手慣れた動きで、服が脱がされる。

しかし色っぽさとは無縁だ。どちらかといえば、事務的。

おふろ時間

「………別にいいですけどね………いいですけどね………そういう、ドウブツ的な扱いというか……」

「わけのわからん自家発電を始めるな」

脱衣所で服を脱がされつつ、妙なつぶやきを漏らす那由多に、鷹秋はきっぱりと釘を刺す。

そうやって釘を刺しつつ、自分の服も脱いだ。

「………相変わらず、筋肉質………」

剥きだされた肉体を眺め、那由多はため息をこぼす。

もう少し、贅肉をつける気はないだろうか。もしくは鍛えるのをやめて、だらしなく肉を垂らすのでも構わないのだが。

いや別に、筋肉質でもいい――その鍛えられた筋肉を存分に使って、いじめてくれるというのなら、むしろ大歓迎だ。

しかし鷹秋は決して、いじめてはくれない。ひたすらにやさしい。おかしい方向にだが、やさしい。

やさしい筋肉に、意味はない。それだったらせめて好みのままに、崩れた体であってくれれば、まだいいのに。

「あんたはまだ、骨が浮いてんな………もう少しきっちり食わせないとか」

「ぅぐ………っいえ、いいですけど…………無理やり口に詰め込まれ、フォアグラ用のアヒルのごとく生きるのも、それはそれで………」

「おかしな自家発電を始めるな。疲れてるのはわかっているから」

呆れて腐しつつ、鷹秋は床に座りこんで動く気配のない那由多を抱え上げ、バスルームに入った。

「……」

鷹秋の体は均整がとれて美しく、ブサイクの駄々崩れが好きな那由多の好みからは完全に外れる。

とはいえ、那由多の体は鷹秋に仕込まれ、開発されたというのも、揺るぎない現実だ。『躾』を施した体だと思うと、触れた瞬間にやはりときめいてしまう。

しかも、素肌だ。

「………たかぁきさぁん……」

「夜も遅いんだから、おとなしく洗われて、とっとと寝ろ明日も朝、遅いわけじゃねえんだから!」

「でも………んぷっ!」

文句を連ねようとした那由多の頭に、鷹秋は問答無用でシャワーを掛ける。全身をずぶ濡れにしたところで、シャワーを止め、代わってシャンプーを手に取った。

「んんっ、わっ」

「おとなしくしていろよ」

「……」

「わざと目を開けて、痛さを堪能したりするな」

「…………バレてる………」

先回りする鷹秋に、目を閉じて洗われる那由多は惜しそうにつぶやく。鷹秋は一瞬だけ眉をひそめたが、そこにあまり突っ込んで説教はしない。

下手に説教すると、いじめられたと歓ばれて、収拾がつかなくなる。

いやな感じに学習を重ねている鷹秋は、素早くシャンプーとコンディショナーを終わらせ、きれいに流しきった。

「よし……」

「……」

ある意味、もっとも緊張する場面を終わり、鷹秋は息を吐いた。那由多のほうは、口を噤んだまま、窺うように鷹秋を見る。

わずかに気を抜いた鷹秋は、スポンジを取るとボディシャンプーを垂らした。数回揉んで泡立たせると、座りこむ那由多を後ろから抱え、やわやわとスポンジを這わせる。

「………っんは」

「おかしな声を上げるな、体を洗ってるだけで!」

「ぁ、だって………ゃっ」

身悶える那由多を、鷹秋は強引に押さえこむ。全身をスポンジで撫でると、今度は手に直に、ボディシャンプーを垂らした。

その手が、那由多の反応しかけの股間に回る。

「ぁ……あ……っ」

「おとなしく洗われろ、あんたは……」

「洗って……るって………ぁあ、っふ……」

洗っていると主張する鷹秋だが、那由多には愛撫との区別がつかない。

ただ洗うだけなら、適当に扱けばいいはずなのに、鷹秋はしつこく、それも巧みに形をなぞり、襞の中にまで泡を擦りこむように手を這わせる。

「ぁう……んんぅ、っぁ」

泡だらけの鷹秋の手が回り、そのまま奥へと滑る。朝から弄られることもなく放っておかれた場所をやんわりと撫でられて、那由多は腰を跳ねさせた。

「おとなしくしろ。フケツだなんて噂が立ったら、仕事に差し支えるんだろうが」

「ぁ、ぁああ、はぁっ、んっ」

確かに、不潔だと噂になったら、二枚目俳優で売る那由多には致命的だ。

