B.Y.L.M.

幕間ノ一-テルモノ

「神威がくぽ!!」

「っっ!」

迸った怒号に、寝室を出て行こうとしていたがくぽはびくりと跳ね、立ち止まった。否、固まった。

背を見るだけでも一瞬で怯えきったとわかるそれに、しかしカイトが容赦することはなかった。

「戻れ、神威疾く!!」

「…っっ」

滅多に聞かないほど荒れた、まさに怒号だ。怯えきった少年はほとんど騎士としての反射のみで振り返り、覚束ない足取りで寝台へ戻った。

今まさに、自らが枷に鎖したカイトの元へ――

ここ最近、がくぽのこの悪癖中の悪癖は、なりを潜めていた。つまり、自らが離れる際にはカイトの足に枷を嵌め、寝台に繋いでいくという。

落ち着いたのがいつからかといえば、南王に掛けられた呪いを解き、自らの体質を取り戻してからだ。

そう、体質――夜と昼とで成長が合わず、夜は未だ少年であるというのに、昼はすでに青年とまで成っているという、特異中の特異である体質だ。

カイトは神期の挿話にあったような、ひとつ体にまったく別人たるふたりを詰めこんだかした呪いかと思ったのだが、がくぽは体質だと言う。つまり、最強種たる南王と最弱種と呼ばれる人間とを掛け合わせたがための、いずれ弊害であろうと。

その推測の根拠を昼の青年は、自らのほかのきょうだいを例にしてカイトに語った。

――十とひとりのきょうだいの内にひと組、女と男の双ツ子が在ったのですがね。片親の種族特性で考えれば、ひとつ体でもって、男でもあり女でもある子が生まれるはずだった。しかし南王の冠被りたるあれの血と胎内で争った結果、ひとつ体が女と男の双ツ子に分かたれ、生まれたと………ええ、あれは人智を超えたらしく、多種族と交雑すること自体は可能なのですが、ひずみを生じないことまでは不可能のようで。

そういうことであればカイトもなんとか、特異の不可解を呑みこめた。

鉛を呑みこむほどの抵抗はあれ、しかしなにしろ南王だ――ただ、最強種なのではない。人智を超えたという意味で、『魔』の冠を与えられたほどの最強種であるのだ。

『なんでもあり』はあくまでも南王ただひとつのみの特性であって、人智の内にある、制限のなかで生きるものと掛け合わせたときには、なにも起こらないというほうがむしろ、不自然なのだろう。

補記するなら、がくぽ自体はその、あり得ないはずの双子で生まれたきょうだいに会ったことはないという。

末の子たるがくぽが生まれたころには、ご多分に漏れず、すでに南王に喰いきられていなかったからだ。

もしも生きていたなら、南王という人智を超えた血を継いだがための苦労を、もっとも分け合うことができたきょうだいであったかもしれないのだが――

とにもかくにもだ。

たとえ日の出の間、半日程度とはいえ、気難しい年頃をすでに抜け、理性が勝つ年頃たる青年期を取り戻したがくぽは、生活のいろいろがずいぶんと改まったのだ。

カイトの飢えを満たすため、夜昼なく淫事に耽ることは相変わらずなのだが、それとても、以前と比べて加減がある。少なくともまるで説明もなく、ひたすらカイトを押しきるようなことはなくなった。

なにより昼の青年ともなれば、庭仕事や屋敷の内での用事を片づけるといったことで、カイトのそばを離れることが増えた。

そしてその不在時にも、カイトに足枷を施していくようなことは、決してなかったのだ。

――あのですね、自らのことですし、こういう言い方も難なんですが……花の足に枷それって、『ばか』とも呼べませんね。なぜならこれを『ばか』と言っては、『ばか』という言葉があまりに憐れです。『ばか』に失礼どころの話ではありませんよ。なにより、罪があまりに軽い。山の重さが羽根一枚に換えられたがごときだ。

