B.Y.L.M.

ACT1-scene10

「んぅ……っぁ、カイト、さま……っ、カイトさ、……っ」

「ぃ、う、…っふ、ぁ……っ」

カイトに奉仕していたばかりで自分を構いつけていた様子はないのだが、若さか幼さか、あるいは追いつめられるまでに思いつめた情熱のゆえか――

自慰や、カイトによる奉仕の間を挟むこともなく突きこまれたがくぽのものは、漲って硬く、滾りきって太く、熱かった。

そうとはいえ実のところ、幼い夫の『ご立派さ』は、カイトには比較のしようもないことだ。

再三言うように、カイトには男性経験などなかったし、他の男のものをまじまじと観察するような機会も、これまでになかったからだ。

だからと、もはや完全に成人し、大人となった自分と、未だ成長途上にあるだろう少年のものを比べるのもどうかという話で、つまり比較しようにも、比較対象の情報が圧倒的に不足している。

ましてやがくぽが入れたのは、カイトがこれまで排泄器と認識していた場所だ。そもそも男性器を受け入れる前提の女性器とは感覚も拡張率も違うだろうし、これを太く硬く熱く、ひどくきついと感じたからといって――

一般感覚からどうかは、比較のしようがない。

しようがないが、少なくともカイトにとって今、幼い夫は『立派』だった。

腹内がいっぱいに埋められ、奥の方まで突き上げられる。苦しいほどの質量と、はち切れそうな怯えとが付きまとい、とてもではないが、貧相なとは嗤えない。

「んん、く、ふっ……っ」

「は、ぁ……ぃと、さま……かいと、さまぁ………」

「んぅ……っ」

漲り滾らせたものでカイトの腹を掻き混ぜながら、幼い夫は甘くかん高い声で啼く。

がくぽはどうしても崩れて上がらないカイトの腰をきつく掴んで自分を打ちこみ、自らこそがカイトの夫であると主張しながら、さらに縋るように覆い被さり、愛らしいまでに甘く熱っぽい声を吐きだす。

覆い被さる体勢のために、美貌のせいだけでなく少女とも見紛う一因である、長い髪が垂れてカイトの肌をくすぐっている。

平時であればくすぐったいと笑っただけで済んだはずのそれが、今はカイトへ施す愛撫の一環のようだった。もどかしい感覚を加えられて、気が狂いそうになる。

そのうえに、耳に吹きこまれる少年の、甘く熱っぽい声だ。快楽に蕩けて上擦り、舌足らずに幼い響きで、がくぽは惚けたようにひたすら、カイトの名をさえずる。

さえずり啼きながら、縋るように懸命に、全身全霊を尽くしてカイトを求め、貪る。

「ぁあ、出る……っ、イく………っ」

「いぅ……っぅ……っ!」

ひと際硬く、熱く張り詰めたものから、腹の内へと噴きだす感覚――

同時に首の根に牙を立てられ、カイトの背筋に半ば強制的な痺れが走った。走った痺れに背を仰け反らせ、がくぽに遅れること数拍、カイトもまた、快楽を極める。

「んん……っ」

先にがくぽの口に含まれたときほどではないが、やはりまだ、感覚が強い。否、十分、十二分以上だ。

なにしろ今回、カイトのものはほとんど奉仕らしい奉仕を受けていない。多少は触れられたし、うつぶせであるためにがくぽの律動に合わせて寝具とこすれ合いもしたが、それだけだ。

にも関わらず、とどめと与えられたほんのわずかな刺激だけで、精を放出するに至った。挙句、事後の余韻も長い。

奥歯を食いしばって耐え、カイトはどうしても滲む涙を、寝台に埋めることで誤魔化した。

通常ならば、吐きだせば快楽は落ち着く。ものを突き入れていたところから抜き取れば、さらに早い。男の快楽とはそういうものだ。

しかし今、カイトは突き入れられる側であり、腹の内には未だ、がくぽがいた。幼い夫と、夫が吐きだしたものとが。

腹内を掻き混ぜられる感触もなかなか不慣れだったが、それに追加で、吐きだされたものが溜まり、なんともいえない感覚が下腹にある。

有り体に言えば、落ち着かない。

気持ち悪いとまで、言いきらないのは――

「カイト、さま」

「ぁ、……ふ、ぅ」

放出の余韻に蕩けたがくぽが、顔を寄せる。カイトの口周り、呑みこめずにだらしなく垂れた涎をちゅるりと啜り取った。それこそ性器かと疑うような淫靡さで、熱く濡れる朱い舌がとろとろと舐め辿る。

