「菓子をやるから悪戯するが良いっ、朔坊っっ!!」

「ほとんどすべてが間違っているぞ、黒点っっ!!」

きっらきらに顔を輝かせてかけよってきた黒点に、朔は引き気味ながら力いっぱい叫んだ。

悪戯小僧×菓子

黒点は、ボクたちの棲む六所神社と、街をはさんで向かいの山にあるお寺、鹿曜寺が守護尊:旱-ひでり-さまの眷属で、いつもは落ちついた黒曜の着物に身を包んだ、オトナの女。

でも今日は、黒いとんがり帽子をかぶって、肩にはちいちゃい外套をひっかけ、おへそと腕がむき出しのぴったりした上衣と、ほとんどなんにも隠せていないくらいに短い、ひらひらの洋袴姿だった。

足にはごていねいに、さきっちょの尖った長靴。

そして背負っている、白い大袋。

まあ、なんていうか…………朔でなくても、ひとこと言いたくなるわね。なにかしら、全部がまちがっているわよって。

でも一部分、合ってないでもないとか、まちがい方がビミョウ。

それが、山を統べる大鹿の日女:旱さまを頂く鹿曜寺品質。

「いいか、黒点菓子をやるから悪戯するな、というのが本来だ!!菓子をやって、挙句に悪戯までさせてどうする?!」

きっらきらの期待に輝いて迫る黒点に、朔はセンセンキョウキョウで叫んでいる。

「(-.-)」

「そうね、下弦…………黒点だものね、鹿曜寺だものね………」

朔の言っていることは正しいけど、モンダイは相手が黒点だっていうこと。

案の定。

「しかし朔坊!!坊はまだ幼き身幼き身なれば悪戯三昧に過ごすが日常のところ、坊の日常は労働三昧ではないか。斯様な日くらい、存分に悪戯に振る舞い、たんまりと菓子を食せ!!」

「幼い言うなぁっ!!」

お決まりのセリフを吐く朔だけど、黒点は聞く耳持たない。

そもそも、黒点って鹿なのよね。キツネよりずっと、耳がちっちゃいし。

「…………おかし……いたずら………?」

座敷でくり広げられる「姉」と「弟」の攻防を見ていた十六夜が、ぽつんとつぶやいて首をかしげた。

千年単位で「おひるね」してて、最近の世事にうといとかいう以上に、行事を知らないのが十六夜品質。

「(-。-)」

「まあ、そういう言い方もできるわね。本人には言わないけど」

下弦の言葉に、ボクは口に指を当てた。

それから、きょとんとしている十六夜の着物を引く。

「おまつりよ、十六夜。こどもがオトナから、おかしをまき上げる日なの。おかしをあげないと、こどもはイタズラしていいって決まりがあるのよ」

「おかし………いたずら………」

ボクの言ったことをくり返して、十六夜は軽くしっぽをふった。

「人間のおまつりって、ほんとよくわかんない…………」

ちょっとだけへちゃんと耳を寝かせて言う十六夜の膝に、下弦が乗り上がった。

「(゜Д゜)」

「えっ?!」

「<(`Д´)>」

「ぁ………っ」

下弦にいいようにそそのかされて、十六夜はぽぽっと頬を染めた。

そもそも、頭の中身はともかく、見た形は極上のつくりなのが十六夜。

途端にアヤシイ雰囲気満開になりながら、ふらふらと朔の元に向かった。

「…………下弦、あんたってほんと、オソロシイ子ね………」

「(@◇@)」

「そうね、眷属のカガミだわ、下弦………」

寄りそって見守るボクたちの前で、朔のところに行った十六夜は、へちゃんと座りこんだ。

身を屈めて下から朔をのぞきこんで、両手を組むとにっこり笑う。

「ね、朔………いたずら、して?」

「っんがっ?!」

上目遣いでねだられて、朔は引きつりながらのけぞった。

その朔へと身を乗り出して、十六夜はますますうっとりとした笑顔になる。

「ね、朔………おねがい。いたずら、して俺、朔にいたずらしてほしい………」

「い、十六夜、こなた……っなにを言っているか、わかって」

わたわたして後ずさる朔に、十六夜はぐいぐいと迫る。

「朔………おねがい。いっぱい、いたずらして………」

「………っっ」

ぐらんぐらんに魅了されている朔の肩を、後ろから黒点ががっしりとつかんで、逃げられないようにした。

真剣に朔の顔をのぞきこんで、こっくりうなずく。

「朔坊。如何に童べといえ、こうまで強請られて応えぬでは漢ではない。坊はまだ幼いが、漢と成って来い」

「ぅ、ぁああ」

力強い「おねぇちゃん」の言葉に、朔は目を回しながら十六夜を見た。

応えて十六夜は、うっとりと笑う。

「して………?」

「(>v@)☆」

「…………………下弦、あんたってほんっとーに、オソロシイ子だわ………」

震撼してつぶやくボクに、下弦はご満悦笑顔を閃かせた。