最前、南王の呪い下にあったときの、夜昼もなく少年であった自らの為しようについて、がくぽがカイトへはっきりと謝罪することはなかった。

しかし少なくとも昼の青年はそう、煮えくり返る腸がわかる調子で、自らの行いを貶し、断罪したのだ。

そう、昼の青年の、カイトに足枷を嵌めることについての認識は、確かめていた。

しかし迂闊にも、夜の少年にまで確かめるのは失念していた。

しかしこれが、ほんとうに迂闊と責められることであるのかどうか――この『二重生活』も始まってからひと月ほどしか経っていないカイトには未だ、判断がつききらないところではある。

なぜなら夜昼で成長が合わないだけのことで、夫の『中身』はずっと同じだからだ。多少なり言動が変わっても、見た形の年齢に釣られているだけのことで、まったくの他人に入れ替わっているからということではない。

あくまでも夫は『ひとり』であり、考える頭はひとつだ。たとえ年齢からくる感覚や判断の違いで、夜の少年と昼の青年とが頻繁に諍いを起こしていようともだ。

それで、そう――

夜と昼とで夫の年齢が違うという、同性の夫を持つというのと同等程度には想定したことがなかった事態に陥って、概ねひと月だ。

判断がつききらないまま備えを怠った自らを、カイトは激しく悔いることとなった。

そもそもは、言い争いの果てのしわざだ。本来であれば些細な行き違いで済むものが、今夜はそうできなかった。

もとより言葉に閊えがちな少年は、年頃の気難しさも相俟って、すっかり頭が沸騰した。

その沸騰した頭を、ろくでもなくカイトにぶつけて痛めつけるようなことになる前にと、がくぽは寝室を飛びだした。否、飛びだそうとした。

そして飛びだす前、沸騰して冷静さを失った頭は、当然の習慣としてカイトの足に枷を嵌め、寝台に鎖した――

がくぽの動きが素早かったということもあるが、カイトはあまりにも呆然とし、愕然として、固まった。思考が白くはじけ飛ぶほどの衝撃だった。

それで、大人しく鎖されてしまった。

はっと我に返ったのが、少年が部屋を飛びだす寸前、扉に手を掛けたあたりだ。

カイトはこの枷の、開錠の方法を知らない。行かれては、外すことができない。枷を、まるで奴隷か家畜かのような繋ぐ鎖を、この扱いを、唯一外せる夫は、いつ戻ってくるとも知れないというのに――

これで少年が頭を冷やして戻ってきても、事態はむしろ沸騰しきっている。カイトがもはや、赦せない。これが夜が明けて青年と変わろうと、もはや赦せない――

熱された鉄を呑まされた心地でカイトは激昂し、消えかけの背へと向け、怒号を放っていた。

「……っ」

「っ?!」

蹌踉とした、覚束ない足取りながら、どうにか寝台にまで戻ってきた少年は、待ち構えていたカイトを見て息を呑み、目も離せないまま、再び固まった。

滅多になく荒れた、聞いたこともないほどのおそろしい怒号で呼びつけたのだ。それはもう、鬼のような形相で、『してはならない』を為した自分を迎えることだろうと思えば――

顔を真っ赤にし、堪えもできずに震えるカイトは、今にも泣きだしそうだった。

怒りも屈辱もあれ、その面をまず第一に染めるのは哀しみで、落胆であり、絶望にも近い色だったのだ。

「ぁ、……ぁ、……っ」

目も離せず見入ったまま、がくぽはわなわなと震えた。以前のように開き直って不貞腐れ、背ける顔ごと己の罪からも目を逸らすようなまねはもう、できなかった。

カイトの信頼を裏切ったと、知ったのだ。

まさかこれほど不実を重ねた夫であっても、カイトはがくぽが改められる力を持つと、こころから信頼してくれていたのだと――

なにより得難い信頼を預けてくれていたものを、もっとも手酷く、裏切った。

「ぁ、…………っ」

初めて自らの罪を直視し、色を失っていく少年を、カイトは寝台に座りこんだまま、ただ黙って見つめていた。

なにか言えば釣られて涙が溢れ、身も世もなく泣き喚きそうなのだ。くだらない矜持であっても、年下の少年相手には、できればやりたくない。

しかしがくぽは自ら、動きだすことができなかった。

これほどの罪を犯した身が、カイトに触れていいものかどうか――たとえ枷から解放することとはいえ、動揺と罪悪感とを極めた少年は、もはや自分では判断ができなくなっていたのだ。