しかしいいだろうか――だからといって、ここまで丹念に確認するような相手が、どこにどれだけいるだろう。それも、表面だけならともかく、中まで見るような相手が。

那由多の仕事はあくまでも表側で、裏物への依頼は来ない。裸のシーンでも、股間には肌色のカバー下着をつけている。

だから、こんなところをそうも丹念に洗われる意味はない。

「ぁあ、んっ、あ、たか、ぁきさ……っ」

指が奥に入りこみ、中を掻き回す。朝から待って待って、ようやく得られた刺激だ。

那由多の腰は即座に跳ねて、指をきゅうきゅうと締めつけた。

「まったくあんたは、どうしておとなしく洗われることも出来ねえのか……」

「ゃ、ぁあっ、そこ……っぁ、は、ゃ、そこばっかり………っひ、ぃく………いっちゃぅう………っ」

ぼやきながら、鷹秋の指は的確に那由多を刺激する。疲れている体は堪えることも出来ず、あっさりと絶頂に押し上げられた。

「ぁ……っは………っ」

「………若いってのは、大変だな……」

「……いい加減、ほんとに自覚してくださ………」

疲労困憊して、那由多は愚図る。

鷹秋のつぶやきは、どこまでも違う。ずれている。

そしてちらりと見た股間がちっとも反応していないから、洗うと称してセクハラ、という、裏物でよくあるシチュエーションをやっていたつもりもないことも、はっきりわかる。

どこまでも脱力して、どこまでも項垂れたくなる。

「たかぁきさぁん………」

「風呂はさっさと終わらせて、さっさと寝る」

「こんな状態で寝るなんて、ぜったい無理ですぅ………っ」

無体にも無体な宣告に、那由多は思いきり愚図る。愚図るだけでなく、手を伸ばすと、おとなしくしんなりしている鷹秋のものを掴んだ。

「もっと奥まで………洗って………」

「ものは言いようだな!」

呆れたように言いながら、鷹秋は那由多の体を抱え直す。自分の股間から手を離させ、後ろ抱きにした。

「ぁ……」

「ほら、力抜け」

いろいろ言うが、仕事に行く前でもない限り、鷹秋はだいたい那由多のおねだりを聞いてくれる。

欲しいから強請っているから、くれるのはうれしい。

しかしそうも素直に甘やかされてしまうと、いじめられたい性癖が疼くのも確かで、妙な心地だ。

最近、この甘やかしが癖になりつつあるが、同時にいじめられたい衝動も変わらずあって、常に複雑なところを行ったり来たりしている。

「ちょっと待てよ」

言って、鷹秋は未だおとなしい自分を軽く扱いて硬度を持たせる。

那由多は振り向いて、卑猥な色形の鷹秋のものを熱っぽく見つめた。堪えきれず、舌がちろりとくちびるを舐める。

「んん……鷹秋さん、ごほーしさせて………」

「大人しくしろ、ご主人様」

蕩ける声で強請った那由多の手を払い、鷹秋は自分のものの硬さを確かめる。

一方、奴隷願望とともに生きているにも関わらず、『ご主人様』呼ばわりされた那由多は、げっそりとへこんだ。

鳥肌が立つくらい、いや過ぎる。

いや、別にいい。ご主人様呼ばわりされても構わない。

しかしそのときには尊大に、こちらのことなどまるきり『ご主人様』だなどとは思っていない声音で、嘲弄しながら呼んでほしいのだ。

なにひとつとして思惑もなく、ごく自然と『ご主人様』と呼ばれるのは、心にぐさりと来るいやさ加減だった。

「ぅうぐ………」

呻いて身を折った那由多は、しばらく悶々と唸り。

「……………新手の虐めの予感………!」

「なんでも自家発電に使おうとするな!」

そう結論することで精神の安定を取り戻した那由多に、鷹秋は呆れて叫ぶ。

もちろん、新手の虐めなどではない。もっと素直にごく単純に、こちらの言葉を受け止めてほしい。

思いながら、鷹秋は期待に震える那由多の蕾に指を這わせた。

「ぁ……っんっ」

石鹸で洗ったばかりの場所だ。指は抵抗もなく、ぐちりと水音を立てて鷹秋の指を飲みこんだ。

しかしそのやわらかさに満足する鷹秋ではなく、狭い場所が太い指に丹念に揉まれて愛され、さらにやわらかく解けるように促される。

