「ん、んん………ぷ、ぁ………ん、んく………っ」

咽喉を鳴らして、カイトは放たれたものを呑みこむ。一度目ということだけでもなく、量は多く、濃厚なにおいだった。

-03-

「ふぁあ………」

きちんと含みきれずに顔を汚したカイトは、蕩けきった声を上げる。

「………たまにそなたは、度肝を抜いてくれるものよな」

「ふゃんぁ、ふぁあんっ」

汚れたのは、カイトの顔だけではない。がくぽの雄もどろりと濡れ、だというのにすでに天を撞いて勃ち上がっている。

ぴちゃぴちゃと、ねこが水でも飲むような音を立てながら舐め啜っていたカイトだが、びくりと背筋を強張らせた。

がくぽの手が伸び、うずくまるカイトの尻を撫でている。帯はしていないからすぐに肌蹴られる着物を捲り、侵入した手は躊躇いもなく、きゅっと締まった双丘に潜りこんだ。

「酔っぱらっておるな、完璧に」

「ぁ、あ、あ、んゃっ、めぇ………っぁ、がく、さ………っぁあんっ」

解いてもなければ、濡らした覚えもない。いくらおよめさまとして飾り、女の形をさせたところで、その下のカイトの体は男だ。

だというのに、本来濡れるはずも解けるはずもない場所は、すでに濡れてやわらかに解け、がくぽの指を貪欲に呑みこんだ。

絡みつく襞の熱さが、蕩け具合が、並ではない。

くちびるを舐めて湿らせ、激情を堪えたがくぽは、甘い声を上げながらびくびくと痙攣するカイトをやさしく見下ろした。

「カイト、今度は下の『口』でも、花見酒と行こうかこうして物欲しげにしておる口に、なによりもそなたが好んで酔う『酒』を、たっぷりと飲ませてやろう?」

「ひゃ、ぁ………ぁんっ、がく、ぽ、さ………っんんんっ」

ぐちぐちと、耳から犯されるような音とともに、カイトの中が掻き混ぜられる。逃げるようにずり上がったカイトはがくぽの首に腕を回し、それでもなおしつこく弄られる下半身を涙目で見つめた。

「要らぬか、カイトもう十全に酔ったか」

「ん、ぁ………よっぱ、ら………?」

ささやかれる言葉が理解できぬげに、カイトは覚束ない口調でくり返す。がくぽの首に回した腕にきゅっと力を込め、嘆願するようにも、なにかを強請るようにも取れるしぐさで擦りついた。

「カイト」

飲ませてやろうと親切ごかしに嘯いたが、実際捻じ込みたいのはがくぽだ。思考も覚束なくなって反応の鈍いカイトの答えが待てず、急かすように名前を呼ぶ。

堪えても堪えても息が荒くなり、雄が濃厚に香る。上がった体温に釣られて、被った酒精の香りも高くなる。

擦りついていたカイトは息が詰まって、喘ぎながらがくぽに凭れた。

口に含まなくとも、充満する香りで泥のように酔わされる。

「カイト」

「んっ、ぁあ……っ」

堪え切れないと耳朶を咬まれ、中に突きこまれた指がきつく粘膜を抉る。ぶるりと震えたカイトは、酔って理性を失い、蕩けきった顔を上げた。

常に揺らぐ瞳は焦点がぶれて清明な光を失い、濁り色となりながら滴る蜜毒にも似た熱と甘さを持って、がくぽを見つめる。

「くださ………がくぽ、さま………おれの、だいすきな………いちばん、よっちゃう、ぉさけ………下の、おくちに、のませて………?」

「いい子だ」

「ふゃっ!」

許諾を吐かれるや、なにかを誑かす言葉をつぶやき、がくぽはカイトを敷布へ転がした。わずかの間にはらりと散っていた桜の花びらが数枚、煽りの風で再び舞い上がり、すぐにまた落ちる。