困った夫だと、いつもの感想を思って、カイトはぐっと、拳を握った。きつくきつく握り、ずっと音を立て、洟を啜る。

「解け」

ひと言――

なんとか泣きだすこともなく、告げることができた。声は震え閊えてみっともないほどだったが、まるで聞き取れないほどではない。――はずだ。

そうやってカイトが下してやった渾身の命に、がくぽはびくりと体を震わせた。

しばらく震えて、それから落ちるように跪く。それで作業が滞りなくできるものかと不安になるほど震える手を伸ばし、カイトの足に、枷に触れた。

さらりと、撫でる。

仕掛けも不明な枷はそれで開き、カイトの足を解放した。

息が戻ってくるような心地を味わったものの、カイトが浸りきることはなかった。ほとんど間断をおかず手を伸ばし、開いた枷を掴む。

未だ引かれていなかったがくぽの腕を掴むと、その手首にがちりと、嵌め返した。

「かぃ……っ?!」

罪悪感の極致にあって、思考もまともに動いていない相手だ。いったいなにが起こったのかと、理解が及ばず、愕然と見つめたがくぽへ、カイトは叫んだ。

「赦さないっ!」

「っっ!」

――びくりと、これまでになく大きく震え、強張った相手は、もしかして心の臓が止まったかと案じるほどの様態だった。

それでもカイトは、言葉を翻すことをしなかった。続けて口を開いて、――

言葉より先にぼろりと、こぼれたのは涙だ。

いくつもいくつも、立て続いた大粒の涙滴はやがて、滂沱と流れる川とまでなる。

溢れこぼれる涙を堪えることもできないまま、カイトは告げた。

「赦さない――私が『いい』と言うまで、それを外したなら、ゆるさない、がくぽ」

「か、……ぁ……っ」

言いつけて、ぼろぼろに泣きじゃくりながら、カイトはがくぽから離れた。下半身は重く、動かない。こうとなっても、夫から離れることを嫌う――

過った感想に、ひどく笑いたい発作が起こった。笑い転げたい気分で泣きじゃくりながら、カイトは腕の力を持って体を引きずり、寝台から落ちた。

「カイトさまっ!」

「ゆるさないっ!!」

「っっ!!」

慌てて身を浮かせた忠義の騎士に、カイトはすぐさま叫んだ。強い制止の意志に、がくぽは寝台に乗り上がったところですべての動きを止める。止めざるを得なかった。

枷と繋ぐ鎖の長さだ。外さなければ、カイトの前には行けても、体を掬うことができない。

泣きじゃくる最愛の妻を掻き抱くにも、腕が届ききらない。

けれど外してしまえば――

カイトは可能な限り寝台から距離を取るようにし、落ちた身を起こした。へたりこむように座って、涙にぶれて霞み、よく見えない夫を懸命に見つめる。

「赦したい――ゆるしたい、がくぽ。頼む。たのむ………」

「………っ」

息を呑む気配が伝わった。涙にぶれて霞む視界でも、幼い夫がはっとして、カイトの真意に思い至ったのがわかる。

