うちのおとーとは、ちょっとズレてます。

「ん、これで最後っ」

カイトは掛け声とともに、ハサミを閉じる。ぱき、と小気味よい音がして、挟まれた落花生の殻が割れた。

中身を取り出すと、テーブルに置いたボウルの中に入れる。

「よしよし、ありがとさん、カイト。助かったよ」

「ぇへ……」

いっしょに殻むきをしていた餌儀が手を伸ばし、カイトの頭を撫でる。

そんな年ではないのだが、餌儀はカイトのことをずいぶんと小さな子供のように扱うことがあった。

照れくさいし、ちょっと抗議したいときもあるが、どうしてもいやだということはない。

「今日は落花生ごはんにしてやるからね」

「はい、楽しみにしてます」

うれしそうなカイトの頭をもうひと撫でして、餌儀はボウルを持ち、リビングから出て行った。

「ふゃや~」

ボウルいっぱいの落花生の殻むきだ。餌儀と二人掛かりだったとはいえ、それなりに重労働だった。

カイトは座っていた床からわずかに腰を浮かし、背後のソファに座り直した。

「にーぃさまっ♪」

「んっわ」

そこを見計らったかのように、ばたばたとがくぽがやって来る。

がくぽは走って来た勢いそのままにどすんとソファに座った。そして反動で一瞬浮いたカイトの体を、押し倒す。

「兄様、デートがしたいです!」

「デー…………ト?」

唐突な言葉に、カイトはきょとんと瞳を見張った。

体に伸し掛かってにこにこしている弟をしばらく見てから、わずかに視線をずらす。

がくぽは現在、テレビを観ていた――一応はがくぽも、最初は兄の隣で落花生をむこうとはしたのだ。

しかし二個か三個で飽きて放り出し、「邪魔するならお夕飯なしだよ!」と餌儀に怒られて、テレビを観ていた。

休日の昼間にやっていた番組は――デートスポット特集、だった。

「ぷっ」

「にぃいさまぁああ……っ」

「ぅくっ、え、や、ごめ………っぷふっ」

拗ねた声を上げられても、カイトはなかなか笑いを治められなかった。

わかりやすく、影響されやすい。

「う~………っ」

「や、ごめ……うん。ぁは」

きれいな顔を盛大な不満に歪める弟に、カイトは懸命に笑いを堪えた。

それでもどうしても表情を緩ませながら、不満そうに膨らむがくぽの頬を撫でる。

「うん、いーんじゃない、デート。行っておいで」

「…………兄様?」

やわらかに頬を撫でて微笑む兄を、がくぽは瞳を見張って見下ろした。

カイトは華やかなデートスポットを映すテレビ画面を眺め、瞳を細める。

「弥瘡-みかさご-さんとこの、ミクちゃんとか……あと、がくぽに釣りあう年ってなると、メイコちゃんとか、ルカちゃんかなリリィちゃんも……」

「兄様」

「んっ、いたっ?!」

きつく肩を掴まれてソファに押しつけられ、カイトは小さく悲鳴を上げた。

驚いて見上げた弟は、壮絶に顔を歪めている。

「なんでがくぽが、女の子と、デートに行くんですか?」

「え……?」

ひたひたと滴るような冷たい声で訊かれ、カイトはますます瞳を見張った。

がくぽはその兄にさらに伸し掛かり、顔を近づける。

「いいですか、兄様。がくぽは、兄様と、デートに、行きたいです!」

「え、俺………?!」

一言ひとこと、区切るようにはっきりと言われ、カイトはきょとんとした。

不機嫌そのものの弟を見上げ、すでに別の話題へと移ったテレビへと顔をやる。

「あ………えっと」

カイトは微笑むと、不機嫌に引きつるがくぽの頬に手を伸ばした。そうやって不機嫌に歪んでも、凄絶に美麗な顔を撫でる。

「いっしょに出掛けたいってこといいよ、付き合ってあげる。どこに行きたい?」

甘ったるい兄の声に、しかしがくぽが機嫌を直すことはなかった。

肩を掴んだ手の力を緩めることもないまま、微笑むカイトを睨み下ろす。

「兄様は、がくぽとデートしたくないんですか?」

「ん…………と…」

駄々っ子と化しつつあるがくぽに、カイトは困ったように眉をひそめた。

自分たちは兄弟だ。いっしょに出掛けるとしても、それは『デート』とは言わないだろう。

――というような、至極まっとうな理屈を言ったところで、このおにぃちゃん大好きっ子に通じそうにないところが、悩みの種なのだ。

なんだかあっさりと、「がくぽがいちばん好きな人は兄様なんだから、デートで合ってます!」などと、堂々主張されそうだ。

「ん……」

「兄様?」

ぷ、と吹きだしたカイトに、がくぽは訝しげな顔になる。

「ん、ごめ……ちが………」

懸命に笑いを堪え、カイトはがくぽの頬を撫でる。

困った弟だと思う。もう少し、兄離れしてくれないと。

そう思う反面、こういう弟がくすぐったくて、すごくうれしい。

うれしい――なんて。

だからダメなんだろうな、と思いつつ、カイトはがくぽの前髪を梳き上げた。頭を引き寄せると、自分も首を伸ばし、晒された額にキスを贈る。

「がくぽと出かけるのは、嫌じゃないよ」

「………兄様」

嫌じゃない、というのは、姿勢として消極的だ。

微妙な言葉に、がくぽはますます不満げな顔になった。

その頭をよしよしと撫でてやり、カイトは困ったように微笑んだ。

「嫌じゃないけど………外だとこうやって、おまえのこと、いっぱい甘やかしてやれないでしょそれって、すっごく苛々するから」

「にぃさま………」

驚いたように瞳を見張ったがくぽの頭を撫でて引き寄せ、カイトは頬にキスする。

「いっぱい、よしよしってしてあげたり、キスしてあげたいなって思っても、そうそう出来ないでしょ――いっしょに出掛けるのは楽しいけど、それが………っわっ」

言葉の途中でぎゅっとしがみつかれ、カイトは悲鳴を上げた。

そもそもが伸し掛かられている。そして弟は大きい。

重い。

「が、がくぽっ」

じたじたともがくカイトをぎゅうっと抱きしめてから身を起こし、がくぽはきらきらと輝く笑みを閃かせた。

「がくぽもお外だと、兄様に甘えられないので、寂しいですデートなんかいいです、おうちでいっぱい甘えさせてください!!」

「もぉ」

千切れそうに振り立てるしっぽが見えるような弟を、カイトは笑って抱きしめた。