた」

「ぅううっ!」

とても淡々と指摘した俺に、十六夜は呻いて仰け反った。頭にぱんつを引っかぶったまま。

つまりだ。十六夜だ。

見た目こそ玲瓏と、美辞麗句をどれほど連ねても足らないほどの美貌だが、中身だ――

残念の一言に尽きる。所詮は神だよなと、そういう。

「だ、だって、みみ………みみが、ちょーどよく……っ」

柄など問題ではない。問題になどなるものか。たかが柄だ。たかが!

ぱんつを頭に被った十六夜は、本来なら足を出すところからふさふさのきつね耳を覗かせ、だけでなく、ぴるぴるぴるぴると激しく震わせて、その『ちょーどよい』加減を主張してくる。

念のために言っておくが、十六夜は変質者、特殊性向ではない。『ぱんつ』を知らなかっただけだ。

十六夜は古い時代の神だった。下着は存在していても、種類や形状として『ぱんつ』は生まれていない時代の。そこから昼寝してうっかり存在が消えかけるまで寝過ごし、→至る現代。

しかしそこを加味することなく、コレ着てのひと言だけでぱんつを渡され、結論――

どうして結論を出す前に、俺に相談しなかったのか。

確かにこれ以上なくぴったりと、大きなきつね耳がきれいに覗いているが、だからぱんつだ。下着だ。

『下』着だ。

大事なことなので二回言うが、しかし言葉を真実と成すためにも、俺はあえて三回言おう。

ぱんつは下着だ。頭に被るものじゃない。

「往生際が悪い。あといつまで被っているつもりだ、ぱんつ」

あくまでも、とても淡々と静かに問う俺に、十六夜はがっくりと畳に手をついた。図らずも土下座だ。かわいそうだが、ぱんつを頭に被った状態を容認するわけにはいかない。

情愛は情愛として、俺には主として、式神たる十六夜を躾け、もしくは正しい方向へ導く義務がある。

項垂れる十六夜はしかし、頭からぱんつを取ることはなかった。耳とともに震える声で、血を吐くように呻く。

「ちょーどっ……ちょーど、よいのでありますぅっ………!」

「敬語?!しかも三等兵化だと?!そこまで気に入ったのか?!」

叫んでから、俺は皺の深まる眉間に手を当てた。ここまで気に入ったものを、どうやって取り上げたものか――

そう。

ぱんつの柄が変だから、なんだ。甘ったれるなと言うんだ。

ぱんつを下着と理解し、下着として正しく着用しているだけで、もはやなにひとつとして問題などない。

そうじゃないのか?