しぐさは仔犬に似て幼くたどたどしく、腹に入れられたままのものの感触がなければ、その健気さにカイトはまた、ほだされるところだった。

否、感触があっても、だ。

救いようもなく――

カイトは、不安定だった。揺らぎ、求めていた。

求められることを。

「が、くぽ、んぅ…」

覚束ない舌を繰って呼ぶ名は、思いつめて懸命に、必死になってカイトを求め貪る、幼い夫のくちびるに呑みこまれた。

そういえばこれがこの夫との、初めての口づけだと思い至り、カイトのくちびるは綻んだ。

いい意味ではない。

結局、誓約式もなく、体を繋げたということだ。体を繋げ、強引に夫婦と証し立てた。

式とは言わないが、せめても誓約の口づけだけでも交わしていれば、言い訳も立つものを――

考えて、カイトのくちびるはますます綻ぶ。

いい意味ではない。突き抜けて、おかしさが堪えきれずこみ上げたのだ。

カイトは不安定だった。空っぽであり、ひどく飢え餓えていた。

それこそ少年と同じかそれ以上に、追いつめられていた。

生まれたときから王太子として扱われ、求められ、応えてきた。

そのよすがを、奪われた。

生きることすべてであったと言っても過言ではないというのに、突然にして容赦もなく、そして理解不能な理由でもって、唐突に奪われた。失った。自負も尊厳も、生きる由来のなにもかもを。

国を守るためではあった。

南王は圧倒的な力を持ってはいたが、これまではおいそれと、南の領分から出てこようとはしなかった。他国を侵害し、世界すべてを掌中にしようとは企まなかったのだ。

南王が望めばおそらく、それは易々と叶ったはずだ。そういう力であり、それだけの力だった。

であってもこれまで、南王が力を振るうのは南の領分に於いてのみであり、他国を脅かすことはなかった。

けれど、カイトを――カイトという『花』を得るためには、手段を選ぼうとしなかった。

初めて南王は、持てる力を南の領分から出した。それも脅しの手始めとして、ほんのごくわずかに。

ごくわずかでも、哥にとって、西方にとって、<世界>にとっては衝撃であり、なにより甚大だった。

被害も、影響も――

初めは撥ねつける以外の選択肢を持たなかった国が、歌王が揺らぎ、最終的にカイトは王太子の任を解かれ、南王のもとへ嫁すことが決められた。

カイトの忠実にして信の篤い騎士団員たちは自らの力不足を大いに嘆いたが、国の決断を、歌王の下した裁可を、覆すには至らなかった。

その力がないことが、まるで力及ばないことが、誰にも重々に理解できていたからだ。あたらいのちを散らすだけであり、被害を拡大させることこそあれ、自分たちが剣を捧げ、いのちを懸ける主たるカイトにとって、微塵も有利とは運ばないと。

カイトもまた、同じだ。

不幸なことに、いかにしようとも、この力に抗しきることは不可能だと、すぐさま理解できる程度の頭を持ち合わせていた。

生国にして、自分がいずれ負って立つ哥の国への愛着と愛惜もあり、カイトにとってそれは、『自分は王太子であり、いずれ国王となる身である』という認識より、はるかに重いものだった。

それは替えが利く。

けれど国が亡ぶことに、替えは利かない。

重ね重ね不幸なことに――あるいはひどく恵まれたこととして、カイトの頭はそのことを理解し、呑みこむことが可能だった。

王族や貴族といった特権階級は往々にして、『自分は特別ではない』、あるいは『自分はいくらでも替えが利く』ということを理解できず、呑みこむこともできないことが多い。

これが他人相手なら、おまえなぞいくらでも替えが利くと嘯き嗤うのだが、自分のこととなるとあっさり棚上げし、別立てに考える。

が、カイトは不世出の賢王となる素質として、そのことを認識し、理解し、呑みこむことができた。

こんなことでもなければ、確かにカイトは歴史に名を刻む王となっただろう。

そう、決して特別ではなく、替えも利くが、カイトは確かに特別で、替えが利かない存在だったのだ。

しかし大事は起こった。カイトが王と成る前、名を刻む前に。

最終的な決断を下したのは歌王だが、抵抗せず、受け入れたのはカイトだ。

その頃には、どうしても南王に抗しきろうという声も、上がらなくなっていた。王太子を嫁させるなど、もはや敗北以上に併呑されたも同じで、屈辱や恥辱といった言葉では到底足らないという、あの、ことの最初に主流であった主張は、まるで。

