膝に乗っていた体を、畳へと押し倒した。

薄く無防備な寝間の帯を解き、袷を開く。

おにそしぁ・あめしすて-16-

「がくぽさま………」

「ん…」

転がされても、カイトはいつものように竦むことなく、やわらかに解けてがくぽの体に腕を回した。

そのまま再び、くちびるを押しつけてくる。

強請られているのだからと、がくぽは遠慮なくカイトのくちびるにくちびるを合わせ、舌を押しこんだ。

「ん………んんぅ……ふ、ぁ、はふ………っ」

激しく巧みな舌遣いに、カイトの体は陸に上がった魚のようにびくびくと跳ねる。

跳ねる体を押さえこみつつ、がくぽは久しぶりとなる肌を丹念に辿った。

相変わらず、骨の細い体だ。筋肉のつきが悪いのは致し方ないが、がくぽと比べるとあまりに華奢で力無い。

肌は吸いつくようになめらかで、しっとりと潤い、そしてなにより、熱かった。

「ん、ぁ、あ、ぁあっ」

「…………」

くちびるを振りほどき、カイトが一際高く啼いた。

がくぽはわずかに瞳を見開くと、肌を辿っていた手を性急に下半身へと回す。

手を差し入れると、カイトのそこはぐっしょりと濡れていた。

先走りではない。間違いなく、達している。

「………カイト、そなた……口吸いだけで、達するとは……」

粘る指先を見せながら呆れたようにつぶやくと、カイトはぶるりと震え、がくぽを甘く睨んだ。

「だって………この二月、がくぽさまを、ずっとずっとお待ちして………」

しつこく嬲られたせいで、言葉は舌足らずで覚束ない。

カイトはひとつ大きな息を吐くと、がくぽへとしがみついた。

「………がくぽさまが欲しくてほしくて、気が狂いそうでした………がくぽさまのお手が、がくぽさまのお口が、………がくぽさまの、お体が」

「………カイト…」

がくぽはごくりと唾液を飲みこみ、逸る己をどうにか落ち着けようとした。

カイトは酔っている。とろんと夢見に熱っぽく潤んだ瞳がなによりその証拠で、おそらく言葉は正気で放たれていない。

けれど正気でないということは、これは普段押し隠されている、カイトの本音。

がくぽが欲しいと、体を疼かせる、切ない想い――

「ね、がくぽさまぁ……」

「ああ………」

胸に愛おしさが募って、がくぽは言葉を詰まらせた。

甘い瞳。甘い声。そして、甘い体。

そうでなくとも久方ぶりの逢瀬で、堪えが利く気もしないというのに、さらに酒で理性が溶け、そこにこの誘い。

がくぽはわずかに腫れぼったくなったカイトのくちびるに、再び吸いついた。

「ぁ、ん…………んん、ふ………」

カイトは従順に受け入れて、拙いながらも懸命にがくぽに応えようとする。

そこに愛しさを掻き立てられ、がくぽはカイトが放ったもののぬめりを指に乗せ、さらに奥を探った。

「ん、ふ………っぅ……っ」

「………」

探った窄まりがきつく締まる感触に、がくぽは自分が安堵することを感じた。

そもそもが男を受け入れる場所ではない。どうしても馴らさないと忘れる場所だから、己で慰めるときにでも使っていればいいと思う。

思うが、久方ぶりに触れたそこが、あまりにきつく、快楽を忘れ去って押しこむものを受け入れると、どうしようもない安堵感がこみ上げる。

誰も、カイトの体を知らない。

誰も、カイトの体を開いていない――

わかりきっていても、なにより確かに実感出来て、痛むカイトに哀れは覚えても、どうしても心が緩む。

「ぁ………んんぅ」

「案ずるな、カイト……すぐに、悦うしてやる」

異物感と痛みに震えるカイトに、がくぽはこういうときに滅多にはしない、やさしい声で吹きこんでやった。

今日はただ、ひたすらにカイトにやさしくしてやりたかった。

我が儘を言うならすべて聞いてやりたいし、体を開くのならば、怯えを与えることなく、快楽だけで蕩かして。

「ぁ………ふ、ん………がくぽ、さま………」

「ああ」

呼ばれて、がくぽはくちびるをカイトの額に落とす。その瞬間に、指がカイトの弱点を突いて、下に敷いた体が大きく跳ねた。

「ぁ………んっ」

「………よしよし…」

かん高い声で啼いて縋りついてきたカイトに、がくぽはあやす言葉をつぶやく。そうしながら、指はしつこく、カイトの弱いところを抉った。

「ぁ、ぁんん………ぁ、あ、………っがくぽ、さま………っぁう、カイト、カイト、また……っ」

「ああ、良い。いくらでも、達しろ。どうせそなた、己では十全に慰めておらぬだろう?」

「ぁあっ、ふぁあ………っやぁあっ」

酒の効果で、いつになく体も尖っているらしい。

久しぶりに与えられた快楽というだけでもなく、カイトはあっさりと二度目の極みに達した。

腹に飛び散るのはカイトが男である証で、ここ最近は見るたびに複雑な心境から苛立ちが募った。

