かじり取ったドーナツを口に入れることなく、カイトはがくぽへと差し出す。

「ほら」

「え…」

「ん」

突き出されたくちびるに、がくぽは束の間見惚れる。それから慌てて口を開くと、ドーナツを受け取った。

カイトのくちびるが掠めて、離れる。

うちのおとーとは、ちょっとよくばりんぼです→

「ん……」

もぐもぐとおとなしく咀嚼する弟に、カイトは笑う。もう一度顔を沈めると、がくぽが手に持つドーナツをかじり取った。

「ん」

「はい…」

突き出されるくちびるに、がくぽはうれしそうに瞳を細める。今度は躊躇うことなく口を開き、ドーナツを受け取った。

そうやって、手の中のドーナツがきれいに食べ切られる。

油紙を取り去り、カイトはにっこりと弟に笑いかけた。

「おんなじだったでしょ?」

「……」

得意そうな兄に、口の中のものを飲みこんだがくぽは、軽くくちびるを舐める。甘い。

「………兄様が食べさせてくれたほうが、おいしかったです」

「またそういう」

呆れたようなカイトへ手を伸ばし、がくぽはくちびるを寄せる。砂糖に濡れるカイトのくちびるを、べろりと舐めた。

「んっ」

「兄様のくちびるは、もっとおいしいです…」

「ん……」

熱っぽくささやいて舐めると、カイトはおとなしくくちびるを開いた。がくぽは舌を差しこみ、舐める。

甘い。

「ん………んく………ふぁ」

小さな声を上げながら、カイトが縋りついてくる。

片手でそれを受け止め、がくぽはもう片手で、投げられたクッションを受け止めた。

一個、二個。

人前では遠慮しろ、という餌儀の猛抗議に仕方ないと諦めて、一度くちびるを離す。

「餌儀、マスター、ドーナツ貰って行きますね」

「ふゃ?」

蕩けた兄はわけがわからぬげに、がくぽを見つめる。瞳が潤んで、熱を含んで色っぽい。

がくぽはこくりと唾液を飲みこんでから、カイトを抱え上げた。適当なドーナツを掴むと、リビングを後にする。

「がくぽ?」

「部屋でゆっくり食べましょう」

「ん?」

きょとんとする兄を自分の部屋に連れ込み、ベッドに押し倒すと、がくぽは再びくちびるを重ねた。

「んん………ふぅぁ………」

手近に置いてあるティッシュをつまみ出して枕元にドーナツを置き、がくぽはしばらくの間、カイトとの口づけを堪能した。

その間に、コートを肌蹴て、シャツをまくり上げる。スラックスもずらすと、カイトはようやく身じろいだ。

「あ、がくぽ………まだ、おやつ………」

「ちゃんと持ってきました」

「え?」

「また食べさせてください」

「え?」

カイトはきょとんと瞳を瞬かせる。

その肌に手を添わせ、がくぽはにっこり笑った。そうでなくても、甘くておいしい兄の肌だ。

「ちょ、なんか、ざらざらしてる……」

落ち着かなげに身をよじるカイトに、がくぽは手を閃かせた。

「砂糖がついてますから」

「ああ、ドーナツの………って、ひとの体で手を拭かない!」

もっともなのだが、カイトの抗議は微妙にポイントがずれている。

がくぽはべろりと舌なめずりし、肌を撫でようとするカイトの手を取った。

「ちゃんとがくぽが舐め取って差し上げます」

「えって、ゃっ」

砂糖をなすりつけた体に、べろりと舌を這わせる。舐め取るというよりは濡らすように舌を這わせ、震えながら尖り出した胸に吸いついた。

「ゃ、がくぽっ、ぁ……っ、そこ、ついてな……っ」

「ちゃんとおいしいです。兄様の乳首、ころころしてて、舐めるの楽しいです」

「ぁうっ、や、かんじゃだめ………っ」

カイトの片方の乳首に吸いついたまま、がくぽは枕元に置いたドーナツに手を伸ばした。砂糖だけこそげ取って、またカイトの肌を撫でる。

ざらりとした感触に胸を撫でられて、カイトは涙目で身悶えた。

「や、ぃや、……だめ、がくぽ………っおにぃちゃん、たべものじゃない………っ」

「でもおいしいです。こんなにおいしいもの、ほかに知りません」

「ぁう………っ」

洟を啜りながら、カイトは弟を身下ろす。

体を舐め回すがくぽは、心から愉しそうだ。たまにかじりついてはカイトが跳ねるのを悦び、ますます熱心に体を撫でる。

「ここも……」

「ゃ、あ、ざらざら、やっ」

ざらりとした感触に、反応しかけで敏感になっている性器を撫でられ、カイトは腰を跳ね上げた。

がくぽは笑って、砂糖をまぶしたそこを咥える。

「ぁ、ゃだ、がくぽ………っ」

「あっつくって、おいしいです、兄様。中身が出ると、もっともっとおいしいですよね」

「ぅうう………っ」

出さないと辛いのは自分だが、弟の口に出すというのが、いやだ。いやなのだが、抵抗出来るほど快楽に強い体ではない。

なにより、がくぽの口淫は巧みだ。カイトの弱いところを知り尽くして、的確に攻められる。

「や、も、イっちゃぅ…………がくぽ………」

「はい。全部飲みます」

「ちがぁう………っ」

はきはきと答えられて、カイトは涙目で身を捩る。気持ちいいのは間違いないが、そのあとの罪悪感も結構なものなのだ。

そこらへんをまったく斟酌してくれない弟は、さらに熱心にカイトのものを舐め、吸い上げた。先端に舌を差しこまれて促され、カイトは堪えきれずにがくぽの口の中に放つ。

「ん………んんん………」

「ん…」

間歇的に吹き出すそれを、がくぽはしつこく吸い上げては飲みこむ。

