白玉団子と、ふかしたサトイモを三宝に乗せて供え、近所の空き地に生えていたススキを飾る。
それらを持って縁側に行くと、思いおもいに座って夜空を眺めた。
もちろん、十六夜は俺の隣だ。
お月見キツネなに見て跳ねる
「うん。今年の月も美しいな」
つぶやくと、隣に座った十六夜のしっぽが同意するように、ゴキゲンにぱったんぱったんと揺れて床を叩く。
俺は白玉団子をひとつ取り、口に放りこんだ。
うむ。さすが俺。絶妙の味加減。
「十六夜も食えよ」
「うん、朔」
促すと、しっぽがさらにぱったんぱったんと床を叩いた。
そうか、うれしいか。
俺はのんびりとした気持ちで月を眺める。
うむ、和むな。
ゆえに俺は、ここに至るまでに掛けさせられた、月見の用意のためのあれやこれやの労力をすべて水に流して、許容してやろう。
俺は実に寛容だ。
「あのね、朔」
団子を食べ、ふかしたサトイモも食べた十六夜が、月に負けないきらきらの笑顔で俺を見る。
「おつきさま、ほしい?」
「っごふっ」
「あらいやだ、しっかり、蝕」
「(-_-)」
蝕がサトイモを吹き出し、その膝の上にいた狛共がおもしろそうに背中を叩く。
咳きこみながらこちらを見た蝕は、壮絶になにか言いたげにしていた。
緊張に、いつもだれている耳としっぽが、ぴんと立っている。
「そうだな」
俺は頷いた。
欲しいかと問われれば、欲しいとも答える。
とはいえ。
「だが案ずるな、十六夜。欲しい欲しくない以前に、月はすでに俺のものだ」
「ごふふっっ」
蝕がさらに噎せる。うるさい養い親だ。
十六夜のしっぽが、ぱたたん、と床を叩いた。
「そうだったんだ………!!」
「(゜▽゜)」
おそらく、「そんなわけあるか!!」と叫ぼうとしただろう蝕と上弦の口を、下弦が塞ぐ。
そうだ。余計なことは言わぬが華だ。
「朔、今度、おつきさまの御殿につれてってね」
きらきらの笑顔で言う十六夜に、俺は鷹揚に頷いた。
「気が向いたらな。こなたの主は気まぐれだ」