「ぁ、がくぽ、さ………」

「たっぷりと飲ませてやる。そなたが酔って、意識を失うほどな」

「ん、ぁ………っぁ、ふぁっ………っ」

カイトがなにか言うのを待たず、伸し掛かったがくぽは痛いほどに漲る己を捻じ込んだ。

やわらかく解けてはいても、いつになく性急だった。瞬間的にびくりと強張ったカイトだが、がくぽは構わずに押し込んでいく。

合わせるようにカイトの背は仰け反り、がくぽの腰に絡みついた足にきゅうっと力が込められる。

「ふ………っ」

瞬間的なもので、がくぽのくちびるからは笑みがこぼれた。

「ぁ……っ、ぁ………あー………っ」

抑えつける体の下で、カイトはかん高く細い悲鳴をこぼす。くり返される小さな痙攣は、痛みや恐怖からではない。

根本まで埋め込んだことで一度動きを止めたがくぽは、笑いながらカイトの腹を撫でた。敏感に尖った肌が殊更に震えて、カイトの上げる悲鳴がさらに高く甘くなる。

「達ったか。押しこまれた、それだけで」

「んんっ、ぁああ………っんっ」

快楽を逃そうと、カイトは身悶えながら嬌声をこぼす。触れた覚えもない愛らしい雄は、とろりとした粘液をこぼし、体と同様に小さな痙攣をくり返していた。

噴き出したもので濡れた腹を撫で辿り、がくぽはひくつくそれを掴む。粘液を塗りこめるように扱くと、カイトは腰を跳ね上げ、腹の中のがくぽを食い千切らんばかりに締め上げた。

「きつい。動いてやれんぞ」

「っぁ、や………っぅご、いて………おなか、かきまぜてぇ………っ」

「ならばもう少しう、緩めろ」

いたぶる声音で耳朶に吹き込みながら、がくぽはカイトの雄を掴んで扱き、やわらかに揉んで撫でる。惑乱したカイトはぷるぷると首を振り、嗜虐趣味の夫の首に腕を回してしがみついた。

「め、だめ………っむり、っぃ………さわ、さわられて、たら………できな………っぁあ……っ」

嘆願の途中できゅっときつく掴まれ、カイトは背を仰け反らせた。わずかに生まれた隙間から頭を落とし、がくぽは突き出された形のカイトの胸にくちびるを寄せる。

ころんと硬くしこった突起を口に含むと、舌を絡めながらちゅくりと吸った。

「ゃああ、めぇ………っ」

「ふっ、……っく………っ」

啼きながら、カイトはさらにきつく腹の中のがくぽを締め上げる。さすがに呻いたがくぽだが、だからと口を離すことはない。

先にカイトがしたよりもさらに淫靡にこなれて、ぺったりと平坦な胸に浮かぶ突起を舐めしゃぶり、牙を立てて嬲った。

「ぁ、ぁんん、がく、がくぽ、さ………っぁ、あ……っ」

「……っ」

啼くカイトがとうとう、自ら腰を揺らめかせ始めた。どこが自分の弱点で、どこを突かれると快楽を得られるのか、晩生のカイトもさすがに学習済だ。

きつく締まって、下手にがくぽが動けば傷つけそうな粘膜を、懸命に蠢かせて快楽を貪る。

「ぁ、あ………っんん、い………っ、きもち、ぃ………っごりごり、あたるの………っぁあん……っ」

「く……っ」

自ら腰を揺らめかせる様子も、貪る快楽にさらに蕩けて啼くさまも、あまりにはしたなく淫らがましい。

縋りつくようにがくぽの背中に回った手が爪を立て、長い髪を引っかけて、痛みを呼ぶ。

がくぽに与えられているのは、痛みだ。背中に爪を立てられ、長い髪を引かれ、腹の中にねじ込んだ雄を食い千切るように絞られる。

痛みだが、すぐさま反転し、これ以上ない快楽となって全身を痺れさせる。

がくぽは眉をひそめてくちびるを噛み、夢中になって腰を揺らめかせるカイトを見た。

陶然と蕩けて綻び、喜悦の涙をこぼす瞳は濁って光を失っている。

くちびるがこぼすのは意味もなく、快楽を訴える嬌声か、さもなければがくぽの名前だけだ。

「……………っ」

堪えようもなく、がくぽのくちびるが歪んだ。満足の笑みを刻み、がくぽは横たえたカイトを抱きしめる。

嗜虐趣味でありながら、与えられる痛みが悦楽に変わるのは、カイトだからだ。これ以上なく、比べようもなく愛するカイトが与えるものだからこそ。

並び立つものもないただひとりのおよめさまが、がくぽを貪って蕩け、理性を飛ばした挙句に与えるものであればこそ――

「ん、ぁ、がく、ぽ、さま………がくぽ、さまぁ………ぅご、いて………たりな、………ぉなか、もっと、いっぱい………いっぱい、かきまぜないと、…………たりなぁ………っ」

「仕様のない」

弱点も快楽のつぼも学習しているが、夫が与える激しさには及ばない。

腰を揺らめかせながら強請ったカイトに、がくぽは嘯いた。堪えても堪えても息が荒くなり、呆れる言葉はカイトをいたぶるというより、溺れた挙句に堪え性の失せた己を腐すものだ。

