I Love Nothing Better Than vvv

「旦那様、甘えてください」

「……………」

――大変わかりやすいといえば、わかりやすい。

だとしても唐突にして意味不明な奥さんの求めに、がくぽはしばらく瞳を瞬かせた。

マスターを仕事に送り出し、リビングの絨毯の上に座った途端だ。

正座してがくぽと相対したカイトは、生真面目な表情でそう切り出した。

「…ふん」

奥さんの意図はまったく読めないものの、ある意味いつものことだ。そこを追求しても仕方がない。

がくぽは鼻を鳴らすと、打って変わって明るく、善良そのものの笑みを浮かべた。

有り体に言って、爽やか過ぎて胡散臭い。

「カイト。そなた、アイスとキスなら、どちらが良い?」

それで返された旦那様の問いに、カイトは首を傾げる。

「………………アイスと、キス、ですか?」

甘えてくれと強請って、どうしてこの問いが返るのか。

訝しげなカイトに、がくぽは相変わらずの、胡散臭さ全開の笑顔で頷いた。

「ああ。俺の膝の上で、俺にアイスを食わせてもらうのと、俺から一日中たっぷりと、キス責めにされるのだ。どちらが良い?」

「……………………」

問いに具体性が加わったものの、やはり意図が不明だ。

カイトは首を傾げて考え、ややして躊躇いがちに口を開いた。

「キスが、……いいです」

「そうか」

答えにがくぽは頷いて、立ち上がった。

見守る奥さんの前でキッチンに入り、しばらく。

「………?」

戻ってきた旦那様の手には、アイスの盛られたグラスとスプーンがあった。

確か自分は、キスがいいと答えたはず。

クエスチョンマークを飛ばすカイトの前に座ったがくぽは、自分の膝を叩いて、そんな奥さんを招いた。

「座れ」

「……………………はい」

疑問はあれ、カイトはあまりがくぽに逆らうことをしない。

素直に膝に乗ったカイトに、がくぽは鼻唄すらこぼす上機嫌さで、持ってきたアイスを食べさせた。

「あの、旦那さ…………っん…ふ、ぁ………」

アイスを食べ終えたところで、改めて疑問の声を上げようとしたカイトのくちびるを、がくぽは己のくちびるで塞ぐ。

アイスで冷え切った口内をすぐにもあたためようとするかのように、濃厚に念入りに。

「………あの、がくぽ…………っ?」

「そなたが、アイスより俺を選んでくれて、うれしかったゆえな。褒美だ」

そんなことは当然だ。

――とは、言い切れないのがカイトであり、KAITOシリーズだ。

けぶる瞳で見つめる奥さんに、旦那様は心から晴れやかに笑った。

「というわけで褒美もやったし、望み通り、これから今日一日、キス責めにしてやる」

「あの、んっ、ふ…………っぁ、んんっ…」

――そもそもの望みは、がくぽが妻である自分に甘えてくれること。

訴えようとして懸命に旦那様を見つめ、カイトは素直にキスに溺れることにした。

そういう甘え方をするのが、――カイトが誰より愛する、旦那様だ。