着衣水泳溺れ気味
ベッドに正座して、カレンダーにつけた赤丸とにらめっこ中の俺、郷田聡くん、あだ名は小学校から変わらずジャ○アンです。
まあそれはともかく。
もうすぐ達樹の誕生日なんだけど、俺はものすごくあげたいプレゼントがあります。
それはあれ、からだをリボンでぐるぐる巻きにしての、
『プレゼントはア・タ・シ★』
あげてえええええ!!
付き合って初めての誕生日プレゼントなんだよ?!これ今やらないでいつやんの?!
――ただ、問題は、あげるのが達樹ってことなんだよね…。
いや、達樹以外にあげたい俺じゃありませんよ?
でもですね、あの達樹さんに。
このおちゃめ★なプレゼントをあげて、どういう反応が返ってくるかっていう。
考えられる可能性その1。
『達樹、誕生日おめでとう!プレゼントは、お・れ・だよ★』
『――』
無言で背を向けて去っていく達樹。
「って、無言?!ちょ、ここまでやったんだからなんかもっと反応して!」
考えられる可能性その2。
『達樹、誕生日おめでとう!プレゼントは、お・れ・だよ★』
達樹が冷たい顔で拳を固める。
『ふざけろ』
で、ミゾオチに拳。
「痛いよ!なんでそうやってすぐ暴力に訴えんの?!」
考えられる可能性その3。
『達樹、誕生日おめでとう!プレゼントは、お・れ・だよ★』
達樹のくちびるから、ふう、とため息が零れた。
『まさか今のこの時代になって旧時代の遺物とでも言うべき思考回路を発掘した現場に立ち会うとは思わなかった。阿呆が阿呆を極めると最早笑うことすらできなくなるという好例として阿呆の学会にレポートを提出しろ』
頭が痛い、という顔で額を押さえ、達樹は一息に言ってのけた。
「そんな渋面!しかも長々と罵倒!ちょっとくらい笑ってくれても!」
考えられる可能性その4。
『達樹、誕生日おめでとう!プレゼントは、お・れ・だよ★』
『ははははははははははははははははははははははははっ』
達樹は腹を抱えて大笑いしながら、ごろごろ転がってる。
「大爆笑…っ。いや、それもそれで普段見られないからかわいいけどっ。でも、もちょっとこう、愛でてよ!」
考えられる可能性その5。
『達樹、誕生日おめでとう!プレゼントは、お・れ・だよ★』
ちょっときょとん、とした達樹のほっぺたが、ほんのりピンク色に染まった。
『この阿呆。…かわいいことするな』
はにかみながら、デコをこつんと小突かれる。
「あ、いい感じ!もうちょっと進め!」
考えられる可能性その6。
『達樹、誕生日おめでとう!プレゼントは、お・れ・だよ★』
びっくりした顔の達樹が、真剣な瞳になって俺を見つめる。
『聡…本気にするぞ?いいのか?』
「本気にしていいに決まってんじゃん?!なんかあともう一押しな気がしてきた!」
考えられる可能性その7。
『達樹、誕生日おめでとう!プレゼントは、お・れ・だよ★』
達樹が、ふっとシニカルな笑みを浮かべた。
『聡…いい覚悟だな。もらっちゃうからな?』
「きたきたきたきたきたっ!もらっちゃって、もらっちゃって?!」
考えられる可能性妄想その8。
『達樹、誕生日おめでとう!プレゼントは、お・れ・だよ★』
欲情に瞳を潤ませた達樹の顔が近づいてくる。
『もう我慢できない、聡…おまえの全部を俺のものにする』
俺のからだに巻かれたリボンが、するすると解かれていき――
「ありだ!!」
「ねえよ」
「痛ぇ?!」
否定の言葉とともに後頭部にチョップが落ちてきた。勢い余ってベッドに埋まる。
って、は?
「は、達樹?え?いつ来たの?つか、いつから聞いて」
「今。おまえが阿呆面で『ありだ』って叫んだとき。とりあえず否定しとかないとと思って」
わけもわかんないのに、とりあえず否定!さすがだよ達樹、俺への信頼のなさが半端ないわ。
「なに考えてたか知らないが、それはなしだ。可能性の欠片もない」
「知らないでそこまで否定するってどうなの?!せっかく達樹の誕生日プレゼント」
「あ、いちご大福」
は?
「いちごだいふく?」
「この間テレビで見たんだ。いちご大福っていうのがあるんだと。食ってみたいからそれ」
確かに達樹さんはいちご味のお菓子が大好きだけど。
「た、誕生日プレゼントですよ?」
「そうだろ?中一んときがいちごガムで、中二がいちごキャンディ。中三がいちごチョコ」
わあおぼえててくれたんだーかんげきー。
じゃなくて!
「付き合って初めての誕生日だよ?!なんかもっとグレードアップしたもん要求してよ?!」
「だからグレードアップしてるだろ?今までのはコンビニでついでに買えたけど、今度のはデパートとか和菓子屋とか、わざわざ出かけてって買うものだから」
達樹はごく真面目な調子。茶化してるとかそういう感じ一切なし。
でも達樹、いちご大福ってコンビニで売ってる。和菓子屋さんとかデパートとか行っても、かなりリーズナブル価格で。
つか、グレードアップしてそれって。
「達樹…世の中には悪い大人がいるんだからね。いちご味の新しいお菓子をあげるって言われてほいほい後をついていくと口ではとても言えないあれやこれやなことをされた挙句に骨までしゃぶられて街の片隅に捨てられるよ?」
「どういう飛躍だ?!」
俺は本気で達樹の将来が心配になりました。
こんな無欲で、しかも天然で、どうやって世間の荒波を渡っていくつもりなのさ。
ここはやっぱり、奥さんが内助の功で支える場面?
つうことは、贈るべきプレゼントはリボン巻き俺ではなく。
「婚姻届?」
「――どこに飛躍した…?」