「おお、九重。息災だったか、じじい。て待て。それは仔猫だな?なんだと貴様、じじいの分際で子を孕ませたのか?!」

そとで朔がさわぐ声がきこえて、俺は部屋から顔をだした。

独占欲

「わあ、こねこいっぱい!かわいい!!」

縁側に腰かけた朔のあしもとに、こねこが五匹もいた。そばには、おとうさんらしい大きなねこの姿。

歓声をあげてでていくと、朔がうれしそうにこねこをつまみあげた。

「十六夜、ねこは好きか」

「うん!」

ねこっていうか、こどもが好き。だってみんなきらきらぴかぴかしていて、すっごくかわいいんだもの。

そばに座ると、朔は俺のひざにこねこをのっけてくれた。

「ふわふわ!」

「そうだな。ねこの毛はだいたいふわふわだが、このくらいのときは格別だ」

朔は五匹のこねこをつまんでは俺のひざと自分のひざにのっける。親ねこのほうは、警戒するでもなくのんびりした感じでそれを見守ってる。

さっきの感じでもそうだし、ともだちなのかな。

ひざの上でもにょもにょするこねこを、いいこいいこってなでる。

指ざわりふわふわすべすべで、もう、たまらない心地。

「じじいの子だとわかっていても癒されるな。仔猫の魔力は恐ろしい」

とろんととろけた声で、朔がつぶやく。

きりりと引き締まった表情が、言葉どおりにほわわんとゆるんで、やわらかくなって。いっつもおとなびた顔が、年相応のこどもらしい無邪気さに輝く。

「このふわふわとか、ずっと触っていたくなるなあ」

「…」

うん、俺も。

俺も、ずっとさわってたくなる。

ん。

だけど。

しっぽと耳が、ぱたぱたぱたぱた、落ち着きなくはためいた。

ひざの上のこねこが、落ち着かない空気ににゃーにゃー鳴く。

親ねこが、じぃっと俺を見た。

ううん、ううん、ちがうんだ。別に、わるいこと考えたわけじゃないんだ。いじめたりなんかしない。しないけど、けど!

「さ、朔!」

「うん?」

うっとりぽわわわん、とこねこをなでていた朔が、大きな声を上げた俺をおどろいたように見る。

俺は、ずずい、と身を乗り出した。

「ね、ねこよりきつねのほうが、しっぽ、ふわもこなんだよ!」

「…応?」

朔がきょとん、と首をかしげる。俺のしっぽが、嵐をまきおこすくらい激しくはためいた。

「俺のしっぽだって、ふわふわもこもこで、ずっとさわってたくなるよいやされるよ!」

「…」

いっしょけんめい言い募る俺をじっと見ていた朔が、ぶはっと吹き出した。こねこをひざにのっけたまま、縁側に転がって笑う。

「ヤキモチか、十六夜!」

笑いながら言われて、俺は真っ赤になった。

「そうだよ!」

はずかしいはずかしいはずかしい!

こんな、こんな生まれたての赤ちゃんたちにヤキモチ焼くなんて、どうかしてる。

でもでも、朔があんな夢中になって、俺のこと忘れたみたいになるから。

我慢できなかった。

「…つまり、しっぽをなでられても我慢すると?」

「する」

「どう触られても、いいこにしていると?」

「する!」

しっぽをなでられると、ものすっごくくすぐったい。腰がもぞもぞしちゃって、ちっともじっとしてられない。ヘンな声を上げてのたうちまわりそうになる。

だから普段は、あんまりさわらせないんだけど。

ほとんど必死になってうなずいた俺にまた笑って、朔は俺のひざの上にいたこねこも自分のひざにのっけた。

小さいちいさいこねこだけど、小さい朔のひざは五匹ものっけると満員御礼だ。ちっともじっとしてないから、落ちかけては朔に拾われている。

朔はちょっと息を吸って吐いて、もにょもにょしているこねこたちの上に、ふうっと吹きかけた。

「九重の血に属するこなたらに、幾久しく幸いあれ」

息にのせて祝辞を上げると、一匹ずつていねいに地面に下ろす。そして、じっと見ている親ねこに、にんまりと笑いかけた。

「どうだ九重、うらやましいか。十六夜はかわいいだろう!」

親ねこは、あきれたみたいに頭を振った。

あうう。無事に生まれたこねこたちの幸いを祈って、祝福をもらいに来た親御さんにみっともないとこ見せちゃったよう。

はずかしいはずかしいとしっぽを振り回す俺に、きらきらした目の朔が向き直った。

「触ってもいいんだったな?」

「あぅ。はぃい……」

俺がまいた種です。

俺は緊張にぴんしゃんと背筋を伸ばして、朔の手を待った。

朔はもう、それはそれはたっぷりと、俺のしっぽを堪能しました。どっとはらい。