一際大きくカイトの体が震え、締めつけが一層のものとなる。

「ぁ……あ、ぁあ……」

上げる声は、幸福のうたにも似ている。

Honey is sweet

一瞬過ぎった考えに、そんな場合ではないと思いつつ、がくぽのくちびるは笑みを刷いた。

「………っく………っ」

しかしすぐにその顔が歪み、堪えきれずに呻きがもれる。

堪え切れなかったのは己の激情もで、押しこんだカイトの腹の中にそのまま、欲望をぶちまけていた。

「……ん、ぁ………だんな、さまぁ…………」

「…………まったく…」

達したばかりで鋭敏に尖る腹の中に広がる熱に、カイトは小さな声を上げる。

その甘い響きとやわらかな色に、がくぽは逐情のせいだけでもなく脱力した。

どうしてそうも、しあわせそうに蕩けた声を上げるのだろう。

いや、同じ男という夫を持って、その雄に貫かれている現状を考えると、しあわせと感じてくれているならそれに越したことはない。

しあわせにしてやりたい相手だ。

けれどそのしあわせのためだからと、己の欲望を我慢することも出来ない――常に心身を苛む二律背反だから、がくぽの熱を受け止めたカイトが甘やかに啼いてくれることは、なによりのことではある。

とはいえさらに、蕩けたこの声に耳をくすぐられて、果てたばかりの分身がまたも欲情に駆られてしまうという、微妙な循環もあったりするのが、どうしようもない話。

「………………と」

「………旦那様……?」

一度は自分に伸し掛かって重みで潰そうとした旦那様がすぐさま体を起こして、カイトはけぶる瞳を訝しく眇めた。

再びの行為へと、逸ったようではない。

なにかに気を取られて――

「ああ、間に合ったか」

がくぽ?」

複雑そうな声音でこぼされた声に、さらにカイトは首を傾げた。

なにが間に合ったというのか。それも、至極複雑そうに。

「が……ぅ、んぅ…………?」

答えてくれない旦那様にさらに呼びかけようとしたカイトのくちびるが、再び伸し掛かってきた相手によって塞がれる。

事後のやわらかな怠さを伴いながら、一度は落ちた火をもう一度盛らせるような、しつこく重甘いキス。

「ぁ………ん、ふぁ…………っ」

大人しく受けて、カイトはベッドに放り出していた腕をがくぽの体に回した。

貪るようというには大人しく、だからといって飢えがまったく感じられないわけでもない。

微妙な感情を行き来するキスを与える旦那様の長い髪を、カイトは動物にでもするような手つきでやさしく梳いた。

「ふ…………っ」

キスに応える奥さんの舌使いというより、その手つきに感極まったように、がくぽは堪えきれずに鼻声をこぼす。

軽い音を立ててくちびるを離すと、間を唾液がつないだ。

舌を出して舐め取って、がくぽはカイトへ微笑みかける。

体の下で、潰される心地よさに浸っている奥さんの頭を撫でた。

「明けましておめでとう、カイト」

「………………」

「今、日が変わった」

「…………………………」

旦那様のご挨拶に、奥さんはけぶる瞳を軽く見張った。

そのまま数瞬、無言のままに見つめられて、がくぽは気まずく天を仰ぐ。

かすかな触れ合いから気分が盛り上がり、マスターと奏たちとの忘年会から、奥さんを連れ出して寝室に篭もること、――

まさか年越しの瞬間に我に返るとは、がくぽだとて思わなかった。

だからこそ、複雑な心地にも陥るのだ。

しかし、間に合ってしまったものは仕様がない。

ここで知らぬふりで通すのも、なにかが違うし――

「………………おめでとうございます、旦那様」

「ああ」

ようやく吐き出したカイトは、がくぽの体に回した手を立て、肌に爪をかけた。

落ち着かなげに腰を蠢かし、けぶる瞳だけを伏せる。

「…………………………でも、せめて…………挨拶の間くらい、抜いた状態で………ベッドでも構いませんから、きちんと座って……………………」

「……………………まあ、な」

言われることがいちいちごもっとも過ぎて、反論もない。

がくぽは奥さんを押し倒し、腹の中に欲望を押しこんだままだ。なにもそこまで焦ることもない。

年が明けた瞬間に祝わなければいけないという法もなし、完全にがくぽの勇み足だ。

自分でも自分に呆れて天を仰ぐがくぽに、カイトは小さく笑った。

「………旦那様」

「ん?」

身じろいで体を起こし、カイトは腹からがくぽを抜き出す。抜ける瞬間にわずかに顔をしかめたが、未練を示すでもない。

がくぽのほうが惜しい気がしたが、先に諭されたばかりだ。

大人しく抜くに任せ、ベッドの上で折り目正しく正座した奥さんと、向き合った。

がくぽの散らしたキスマークも艶やかな姿のカイトは、そのまま指をつき、頭を下げる。

「不束者ですが、今年も一年、よろしくお願いいたします」

「……………」

なにが不束だ、と反射で言い返しかけて、がくぽは口を噤んだ――定例句というものだ。本当にそうだというわけではない。

ここでまともに返すほうが、かえって失礼というものだろう。

とはいえ咄嗟に、気の利いた返しも浮かばない。

気まずく頭を掻く旦那様に、奥さんは瞳を細めた。

「………いやですか?」

「厭なものか!」

叫んで、がくぽは軽く居住まいを正した。生真面目な顔で、奥さんに相対する。

「こちらこそだ。至らぬ夫だが、宜しく頼む」

言って手をつき、布団に埋まるほど深く、頭を下げた。

「がくぽ………、っふ」

なにか言いかけて腰を浮かせたカイトが、小さく呻いた。

何事かと思って頭を上げたがくぽを、カイトは見ていない。居心地悪げに下半身を蠢かせ、白い雫の伝うそこに困ったような視線を投げていた。

「…………あの。終わり………ですか?」

「……………」

がくぽは黙って、素裸の奥さんを見た。

終わりというなら、つまり。

「終わりなら、お風呂に…」

「年が明けたゆえな」

言いかけるカイトを、がくぽは重々しい声で遮った。

「はい」

「明けた以上、初めの験しをせねばな」

「はい。…………はい?」

「実に古式ゆかしい言葉があるぞ、カイト。知りたいか」

「あの、旦那様………?」

男前度割り増しで迫るがくぽに、カイトは身を引く。それでも迫るがくぽに、結局は再び布団に転がされた。

けぶる瞳を揺らすカイトに、がくぽは新年早々に情欲たっぷりに笑ってみせた。

「『姫初め』なる言葉を知っているか?」

「ひめ……」

「知らぬか。そうか、では教えよう」

「え、いえ、あの、だ…………っ」

世間知らずの奥さんの答えを聞くことなく、がくぽは情欲の名残りも生々しい体に伸し掛かった。