南向きのリビングには陽射しがたっぷりと入りこんで、日中はぽかぽかと暖かい。特に窓辺など、冬の最中であっても多少、暑いくらいだ。

しかし今日に関していえば、熱に弱いロイドであっても問題ない程度だった。

のぬねこぬねこ

リビングの一人掛けソファがメイコの定位置となっているように、この時期のリビングの窓辺は、カイトの定位置だ。

ふかふかほわほわのクッションをいくつも床に散らかして、へちゃんと座りこんでいたり、ころんと横になってお昼寝していたり。

とにかく、のんびりほええんと過ごすカイトが見られて、荒涼たる冬の空気を一瞬忘れる。

まさに和み系としての役割を、十分に果たして――

「んー………」

ぽかぽかとした陽射しをたっぷりと浴びて、カイトはもったりとした鼻声を上げる。今にも眠り込みそうで、しあわせに満ちた声だ。

表情もとろりと蕩けさせたカイトは、こてんと傍らに寄りかかった。

隣には、同じくのんびりひなたぼっこモードに入ったがくぽがいる。

家族となった当初はなかなか姿勢を崩せなかったがくぽだが、カイトに付き合ってひなたぼっこをくり返すうちに、だんだんくつろぐことを覚えてきた。

陽の降り注ぐ窓の外を眺める表情はだから、肩に凭れてきたカイトと同じく、とろりと蕩けて甘い。いつもの緊張感に満ちて引き締まった表情から考えると、ずいぶんと気を抜いている。

それもこれも、隣に座るのがカイトだから――

「あのね、がくぽ………」

「んー………?」

肩に凭れるだけでなく、半ば瞳を閉じたカイトは、表情に相応しい眠気に蕩けた声でがくぽを呼ぶ。

凭れるカイトの頭に軽く頬を寄せたがくぽも、もったりと気の抜けた声で応じた。

カイトのくちびるが、あえかな笑みを刷く。

「俺ねー…………………がくぽのこと、好きかもしれないー…………」

「………」

カイトの言葉に、がくぽは落ちかけていた瞼を軽く開いた。

降り注ぐ陽射しをしばらく眺め、眩しさに耐えられなくなったように、再び瞼を落とす。

くちびるが、やわらかな笑みを浮かべた。

「そうか」

「ぅん」

つぶやくと、カイトは小さな子供のように、こくんと頷いた。軽く振られた首と共に髪に頬をくすぐられ、がくぽはさらに微笑む。

さらりとして心地よく、動きと暖められたことで立ち上る、あえかなバニラの甘い香りが胸を満たす。

妹たちに贈られ、そして今はがくぽから贈られる、カイトのための香水――

甘いものが好きではなくても、この体から仄かに漂う香りは好きだ。

心地よく、胸を幸福に満たされて、自然と笑みが浮かぶ。

「カイト」

「んー………」

瞼を下ろして微笑んだまま、がくぽは肩に凭れるカイトの頭に頬をすり寄せた。

カイトは半ば寝入りかけのような、覚束ない声で応じる。こうなると、聞こえているかどうかも定かではない。

構うことなく、がくぽはつぶやいた。

「俺もな。…………カイトのことが、好きかもしれん」

「…………」

返された告白に、落ちるのは沈黙だ。

わずかな間を挟み、カイトのくちびるからは小さく笑い声が漏れた。

「そっか」

「ああ」

閉じかけていた瞼を開くと、カイトは軽く頭を上げた。とろりと蕩けた表情で微笑むがくぽを、うれしそうに見つめる。

「ね。俺たちもしかして、両思い?」

問いに、がくぽは微笑んだまま頷いた。

「そうだな。――両思いかもしれん」

「そっか」

頷くと、カイトはわずかに姿勢を変え、がくぽへと向き直った。

真面目な表情となると、小さく首を傾げる。

「両思いだったら、――キスしても、い?」

「………」

わずかに瞳を見開いたがくぽは、ややしてこちらもわずかに姿勢を変え、カイトに顔を寄せた。

「ああ。両思いゆえ――」

「ん」

許諾に、カイトもがくぽへ顔を寄せる。

くちびるとくちびるが、ちゅっと音を立てて軽く触れ合い、離れた。

「…………ふひゃっ」

満ち足りた笑い声を上げると、カイトは窓に向き直り、がくぽと絡めるように手を繋ぐ。そうやって、元のように肩へと凭れ掛かった。

がくぽもまた、凭れるカイトの頭に頬を寄せる。すりりと擦りつくと、カイトはくすぐったそうに首を竦めて笑った。

「両思いって、しやわせだね」

つぶやくカイトに、がくぽも満ち足りた声を吐き出した。

「そうだな。幸せだ」

***

「だれかあのおばかどもに蹴りを入れてきなさい」

リビングの定位置である一人掛けソファに座った家長が、憤然として吐き出す。

しかしその足元の床にぺたりと座って爪を弄っていた上の妹の答えは、うんざりした顔で舌を出すというものだった。

「ボクやだよ。馬に蹴鞠られるようなこと、正真正銘のトップアイドルであるボクは、ぜっったいにやんないんだからね!」

「ちっ!」

「めーちゃん舌打ち?!」

正真正銘のトップアイドルも怯える強さの舌打ちをこぼすと、メイコは傍らを見た。

「れぇええん!!リンもリンもぉ!!リンもあれやりたいやりたいやりたいやりたいったらやりたいのぉ!!」

「やだやだやだやだやだったらぃやだぁあああ!!いくらリンの頼みだろうが、あんなあほなことやるのはいやだったらいやだぁああ!!」

――末の弟妹は熾烈な攻防戦をくり広げていて、長姉の言葉をさっぱり聞いていない。

「ちっ!!」

使えないと、メイコはさらに痛烈な舌打ちをこぼす。

そのメイコの両肩に、ぽんと手が置かれた。

「メイコさんが自分で行ったら、いいんじゃないの?」

大変真っ当な意見なのだが、家長怖さに口にし難いことを言ってくれたのは、マスターだ。

マスターでありながら、彼女も大抵の場合は叩き伏せられて終わる。しかし、それがいいんじゃないですかと陶然として主張し、飽きることなくぶつかっていく。

メイコは壮絶に顔をしかめると、背後に立つ彼女を振り返った。

「いやよ触ったら、ばかが移るじゃない!」

「なるほど」

弟たちに対し、ちょっぴり厳しいことを吐き出したメイコに、マスターは納得したように頷いた。

メイコの肩に置かれていた手が、持ち上がる。

ひなたでおっとりぽややんといちゃつく、ウイルス性と思しきおばかっぷるを、マスターの細い指は突き刺すようにびしっと示した。

「メイコさん、むしろマスター命令くらいな勢いで!!いってらっしゃいやってらっしゃい、おばかになって帰っておいでなさい!!」