「仕様のない……」

笑ってつぶやくと、がくぽはカイトの腰を抱え直した。緩く埋まっていた己を、奥の奥まで突き込む。

「っぁ、ふゃぁあっ」

びくりと跳ねて啼いたカイトを押さえこみ、がくぽは痣が出来るほどに激しくきつく、腰を打ち込んだ。

腰を挟むカイトの足にきゅうっと力が込められるが、動きを止めることは出来ない。むしろ太ももを掴まれて押し広げられ、殊更に性器を曝け出す格好にされた。

かん高い声を上げながら、カイトは懸命にがくぽにしがみつく。求めた通り、自分でやるよりよほどに激しく容赦なく、腹の中が掻き混ぜられる。

一歩間違えば痛みに変わる、恐怖と惑乱も入り混じったぎりぎりの快楽。

しがみつかなければ、ぎりぎりを外れて転落し、もう二度とは上がってこられない――

「ひ、ゃ、ぁああっ」

背徳が体内を駆け巡り、カイトは堪え切れずに大きく震えた。腹の中を掻き混ぜるがくぽも、きつく締め上げる。だけでなく、粘膜は絞り上げるように蠢き、痙攣をくり返した。

「ふ、く………っ」

「ぁあぅ………ぁ、あー…………っ」

耳元に吹き込まれた呻き声と同時に、カイトの腹の中は熱く灼かれた。苦しいほどに満たされて、なお激しく掻き混ぜられる。

「ぁ、あ………っぁ、ぁー………………」

カイトも絞り上げるが、がくぽも激情を吐き出しきろうと、きつく腰を打ち込む。達した余韻で敏感に尖り、痺れる粘膜を容赦なく抉られ、突かれて、カイトは止まることもない絶頂に落とし込まれた。

華奢な体が、がくぽを跳ね飛ばさんばかりに暴れて悶え、ややしてがっくりと力を失い、崩れる。

「………………加減出来なかったか」

ようやく放出が治まったがくぽは、荒い息の下でぽつりとつぶやいた。

過ぎた快楽に、カイトは意識を飛ばしている。

「………まったく。たまにそなたは、俺の度肝を抜く」

慨嘆して、がくぽは怠い体を起こした。ずるりとカイトの中から抜き出すと、胡坐を掻いて座る。

放り出していた徳利と盃を取り、酒を注いだ。ひと口で煽り、息を吐く。酒精で胸が灼かれ、怠かった体が浮くような心地を覚えた。

がくぽはかりりと首を掻くと苦笑して、横たわるカイトを眺めた。

「たまにでは、ないな。ごく頻繁だ。印胤家当主の度肝を抜きまくるなど、どういう嫁だ。それともなんだ俺が一族の歴史上類を見ないほどの、情けない当主だと?」

因業一家として鳴らし、親子兄弟姉妹で食い合うことが常の印胤家にあってすら、鬼子と呼ばれ畏怖されたのが、がくぽだ。

情けない当主であれば、どれだけ一族が――

「………まあ、そうだな。そなたを前にすると、俺は常に情けない男だ。甲斐性もなく堪え性もない。ないない尽くしだ。情けないどころではないな」

機嫌よく戯言をこぼしながら、がくぽは新しい酒を注ぎ、今度は味わうようにゆっくりと啜った。

「こういった趣もありだな。いつもと違って、なかなかに積極的で………」

思い返しながら酒を啜り、未だ意識を取り戻さないカイトの姿に、がくぽの瞳は性悪に撓んで緩んだ。

愛するおよめさまと、していたのは愛し合う行為のはずだ。

しかし乱れた着物を辛うじて肌に引っかけ、諸々の体液に全身を汚して力なく横たわるカイトは、嬲られた後にしか見えない。

一方的な行為ではなく、お互いに求め合った結果の――はずなのだが、どう見ても。

「んー………っ」

ますます機嫌よく酒を舐め、がくぽは瞳を細めた。

体液に塗れて汚れたカイトに、散る花びらが降りかかる。ひらりはらりと降る花びらは、さらに綾に妖しくカイトを彩り、艶めかしく無残に飾っていく。

花びらを散らす大元の桜の木は、すぐ傍らにある。ほんのわずかに見上げれば、今を盛りと視界を埋めるほどに、見事に咲き誇っている。

しかしがくぽはひたすらに、カイトだけを見つめていた。

意識を失って、無防備に曝け出されたカイトの肌に降りかかり、飾る花びらだけを。

「佳い花見だ。陽気は穏やかで花は美しく、嫁は淫らにはしたない。まさに理想そのものよな」

――己の方向性に全き疑いのない印胤家当主は上機嫌でつぶやき、花を愛でいとおしめる己の現状に、これ以上なく感謝していた。