しかし今日は愛おしさが掻き立てられて、がくぽは身を屈めると、濡れる腹を丁寧に舐め辿る。

「ぁあ、ん………っ、め、ぁ、だめぇ、ふぁ………っやぁ、おなかぁ………っ」

言葉にもならず、カイトは体を震わせる。

止められても聞かず、がくぽはそのまま、腹から下へと、くちびるを這わせた。

「ゃあぁ………っ」

達したばかりで神経が尖る性器を口に含まれて、カイトは大きく仰け反った。

がくぽによってしっかりと押さえこまれて、逃げることは出来ない。

それでも、痛いほどに募らせられる快感に、カイトはぼろりと涙をこぼして身もがいた。

「ぁあぅ、がく、がくぽ、さまぁ………っ」

「………ああ」

ちゅるりと音を立てて、年から考えれば幼いようなカイトの性器から残滓を啜り取り、がくぽは顔を上げた。

くすんくすんと、洟を啜りながら身を震わせて快楽に染まるカイトを、つぶさに眺める。

いくら見ても、見飽きる気がしなかった。

もちろん、見ているだけでなく、これからさらに――

「ん、がくぽ、さま………」

「なんだ?」

少しだけ落ち着いた呼吸の下、強請る色を閃かせて呼ばれ、がくぽは瞳を細めた。

なんでも聞いてやりたい。

思って身を屈めるがくぽの下半身へと、カイトは手を滑らせた。

「………カイト、がくぽさまの、お舐めします………」

「……」

言葉とともに閃く舌を見て、がくぽはくちびるを引き結んだ。

下手に煽られると、このまま暴走しそうだ。

がくぽはわずかにカイトから体を浮かして離し、首を振った。

「良い。今日は、そなたを……」

「カイト、ずっと、口寂しうございました………がくぽさまの、お熱を待って…」

「……」

煽るなと、もはやくちびるを塞ぐしかないと思うような、カイトの言葉だった。

堪えようにも我慢が利かず、がくぽはカイトの上から体を起こす。座って軽く寝間を肌蹴ると、ふらふらと体を反したカイトが、躊躇う様子もなくそこに顔を埋めた。

思うとおり、カイトの小さなくちびるはそそり立つがくぽのものをいっぱいに含んで、言葉を出す隙もなく塞がれる。

「ん………んちゅ………ふぁ、んちゅ、ちゅ………っ」

酔っているせいか、過ぎる興奮のせいか、そもそもが微妙に覚束ないカイトの口淫は、さらに覚束ない。瞬間、眉をひそめたがくぽだが、すぐにきりりとくちびるを噛んだ。

カイトは今まで見せたこともないほど陶然とした表情で、熱く漲るがくぽをしゃぶり、舐め啜っている。

拙く動く指も、閃く舌も、待っていたと言うに相応しいだけの熱意で、愛おしげにがくぽを昂らせ、極みに追いこむ。

「ん、んん………」

「く……っ」

珍しくも、がくぽは懸命に極みを我慢する羽目に陥った。

あまりに早く達するようでは、男として悩ましい。それに、こうまで熱心なカイトを、出来るだけ長く眺めていたくもある。

カイトの体を開くときは、いつもなにか苦行僧じみた覚悟がいったが、今日は別の意味で格別だった。

「ん………」

ちゅく、と音を立てて先端を啜ったカイトは、上目遣いにがくぽを見上げ、はんなりと微笑む。

「がくぽさま………カイトの口に、ください………がくぽさまの子種、カイトに飲ませてください………」

「………っ」

「んっ………んんっ」

我慢も限界だった。

おねだりは甘い声で、堪えきれない欲を滲ませて発され、カイトが心から待ち望んでいると知らせる。

いつもは無理強いをしている後ろめたさがあるから、そういった『おねだり』は、余程気分を害しているときにしかやらせない。

ひと時は煽られるが、達して冷静さを取り戻したあとの慙愧の念が、堪えがたいほどに辛いのだ。

だが、今のこれは、カイトが自分から、心からそうと望んで強請っている。

低く呻くと、がくぽはそれ以上引き延ばすことも出来ずに、カイトの口に体液を放っていた。

咥え切れていなかったカイトの顔にも、白濁したものが飛び散り、汚してしまう。

「んん………」

まずは口をつけて、間歇的に吹き出すものを飲み干したカイトは、幼いとすらいえるしぐさで顔に手をやると、汚れを無造作に拭い取った。

「カイト……」

「んん」

拭いてやろうと手を伸ばしたがくぽから逃れ、カイトは今達したばかりのものに、再び指を絡める。

一度達したくらいで、治まるがくぽではない。

すでに硬さをもって漲っていた雄を、カイトはまだ足らないとばかりに弄った。

「カイト」

「がくぽさま…」

熱意をこめてがくぽを舐めていたカイトの舌は、痺れて言葉が覚束ない。

その舌足らずな口調で、カイトは指で弄ぶがくぽのものを示した。

「これ………カイトのなかに、入れてください………カイトのこと、ちゃんと『女』にして………」