「ゃ、ぁあ………たか、ぁきさぁ………ぁ、もぉ………入れて……っ」

「大人しくしろ。腰が立たなくなったら、明日の仕事に差し支えるだろうが」

「も、へーき……っ、へーきですからぁ………………ったかぁきさんの、くださいぃ………っ」

嬌声というより悲鳴じみてきた那由多の懇願に、鷹秋は小さくため息を吐く。

指を抜くと崩れる体を抱き上げ、自分の膝の上に招いた。

「ぁ……っあ、ぁ………っ」

膝の上に乗せついでに、自分で硬度を増した凶器を那由多の中に押し込む。

素直に飲みこんだ場所は、言葉どおりに切なくきゅうきゅうと締め上げて鷹秋を咥えこんだ。

「ぁあ……っふ………っ!」

朝から焦らされて焦らされて、ようやく手に入れた感触だ。むしろそれは快楽ではなく、安息にすら似ていた。

抱かれるままに鷹秋の膝の上に座って受け入れた那由多は、待ち望んだ感覚に思わず軽い絶頂へと達してしまう。

「ぁ……っふぁ…………っ」

「よしよし……」

震える体を、鷹秋はずっと抱きしめていてくれた。

そして震えが一段落したと見たところで、唐突に突き上げ始める。

「ゃ、ぁあ……っ、ぁ、ああぅっ」

絶頂の余韻は消えたが、粘膜が敏感に尖っているのは間違いない。

そこを容赦なく突き上げられて、那由多はひたすらに仰け反って鷹秋にされるがままとなっていた。

「ん、ぁ…………ったかぁきさんのぉ…………おっき…………ふとぃ……い、ですぅ…………っ、ぁあ、おしり、いっぱい…………っ」

切れ切れでもうれしそうにつぶやく那由多を、鷹秋は容赦なく追い上げる。

「ぁあ、あ、あ…………ったか、ぁきさぁ……っ」

疲れている那由多は堪えも利かず、再び絶頂を迎えた。

タイミングを見計らっていた鷹秋も、合わせて那由多の腹の中に吐き出す。

「ひぁ………っおなかぁ…………っあっつ……っ……………………」

さらに高みへと持ち上げられて、那由多の瞳が完全に浮いた。

次の瞬間には、仰け反っていた体が力を失って、がっくりと崩れる。

「…………やれやれ」

膝の上から落ちないように体を受け止めてやった鷹秋は、呆れたように嘆息した。

疲れ切った体は、立て続けの絶頂で限界を迎え、とうとう電池が切れたようだ。耳を澄ませれば、健やかな寝息が聞こえる。

鷹秋はまだ入ったままで、それが固いままだということは、この際脇に除け。

「…………ほんっとに手の掛かるご主人様だ」

つぶやいて、鷹秋はまず、那由多から自分を抜いた。そのうえで膝の上で姿勢を整え、中に放った自分の後処理をする。

起きているとこの時間もひゃんひゃん言う那由多だが、今は軽く体を震わせるだけだ。寝息が覚醒に戻る気配もなく、鎖された瞼が開く様子もない。

鷹秋は丹念に丹念に那由多の全身を洗い、満足したところでバスルームから出た。出たが、那由多は完全に寝落ちている。

タオルで水気を拭き取るのも鷹秋の仕事なら、パジャマを着せてやるのも鷹秋の仕事だ。

ぷちぷちぷちとボタンを嵌めつつ、鷹秋はふと思いついた。

「………俺は家政夫なのか子守りなのかで悩んでたが、もしかして介護職じゃねえか、これは……!」

――とはいえ、あまり楽しい思いつきでもなかった。

言ってはみたもののへこむばかりだったので捨て置いて、鷹秋は自分の支度も整え、床に転がって爆睡している那由多を抱え上げた。

ちょっとやそっとでは起きないとわかってはいるが、極力静かに、丁寧に抱く。

そして那由多の部屋に入り、昼間きちんと整えておいたベッドに抱えた体を下ろす。

横たえたうえで布団をきっちりかけ、肩まで埋めてやって、鷹秋は電気を消すと自分の部屋へと戻った。

「…………今日も一日、よく働いた」

布団に入って電気を消し、ぽつりとつぶやく。

一瞬後には、寝に入っていた。

そして、朝。

困惑とともに、鷹秋は己の傍らを見つめる。

ベッドから落ちそうな、ぎりぎりの場所。

いつの間に来たのか、どうして来たのかもわからないうちに、鷹秋の隣に那由多が眠っている。

「……………あんた、俺より先に寝たよな……?!」

つぶやくと、今朝も鷹秋は頭を抱えて懊悩した。