ぴくぴく、ぴくぴく。

ぴくぴくぴくぴくぴくぴくぴくぴくぴくぴくぴくぴくぴくぴくぴく…………

はるけがわ

「ぅく………っっ!!!」

俺はぎゅううっと、しっぽを抱えた。

むずむずなんかしてない。

むずむずなんかしてないんだ。

むずむずなんかしてないしてないしてないしてないしてない…………

「し、してないったら、してないぃい……………っ」

ぎゅううっと抱いていても、しっぽはぴくぴくぴるぴるする。しっぽだけでなく、耳も。

ぷるぷるぷるぷるしてしまう。

でもムシ。

してないの。

してるけど、してないの!!

「十六夜…………」

「ひぃっ、朔っ!!」

いつもなら、呼ばれるとうれしくって、ぴょんこと跳ねたくなる、朔の声。

でも今日の俺が上げたのは、悲鳴だった。

しっぽをさらにぎゅううっと抱いて、おそるおそると振り返る。

座敷の入り口に立つ、ちっちゃなちっちゃな朔――の、手には。

「さ、朔っ!!だ、だいじょぉぶだよっ!!俺、むずむずしてないっ!!むずむずなんかしてないからっ!!」

叫びながら、俺はじりじりと後ろに下がる。

「十六夜……………」

その俺に、朔は深いふかいため息をついた。

「いっそもう、涙ぐましい努力ぶりなんだが………」

「さ、朔………っ!」

お願いおねがいおねがい。

俺は緊張にぴんと耳を立てて、ぷるぷるするしっぽをいっしょけんめーに押さえこんで、朔をじーっと見る。

じーっと、じーっと。

お願いおねがいおねがいおねがい………………

「………俺もな、こなたに無体を強いたいわけではない。それはわかるか?」

「わ、わかるよ!」

静かにしずかに言われて、俺の目にちょっぴり涙が浮かんだ。

わかってる。

朔は俺をいじめようとしているんじゃない。

ううん、むしろ助けようとしてくれてる。

でも、でも――

朔が一歩、座敷に入った。

「十六夜」

「ぅ、や、やだっ………朔、俺、ほんとにまだ……!」

「十六夜!」

「ひぅうっ!」

びしりと厳しく呼ばれて、俺はかっちんと固まる。

いつもやさしく笑ってる朔がとっても厳しい顔で俺を見て、手に持ってるクシをびしっと突きつけてきた。

「いいから毛梳きをさせろ!!無駄な抵抗をするんじゃない!!!」