「(・o・)」

「え、ちがうわよ、下弦『うだいじん』なんだから、右でしょ?!」

地獄の大王であるエンマから贈られた、おひなまつりのための、ゴウカ七段ひなかざり。

いちばん肝心の、おひなさまとおだいりさまを飾るとこで、ボクはめずらしくも下弦とケンカになった。

つまり、おひなさまとおだいりさまは、どっちが右で左かってことなんだけど。

左橘右桜

「(-_-)」

「えええ?!右ってこっちよ左がこっち!」

「←\(゜ロ\)(/ロ゜)/→」

「え、ちょっとぉお…………っ?!」

いっつもしっかりものの下弦なのに、どうしてかボクと『みぎひだり』が合わない。

ボクが『右』だっていうほうを『左』だっていって、『左』を『右』だって。

そもそも、下弦と意見が合わないってことがほとんどないから、ボクは自分が正しいってきっぱりいうこともできないで、ほとほと困った。

こういうときは、神頼みってやつよ。なにしろボクたち、神様の眷属だし!!

というわけで。

「十六夜!!どっちが右で、どっちが左?!」

「←\(゜ロ\)(/ロ゜)/→」

十六夜の前に正座して、ボクと下弦は飾り途中のひな壇をびしいっと指差した。

十六夜にとっては、はじめてのおひなまつりで、ひな飾り。

そばにちょこんと座って、ふしぎそうにかざりつけを見ているだけだった十六夜は、ぱったんとしっぽを振った。

両手のひらを出してしばらく眺めると、困ったように笑う。

「えっと……………みぎって、………どっち?」

「(-。-)」

――ええっと、うん、そうね。下弦のいうとおりだと思うわ。

たぶん、訊き方が悪かったのよ。

さっきもいったけど、十六夜はひなまつりもはじめてなら、おひな飾りもはじめて。

『おひなさまとおだいりさまを右と左のどっちに置くか』訊かれたって、答えられない。

そうじゃなくて、ボクと下弦が訊きたいのは、もっと根源的な『右左』。

「えっと、十六夜。このひな壇のね、『右』っていうのは、『向かって右』なのかそれともっていう」

「(゜-゜)」

「あ、うん、えっと」

訊きなおしたボクと下弦に、十六夜はまた、自分の両手のひらを見た。ぱったんと、しっぽが畳を叩く。

ややしてにこっと笑うと、十六夜はとってもかわいらしく首をかしげた。

「えっと…………みぎって、どっち?」

「…………」

「(+_+)」

しまったわ。

数が数えられない時点で、この結果も予測してしかるべきだったのに、ボクたちのおばか。

細かいことを気にしない神様は、基本こまこまと数を数えないし、右と左の区別も――

ボクと下弦、十六夜は、どうしたらいいかわからないビミョウな沈黙に捕らわれて、しばらく見合った。

そこに、この社のもう一柱の神様である蝕が入ってくる。

「どうした、固まって。早う飾りつけんと、閻魔が来てしまうぞ」

「蝕………」

「(・_;)」

ボクと下弦は反射で立ち上がって、すがるように蝕の足元に行った。

蝕はいつものようにボクと下弦を抱き上げてくれて、ちゅっちゅって、おでこに口づけてくれる。

「でなにが問題じゃ?」

「えっと、あのね、蝕。その………あのひな壇に飾るとき、『右』にものを置くっていったら、どっちのこというの?」

「(>_<)」

「はみぎ?」

蝕はヘンな顔になって、ひな壇を見た。それから、ボクたちを。

……………………蝕も、神様なのよね。それも、十六夜とおんなじ――

立ったまましっぽをぱたぱたさせていた蝕だけど、座敷を見渡して、もう一度ひな壇を見て、腕の中のボクたちに視線を戻した。

ボクたちを抱っこしたまま、すたすたと座敷を歩くと、ひな壇の前に立つ。

「なにがなにやら、ようわからんが………要するに、姫雛と内裏の置き方で悩んでおるのだろうだったら、今、吾が上弦を抱いている腕のほうに内裏で、下弦を抱いている腕のほうに、姫雛じゃ」

「ほえっ」

「(@_@)」

びっくりきょとんとして、ボクと下弦は顔を見合わせた。

蝕だって、神様だわ。それも、きょとんぽかんとして見上げてる十六夜とおんなじ――

「えっと、蝕…………『みぎひだり』って、わかるの?」

「←\(゜ロ\)(/ロ゜)/→」

とまどって、思わずとっても失礼な訊き方をしたボクと下弦に、蝕は明るく笑った。

「正確にはわからん。わからんが、どっちをどっちという話なら、吾はそなたらを抱いている腕が基準だ。それで不自由もないぞ?」

「(-.-)」

ええ、そうね、下弦……………いいこと言うわ、あんた。

やっぱり、さすがはボクの相棒よ。

「愛って偉大だわ………!!!」