「話を聞け」

懸命に言った俺に、桂木はちょっと眉をひそめた。

「往生際が悪いな、いつものことながら。一応聞いてはやるが、結果は変わらないぞ」

「態度でけえよ背はちみっこいくせに!!」

いつものことながらというなら、そっちこそだ。

切羽詰っているせいでひっくり返った情けない声で叫んだ俺に、伸し掛かっている桂木は肩を竦めただけだった。

るーざふる・こんたくと

そう。

俺、葛野瀬は、同性である桂木に伸し掛かられている。はっきり言うと、俺の部屋で、俺のベッドに押し倒されている状態だ。

なにが悲しくてか、同性で同い年だが、身長差は十五センチ以上ある、このちみっこに。

いや、桂木がちみっこなのは、あくまでも身長だけの話だ。それ以外のところは、大きい。態度も、動作も、――アレも。

「ええい、すべてがみにまむちみっこだったらまだ、愛おしめるもんを………っ」

悔しさについ、つぶやく。

ベッド上で俺に伸し掛かったままの桂木は、ひょいと片眉を上げた。ああ、かちょいい。気障なしぐさが様になる男って、いるんだよなあ。

いや待て俺。そうやって頻繁に意味もなくときめくから、この状況が改善されない。

「あのなっ」

「ショタコンなのか、おまえ」

「は?!」

なにを唐突に、脈絡もなく。

ぎょっと瞳を見張った俺を、桂木は平然と見下ろす。立っていても座っていても、桂木が俺を見下ろせることなんかない。こうやってベッドに転がしてるときだけが、唯一の見下ろし⇔見上げポイント。

桂木は日本人の平均男性よりわずかに背が低いが、俺のほうも、平均より結構高い。

――で、その平均より背の高い俺を、軽々ベッドに転がして、押し倒して伸し掛かってしまうのが、桂木という男なんだがもう!

これが俗に言う『襲い受』ならまだ理解も及ぶが、違う。

桂木は、……………んがぁっ言えるかっ!!

悪食にもホドがある!

「なんで俺がショタコンだよ!」

叫ぶと、桂木はちょこんと首を傾げた。ぁああ、体がちっちぇと、こういう小動物みたいなしぐさがふっつーにかわいく見えるから、卑怯だ。

桂木はぜっっっったいに小動物でもないし、かわいげの欠片もないはずなのに。

「ちみっこだったら、愛しいんだろ普通、ちみっこのほうがいいってのは、ショタコン、小児性愛者ってんだ」

「ぁがぁああっ!!」

ショタコンならまだしも、しょうにせいあいしゃとかニホン語にされると、ダメージが計り知れない。

悶絶した俺に、桂木はさらにどんと伸し掛かってきた。

「で気は済んだか済んだら大人しくヤられろ。ああやれやれ、本当に寛大だな、俺は………ここまでやっておいて、まだ待てと言われて待つんだから。忍耐力の高さが天井知らずだ」

「自己採点高いにもホドがある!!」

ヤられろとか、もう少し言葉を選んで――とか言うと、際限なくアレな言葉が返ってくることがすでに経験済みで学習済みなので言わないわけだが、あああもう!

「いい加減っなっおまえ、俺のこと押し倒すんやめろよっおまえの身長は低いけど、それより低い相手だっているわけだし、なんでわざわざでかぶつの俺を押し倒すっっ」

伸し掛かってくる体をぐいぐい押しのけようとしながら訊いた俺に、ちみっこいくせにびくともしない桂木は、きょとんとした顔になった。ちょこんと首を傾げて――ぁああ、もう、体がちみっこいだけなのに、このしぐさがいちいちかわいいとか、卑怯過ぎてどこかに訴えたい。

桂木はそうやってカワイコぶったまま、胸を押す俺の手を取った。ちゅっと指先にキスして、咬みつく。

「ひゃんっ!!」

「……………………というわけで、全然まったく嫌がる素振りがさっぱりきっぱりと見出せないからだが」

「んなっにぃいっ?!」

今のはマチガイ!!ちょっと不意打ちされて、びっくりしただけだし!!

つか。

「問題はそこじゃねえだろなんででかぶつの俺をわざわざ押し倒すのかって」

「好きだからだろう」

「っ」

桂木は平然として言う。

躊躇いも衒いもなく、迷いもなんにもなく。

「でかいとかちっこいとかそういうことでなく、おまえが好きだからだ」

「ぅ………っ、ぅううっ…………っ」

ち、ちみっこいくせに、小動物みたいにかわいーしぐさとかしちゃうくせに、どうしてこういうときの桂木って、ものっすごくオトコマエなん……

「おまえが好きだから、勃起するんだ。勃起するんだから、ヤるしかないだろう」

「オトコマエ過ぎるだろ!!今ちょっとくらっと来てたのに!!」

なんでそんな即物的な表現にいっちゃうのかな、このちみっこオトコマエは!!

そこでもうちょっとアレな言葉を重ねたりしたら、俺なんかもう、ぐらんぐらんになって、好きなようにさせてるってのに。

涙目で叫んだ俺を、桂木は面白そうに見下ろした。

「ああ、なんだ。つまりアレか。好きすき言われたかったのか」

「ちがうっ!!」

「遠慮するな。いくらでも言ってやる」

「ちっがぁあああぅううっっ!!」

否定しているのに、桂木はさっぱり聞かない。

体を折ると俺の耳にくちびるを近づけ、ふっと吐息を吹き込んだ。

「好きだ」

「ひぃっ!」

みみ、耳…………っは、弱いっよなっ!!

俺が意志薄弱だとか、特にビンカンだとかいうことじゃなく、全国的に老若男女誰でも、耳は弱い。たぶんきっと絶対おそらく必ず。

「ちょ、かつ………っ」

「好きだぞ、ノセ。好きだ。愛してる」

「ひ………っぁ、ぁう……っ」

だから俺は、確かに桂木と同い年だけど、背丈は十五センチ以上高くて。

んでもって筋肉もついてるから、横幅だって桂木よりでかくて。

足だって長いぞーとか、顔だって平均的イケメン…………ぁああもう、頭が回んなくなってきた…………!

くらんくらんしている俺に、桂木はふっと笑った。

間近でそのオトコマエな笑みを見てしまった、俺のときめきがマックスになったところで、つぶやかれる。

「おまえは本当に可愛いな、ノセ…………」

「っっ!!」

トドメられました。

今日も今日とて当初から勝敗がわかっていた無駄な攻防に敗れた俺は、その後、おっとなーしく、桂木の好きにされましたそうな。

どっと払え、もう。