やがてぐったりしきったところでようやく離れ、満足げにくちびるを舐めた。

「やっぱり、兄様っておいしい………」

「……………おにぃちゃんは……たべものじゃ………ありません………」

ぐすぐすと洟を啜りながら主張したカイトに、がくぽはにっこり笑う。

「こんなにおいしいのに」

「でもちがいますぅ………っ」

拗ねたように吐き出すカイトにわずかに首を傾げてから、がくぽは身を屈めた。濡れた手を奥へとやる。

「ぁやっ」

「……そうですね。兄様、食べられるだけじゃないですよね。食べるのも、好きですよね……」

つぶやきながら、指を差しこむ。熱く蕩けた場所を掻き回して、くちびるを舐めた。

「こっちの小さいお口、がくぽのことを食べるの、大好きですよね」

「ゃ、ひぁ、がくぽっ」

「食べたいたべたいって言ってますけど………」

「ふぇ……っ」

好きなように掻き回されて、カイトは身を捩る。顔を懸命に隠しながら、それでも今度は反論の声が上がらない。

がくぽは身を乗り出すと、隠されたカイトの顔を覗きこんだ。

「兄様?」

「……………………たべたい……」

顔は隠したまま、それでもカイトはつぶやいた。晒された肌が、真っ赤に染まり上がっている。

がくぽは瞳を細めて体を眺め、差しこんだ指を広げた。

「ん、ぁ…………っ」

仰け反ってから、カイトは隠していた顔をわずかに覗かせ、涙目でがくぽを睨んだ。

「たべたい………もん。はやく、ちょーだい………がくぽの………おにぃちゃんの、お尻に………」

「兄様」

拗ねた色を含んだおねだりに、がくぽは喜色に輝く。指を抜くと、熱くなっている自分を取り出した。

「すぐ食べさせてあげます。兄様の大好きながくぽを」

「ふぁ……っ」

宛がわれた熱に、カイトは仰け反る。

反論したいような気はするのだが、何度も何度も馴らされた場所が疼くのは、どうしようもない事実だ。

そっと見下ろした視界に、屹立するがくぽのものが入る。その大きさにこくりと鳴る咽喉は期待に震えていて、カイトはくちびるを噛んだ。

弟のものが食べたいとか、どうかしている。

どうかしていても、欲しいものはどうしてもそれだ。

「兄様…」

「ぁ……んく………っ」

押しこまれたものに胸が満たされて、カイトは洟を啜った。

がくぽはどれだけ張りつめていても、馴染むまでは動かないようにしてくれる。

その瞬間がいちばんいたたまれない。冷静さと、期待と、煽られ始めた感覚と。

「ね、も、大丈夫だから………うごいて………おにぃちゃんのおなか、掻き混ぜて………がくぽのいっぱい、食べさせて………」

「兄様、まだきついです」

「でも動いて………おにぃちゃん、動いてくれないと、おなかきゅうきゅうしてて苦しい……」

懸命に強請ると、がくぽはゆっくりと動き始める。カイトはほっとして、腕を投げ出した。その爪が、シーツを掻く。

足を抱えられて広げられ、飲みこんだ場所を眺められた。がくぽは兄が自分を飲みこんでいることを確認するのが、好きだ。

「ゃ、がくぽ………みちゃだめ………っ」

「兄様のお尻、がくぽのをおいしそうに食べてますよ。ひくひくして、中はきゅうきゅう締めつけて」

「ぁう…………」

制止しても、がくぽは構わない。広げたまま、腰を動かす。

弟のものを悦んで「食べている」ところをつぶさに観察される恥ずかしさに、カイトはぼろりと涙をこぼした。

がくぽはわずかに身を屈め、カイトの涙を啜る。

「ね、兄様………おいしいですかがくぽの、おいしいですか?」

「ふ………っ」

そんなことを訊かないで欲しい。

カイトは瞳を閉じ、首を振る。がくぽはわざと角度をずらして、そんなカイトを擦り上げた。

「ゃ、がくぽ……っ」

「おいしいですか、兄様?」

再度訊かれて、カイトは諦めた。

答えないと、ポイントをずらしたところを攻められて、さらによがり泣くことになる。

涙目で弟を見上げると、カイトは震えるくちびるを開いた。

「おいし……い………っ、おいしい………っおにぃちゃん………がくぽの、食べるの………だいすき………っ」

カイトの答えに、がくぽはうれしそうに笑う。中に入ったものがさらに膨れて、カイトの弱いところを抉った。

「じゃあ、いっぱい食べさせてあげます」

「ん……っ」

やさしくささやかれて、腰の動きが速くなる。カイトは煽られるままに、二度目の頂点を極めた。

***

「…………くちのなか、もそもそする………お茶ほしー………」

「あー。いっぱい、泣きましたからね………」

がくぽが枕元に置いていたドーナツを食べたカイトは、げっそりしてつぶやいた。

考えてみれば、せっかくがくぽが淹れたお茶も飲まずに来てしまった。冷めてもおいしいが、出来れば淹れたてを飲みたい。

おいしいドーナツなのに、自分でおいしさを半減させてしまった。

ベッドに座り込んだカイトは、砂糖に濡れた手を舐め、傍らに座る弟を恨めしげに見上げる。

「………お茶、持ってきます…………」

「いらない」

しおしおと立ち上がろうとするがくぽを掴まえ、カイトはくちびるを寄せた。舌を伸ばして、がくぽの口に差しこむ。

わずかに、濡れた感触。

「兄様?」

首を傾げるがくぽに、カイトはくちびるを舐めた。

「水分ちょうだい」

強請ると、再びがくぽへと舌を伸ばした。