目を覚ますと、体はきれいに清められて、そのうえで布団の中だった。

妙に腹が重いと思えば、がくぽの腕がしっかりと回されている。

ひとつ布団に、裸でふたり。

大江戸噺-09-

「…っ」

ふわ、と目元を染め、カイトは横を向く。

健やかに眠るがくぽの顔を至近距離で眺めて、くちびるを噛んだ。

障子越しの光は、すでに日が昇っていることを示している。

外の様子を窺うために耳を澄ませて、カイトは眉をひそめた。

静かだ。

とはいえ静寂の意味が、長屋とはあまりに違う――あれほど物々しい警備だったのに、ひとの気配がない。

傍にいない、というより、ひっそりと沈めて控えている感じだ。

「ん…」

「っ」

がくぽが寝返りを打ち、腰に回っていた手が肌を撫でて離れる。その感触に体中がざわめいて、カイトは震えた。

昨夜の名残は、あまりに生々しく残っている。

白い肌を浮き立たせる、いくつも散った紅い花弁もそうだが、見えない体の奥が、ずくずくと疼いて治まらない。

「…」

生涯、虜にしてやる、と言われた。

ずっと傍に置いてやる、と。

最中、ささやかれる言葉がすべて睦言に聞こえて、耳に甘いのが悲しかった。

そこに心はないはずなのに――あるように思えて、望んでしまう自分が、愚かだと思う。

望むものはすべて与えると言われて、それなら心も望みたいと思って、何度も口に出しそうになった。

こころとともに、俺の体を撫でて?

あなたのこころを、俺に頂戴――

甘い声で虜だとささやくから、そうだと頷きたくなる。生涯、あなたの虜でいたい、と。

そんな関係に先はないし、展望もない。

なによりカイトにはカイトの世界というものがあり、掟がある。

――顔向けしたいなら、帰っていらっしゃい。

メイコはそう言った。

とはいえ、がくぽとの関係がこうなった以上、あの長屋に潜むことはもう出来ない。

それ以上に、自分を縛る絶対の掟があって、それに反した以上、もう江戸にいることも出来ないのだ。

里に帰り、処分を待たなければ――

忘れてはいけないが忘れがちな掟を、ひとときの感情に駆られて破った。

これまでずっと守ってきたのに――正体を見られた以上、もう江戸にはおれない、がくぽとも会えないと思ったら、堪えられなかった。

それで生涯閉ざされても、がくぽを感じたいと。

「………だめ、だな。俺」

つぶやき、そっと起き上がった。

腰が重く痺れていて、顔をしかめる。

いつも以上に、俊敏な動きが出来る気がしない。こんな状態で逃げられる気はしないが、体が回復するのを待つと、必ずがくぽが起きる。

そして起きたがくぽを見れば――逃げる決心が、鈍る。

このあとにどんな責め苦が待っているとしても、一瞬でも長くがくぽの傍にいたいのだ。

とりあえずなにか着るものを、と辺りを見渡して、がくぽが脱ぎ捨てた着物に目が行った。

自分が着てきた忍び装束は破られて無残だし、日の光の下ではかえって悪目立ちする。

畳の離れたところにあるそれを見つめ、カイトは頷いた。

このうえさらに、がくぽの着物など着たら離れがたくなるが――

眠るがくぽを窺い、そっと布団から抜け出る。

立ち上がって歩こうとしたところで、へちゃんと座りこんだ。

「え………?!」

もう一度、立ち上がろうと試みる。

手をついて、腰を上げて――だが、まるで生まれたての馬の子のように、足が笑う。

力が入らないそこは自分ではないように言うことを聞かず、足は虚しく畳を掻く。

「うそ………!」

「なにが嘘だ」

「ひきゃっ?!」

呆然とつぶやいたところで後ろから声が上がり、さらにカイトは腰が抜けた。

振り向くより先に腰に腕が回って、引きずられる。布団の上に戻されて、カイトはようやく振り向いた。

「が、くぽ…さま………」

「阿呆か、そなた。立ち上がれるような責め方など、するわけがないだろう」

「…」

罵られるところだろうか。

自信満々に吐き出された言葉に、カイトは呆然とするしかない。

まだ少し眠そうな顔のがくぽは、空いた手でかりかりと頭を掻いた。

腰に回った手が肌を辿って、夜に散々に責めた奥の秘所へと潜りこんでいく。

「がくぽ、さまっ」

「ましてや初めてだろう。余計に、立ち上がれやせぬわ」

「や、だめ………っ」

得々と言いながら、がくぽの指が奥に入る。きれいに清められてはいても、昨日の名残のあるそこを弄られて、カイトは体を折った。

がくぽは笑って、自堕落に寝転んだまま頭だけ上げ、カイトの腰に口づける。

「ぁ、だめ…………っ抜いて………っ」

「痛みやせぬだろう。よう馴らしてやったものな」

言いながら、がくぽは中を弄る。

朝の光の中で聞くといたたまれないことこのうえない水音が耳を打って、カイトの全身が赤く染まった。

がくぽは瞳を細め、なめらかな背中を眺める。

「何処に行く気かは知らぬが、忘れるな。そなたは俺の虜だ。俺がそう簡単に虜を逃がす相手と思うな」

「………がくぽ、さま」

震えながら、カイトは振り向いてがくぽを見る。鋭い眼差しと目が合って、心がぐずぐずに折れそうになった。

「さて、ちょうどよく目も覚めたことだしな」

カイトの奥に指を突っこんだまま、がくぽは起き上がる。

昨日、散々にカイトの中を掻き回したものが、すでにたくましく復活しているのが見えて、カイトは目を見張った。

「がくぽさま」

「朝のひと働きをしてもらおうか」

「うそ」

「なにが嘘だ」

しらっと言い、がくぽはカイトの体をさらに引き寄せた。裸の肌にがくぽのものが当たる感触がして、カイトはびくりと震える。

それが体の中でどう暴れたか、記憶は生々しい。

「あ…」

強張っていたカイトの体から、ゆるりと力が抜ける。

甘く蕩けた体に満足げに笑い、がくぽはカイトへとくちびるを寄せた。

その瞬間、大きな音を立てて障子が開かれた。

「ちょぉおっと待てぇいっっ、こんっのろーぜきものっっ!!ボクのおにぃちゃんから手を離せぇえいっ!!」