カイトのもとへ向かおうとした姿勢まま、中途半端に止まっていたがくぽがへたりと、寝台に座りこんだ。

呆然とカイトを見つめ、視線は緩慢に移ろい、自らの手首に嵌められた枷に止まる。ほとんど無意識の所作だろう、自由なほうの手が上がり、枷へと伸びた。

「……っ」

あえなく、外されてしまうのか――

「ぅ、ぐ……っ」

竦んで息を呑んだカイトの前で、がくぽは手首からずれ、前腕を掴んだ。肉を裂かんとばかり、骨も折れよとばかりにきつく掴み、抑えこんで、奥歯を軋らせる。

外さず、堪えてくれた――束の間の安堵も刹那のことで、カイトはひどく泣いたまま、はたと危惧を覚えた。

そういえばこの夫には、猛禽のごとき鉤爪もなかっただろうか。

昼の夫のことで、普段はひとの手なのだが、実は猛禽のごとき鋭く硬い鉤爪を持つ。基本、出したままの角や翼と違い、こちらは必要に応じて出し入れできるらしい。

角や翼と同じく、成長期の過程で生じたと言っていたが、そういえば、今まさに成長期の少年には、あるのだろうかと。

いくつくらいで成ったものかを、カイトは青年に訊き損ねていた。

もしもすでにあるようなら、まずい。ようだらしいという仮定ではなく、ほんとうに皮膚も肉も裂き、どころか完全に腕を削ぎ落とすこともしかねない。

どうしようと、動揺を重ねて身動きも取れないカイトだったが、少ししても、夜の夫の手はひとの形ままだった。

それでも骨を折り、皮膚を裂く程度はできそうな力具合だが、完全に落とすようなことにはならない。

「ひ、ぃ……っく、ぇ、……っっ」

おかしなふうに安堵し、中途半端に気を抜いたのが悪かったのだろう。

カイトはそこで今日、もっとも強い涙の衝動に見舞われた。嗚咽も堪えきれなくなり、床にうずくまって、泣きじゃくる。

「ぇ……っ、ぇぁあ、ああ……っ、あー……っ」

なんと情けないざまかと、いったいいくつになって、このやりようかと――

内心で自らを罵りはしたが、カイトもわかっていた。

夫の為しように、それだけ傷ついたのだ。

傷つかずにおれなかった。傷つかずにはおれないほど、夫に情を懸け、こころを預けていた。

「か、ぃと、さま……っ、かいと、さま……っ」

寝台の上から、獣が唸る。そうとしか言えない声だった。

ひとり泣きじゃくるカイトに――最愛の妻の悲嘆に、まるで自らの身を炙られてでもいるかのごとく、がくぽは苦鳴を漏らす。

「かぃ……っ」

引きつる呼吸だ。いっそ止まりそうにも聞こえる。これではきちんと身の内に取りこめていないかもしれない。

そう危惧するほど喘ぎ、閊え、息を呑み、――

ゆ、……ゆ、るし、……て………っ」

西の家々の隙間を通るような、ひゅうひゅうとか細い声で、ようやくがくぽは吐きだした。

赦されたことがないから、謝らない――赦しを乞うことは決してしないのだと、嗤って言う夫だ。謝らねばならないようなときには、逆に相手に咬みつき、喰らい返して破るのだと。