むしろ一刻も早く、カイトを引き渡すべきではないかと――

表だって大きな声では上げないものの、そういう流れで風潮が、強くあった。王宮だけでなく、国全体としてだ。

素質を持つものとして将来を嘱望された王太子から、『厄介者』として疎まれる身分へ――

『時が来ただけだ』と理解し、呑みこむ頭は持っていた。

だがそれと、傷つかないことは別だ。

突然に厄介者の身分となり、疎まれ、隔離された。

カイトが生まれてから二十数年かけて築いてきた尊厳も誇り自負も、踏みにじられた。

この先を望む気持ちも、前進するための力も失い――

自らの基盤が崩れ、揺らぐカイトを、少年はなにかに追いつめられ、ひどく思いつめて激しく、求めた。

言葉だけでなくすべてでもって求め、与えられるわずかなものすら、懸命に貪る。

崩れ、傷つき、揺らいでいたカイトのこころが――

そんなものですら求めずにはおれないほど、そんなものですら癒されてしまうほどなのだと。

否応もなく自覚させられて、カイトはひたすらにおかしい。嫌な方向性の笑いがこみ上げて、なんとか堪えてはいるが、苦しい。

そうやっておかしいと思いながら、自分が不安定に揺らぎ、まともではないことを自覚しながら、――

『こんな』自分を求めてくれる少年に、傾倒していくことを止められない。止めたい気にもならない。

それこそが不安定のなによりの証だったが、理解したうえで、カイトは黙殺した。

彼は南王を斃してくれた。

カイトのすべてを崩し、奪った相手を。

恩人だ。

なによりも優先されるべき、優遇されるべき。

それでカイトの手からこぼれたものを取り戻してくれたわけではないが、いい。もう、どうでもいい。

彼が自分を求め望むなら、こうまで懸命に縋りついてくれるなら、それがすべてだ。応えてなにが悪いだろう。

もはやこの手にはなにも持たない、空漠にして空白でしかないカイトを求め望み、貪ることでなにかが満たされるというなら、好きにすればいいのだ。

「は、ぁ……っ」

「かいと、さま」

くちびるを重ね、互いの舌を絡めて吸い合う口づけは激しく、長かった。カイトは咄嗟に息を継ぐのがせいぜいで、がくぽにしても、痺れた舌で吐きだす言葉のたどたどしさは異常なほどだった。

腹の内には未だ、成り立ての夫を咥えこまされている。腹の内で脈打つものの感触は未知でも、どういった状態かを推し量ることは、同じ男として可能だ。

年頃の少年は、一度きりで満足しない。

それも、これほどまでにきつく、強く求める相手ならば――

「かぃと、さま………」

「ん……」

ゆるりと微笑むと、カイトはがくぽの髪をひと房、取った。口づけ、凝然と見つめる相手を招くよう、軽く引く。

「いい。……赦す。好きに、しなさい」

今日――おそらく『今日』だ――、彼と出会ってから何度もなんども口にしては、後悔する羽目に陥った言葉だった。

覚えていてもカイトは後悔することなく告げて、そしてがくぽもまた、今度は傷ついた表情を見せることはなかった。

逆に、淫猥に蕩けていた表情がぱっと明るく、咲き開く。

ああまるで、花が咲くようだと、こちらのほうがよほど『花』と呼ぶに相応しいと――

考えたような、気がする。

赦しを得た幼い夫は、初めよりさらに懸命に貪欲に、新妻を貪った。

『求められる』ことに飢えきっていたカイトは、もはや他ごとを考える余地もその気もなく、仄暗さを伴う心地よさに逃げて溺れこんだから、はっきりとは覚えていない。