くすう、くすう、とのん気ったらしく寝息を立てて、十六夜が縁側で寝ているのを発見。

日課にしている神社のお掃除も終わって、日なたの気持ちよさに負けたのね、きっと。

眠り姫

「…んんーん」

ボクは小さく唸って傍らに座ると、そんな十六夜をまじまじ眺める。

お布団も敷かずに板の間にそのまんま転がって、いかにもゆるんでますって感じ。

けいかいしんかいむだわ。

「(-.-)」

「そうね、言うとおりよ」

信頼されてるってことだから、よろこんでもいいのはわかるわ。

でも、こうまで警戒されないと、それはそれでそそられるのがボクたち眷属ってもののイケナイ性よ。

「顔にラクガキは定番過ぎてタイクツだわ」

「(+_+)」

「そうね、しかも朔にこっぴどく怒られるわね」

まあ、どんなイタズラしても、それがイタズラである以上、朔は怒るわね。

だってあの子、十六夜にぞっこんべた惚れなんだもの。

でも、そんな朔もぎゃふんと言うようなイタズラがしたいわ。

いいえ、してこそ眷属の誉れってやつよ!

「(-.-)」

「あら?」

そう熱く語ると、下弦が唐突に立ち上がった。ボクを置いて、てってってーと庭に降りる。

境内の隅に植えられている花盛りのツツジのところへ行くと、落ちた花を拾い始めた。

「なにしてるのよ?」

ボクも下弦の後を追う。

下弦は前掛けを広げて、花を集めている。それも、あまり傷んでいなくてきれいなものを。

「(+_+)」

「…それは、確かに…。おもしろそうじゃない」

下弦のアイディアに、ボクもきれいな花を拾い集める。最近は雨も降っていないから、楽な仕事だった。

「これくらいでいいかしらね」

ボクと下弦は前掛けいっぱいに花を集めると、大急ぎで縁側に戻った。

十六夜は寝たまま、起きる気配なし。

本っ気でけいかいしんかいむね!

ゆるみ過ぎだわ。

「…」

「(・.・)」

ボクは下弦と顔を見合わせ、むふふと笑うと、前掛けいっぱいに集めた花を十六夜の周りにばら撒いた。

「ねむりひめね!」

十六夜は極上の美人だから、こうやって花をばら撒いた中に寝ていると、お姫様度が三割くらい増した感じ。

立派なオスなんだけどね!

うん、このお遊びはおもしろいわ。なによりも、素材がいいってことは、飾り甲斐があるってことよ。

そう、飾り甲斐があるってことは…。

「ねえ、下弦?」

ボクは楽しいお遊びを思いついて、わくわくしながら下弦の手を引いた。

***

「…やるじゃねえか、狛ども…」

うたた寝の合間に、唸る朔の声が聞こえる。

「まるきり眠り姫だの。ようもまあ、ここまで飾り立てたものよな」

蝕が呆れたようにつぶやく。

ぱん、と朔が柏手を打った。

「よし。狛どもにはおやつに五目稲荷を炊いてやる!」

やったあ、聞いた、下弦五目稲荷よ、朔の五目稲荷よ!

たっぷり遊んで、そのおやつが大好物だなんて、しあわせ絶頂だわ。

「そこまで気に入ったか、朔よ…」

蝕がほとほと呆れ果てたという口調でつぶやく。

あら、余計なこといわないでよ。五目稲荷がなくなったりしたら、ボクたち泣くわよ。

「おまえたちも全力で遊ぶものよのう。童べとはかくいうものの見本だの」

蝕の声がすぐ近くでして、瞼がぺろりと舐められた。

あらやだ、褒められたわ。

できれば舐め返してやりたかったけれど、眠くて瞼が持ち上がらない。

だってひなたぽかぽか、気持ちいいのよ。寝ないなんてうそだわ。

それでもせめて、しっぽだけぱったんぱったん振る。

むふふ、と笑みにゆるんだくちびるに、蝕がそっと触れていって、ボクはますますしあわせな気分。

蝕が下弦にもご褒美を呉れて、下弦の気配もむふふに緩む。

ボクは夢の中で下弦と手を取り合って飛び回った。

起きたら五目稲荷よ、下弦!