それが、赦しを乞うた。

赦したいと希うカイトに、最愛の妻の望みに、ようやく応えてくれた。

「かぃ、かいと、さま……っ、かいとさ、……ゅ、るし………っ」

「…っふ、んくっ……っ」

カイトは泣きじゃくりながら、なんとか顔を上げた。

寝台から落ちたカイトを、床にうずくまる主を、今すぐ掬い上げたい。

泣いているのは、最愛の妻だ。ひとりきり、憐れに泣きじゃくるのは、もっとも愛おしむ伴侶なのだ。

そばに行き、抱きしめて慰め、涙を掬ってやりたい――そうできないなら、なんのための夫か。

偏向と傾倒著しい騎士が、突き上げるすべての欲求を、衝動を抑えこみ、堪えて、カイトが与えた枷に大人しく鎖されている。

寝台に獣のようにうずくまり、解きたい腕を押さえて捻じこみ、好きに解ける枷を決して、自儘に解くことをせず。

なぜならがくぽこそがまさに、咎持つつみびとだ。

「かぃと、さま……っ」

震える声で赦しを乞うがくぽに、カイトは洟を啜った。嗚咽をいくつもいくつも呑みこむ。

「もう――しないと、誓う、か」

「っ!」

震え、閊えながらもこぼされたカイトの問いに、がくぽがはっと、顔を上げた。爛々たる眼が、カイトを見据える。

涙を溢れさせても受け止めて、カイトはじっと、がくぽを見つめた。

「もう、二度と――しないと」

「誓うっ!」

与えられる赦しの欠片を、がくぽは即座に拾って返した。叫ぶように答えて、ぐっと身を乗りだす。

「二度としない――決して、決して、決してあなたを鎖すことは、枷を嵌め、自らの欲しいまま鎖すことなど!」

言って、がくぽの顔が歪んだ。震える体と、戦慄くくちびると、抑えこむようにきつく、拳を握る。

花色の瞳が光を宿して、カイトと正対した。

「自らの怯えに囚われ、負けて、あなたを貶めるようなことは――このこころ弱さは、赦さない。必ず、打ち負かす。もう、逃げない」

何度も負けた、敗北しきってくり返した罪への悲痛と悲愴と、それにはもう二度と決して負けないという、こころ新たにした誓いと――

震え閊えながらも、強くつよく押しだされた言葉を、花色の瞳に宿る焔を、カイトは容れた。

もう一度、ぐすりと洟を啜る。

「赦そう、がくぽ――おいで。おまえは自由だ」

「っ!!」

涙に潰れる声で告げた言葉がどれほど聞き取り難かろうと、忠義の騎士が聞き逃すことはなかった。がくぽはぱっと身を浮かせ、呼ばれたままカイトのもとへ――

飛びだす寸前で、危うく枷と鎖の存在とを思い出し、慌てて外す。

がくぽが指をさらりと這わせた、それだけで枷は、呆気なく落ちた。

そう、それだけのことなのだ、この枷を外すということは。

カイトには外せないが、がくぽにとってはそれだけの――そうまで簡単であるというのに、呆気ないことであるというのに。

飼い主に赦された仔犬の態で、がくぽはカイトに飛びついた。床に膝立ちとなり、涙が止まりきっていないカイトをきつく、胸に抱きしめる。

「カイトさま……カイトさま」

――呼ぶ声には熱があっても震えて、未だ安堵とは遠かった。声のみならず、体も震えている。かたかたかたと、慄ききったそれだ。

がくぽの腕のなかにはカイトがいて、カイトは大人しく、夫の胸に埋まっているにも関わらずだ。

なかなか泣き止めないカイトを抱きしめ、慰めようとしているはずが逆々で、がくぽこそがカイトへと縋りつくように感じられる。

「がくぽ」

呼んで、カイトはがくぽを座らせた。子供扱いで嫌われるのはわかっていても、首に腕を回し、頬ずりしながら抱きこむ。

一度、きつく瞼を落として涙を切り、カイトはがくぽに見えないとしても精いっぱい、微笑んだ。

抱きこむ腕に力を入れ、微笑ませたくちびるを開く。

「立派な誓いだった、がくぽ――自らの弱さを認めるなど、どれほど勇気がいったことだろう………おまえは私の誇りだ。私はおまえが誇らしいよ、がくぽ」

「……っ!」

がくぽははっとしたように震え、束の間、固まった。

名残りの涙に掠れても、いつものやわらかさを持った声だった。

表向きの言葉のみならず、こころから、不実な夫を容れてくれたのだとわかる。

「かぃと……さま」

「ああ」

ややしてゆるゆるとほどけたがくぽは、ぎこちなく腕を上げ、カイトの背に回した。

背に回った腕は折れよとばかりきつく、きつくきつく、カイトを抱きしめ――

くっと上着を掴み、やがて裂くほどの力でもって、縋りついた。

耳にかすかに届いた嗚咽と、胸元を濡らしたものについて、カイトは知らぬふりを通してやった。