熱も引き、声も戻った。

ある意味カイトは本復したと言えるはずだが、がくぽは口づけ以上のことを仕掛けはしなかった。

グミとの約束は、カイトの体に肉がつくまで、だ。

二、三日触れないくらいで戻る肉でもない。咽喉を潰して五日は言うに及ばず、それから五日経過しても、がくぽはカイトを膝に抱いてあやすのがせいぜいだった。

夢色噺-09-

「………美味かったか」

「はい、んっ」

微笑む口が塞がれて、カイトはがくぽの舌を受け容れる。

最近、習慣と化しつつあるのが、夕餉の後の削り氷だった。

咽喉が治っていろいろ食べられるようになったカイトのために、削り氷に合わせられるものも、ざらめ水だけではなくなった。

餡だったり、きなこだったりと、日ごとに違う。

がくぽは自分の膝にカイトを乗せて、それを給餌することを愉しみにしていた。

そして食べ終わると、冷え切った口の中を、ほんの少しだけ探る。

「ああ、確かに美味い」

「………がくぽさま」

くちびるを離してつぶやくがくぽに、カイトは恥ずかしげに俯く。

その体が小さく震えて、がくぽは瞳を細めた。

「冷えたか」

「ぁ………」

言いながら、膝に乗せたカイトの体を抱き寄せる。

障子が開け放してあるから、風の通りはいい。庭の眺めを愉しむために縁側の傍に座っているから、尚のことだ。

「そろそろ、夜は涼しいな」

「はぃ………」

独り言のようにつぶやくがくぽに、カイトは凭れかかった。自分からも体をすり寄せ――

「………………がくぽさま」

「言うな。放っておけば治まる」

「……………」

すり寄った体に、一部、ひどく熱い場所がある。熱を持って硬いその感触に、カイトは身を強張らせた。

逃げようとしているわけではないが、がくぽはカイトを抱く腕に力を込める。

「そなたは信じるまいがな。俺はこれでいて、堪え性があるのだ。せぬと誓ったからには、せぬ」

「………」

声は涼しげだ。体に触れる熱さえなければ、堪え性云々も容易く信じたろう。

月も欠けて暗い庭を見つめるがくぽの表情も、涼しげだ。こうまでなっていて、よくこれだけ平静な顔を出来るものだと思う。

がくぽを見つめてほんの少しだけ考えたカイトは、こぼれる長い髪を、ひと房引いた。

「これ」

「がくぽさま…………あの、……………俺、くちで、しましょうか」

「っ」

躊躇いがちに出された提案に、がくぽの体が強張った。

凝然と見つめられて、カイトは気後れしたように口を噤む。しかし再び口を開くと、わずかに舌を伸ばして見せた。

「………くちで、するだけなら…………最後まで、しないなら…………体も、大変じゃないし………」

「………」

「それだけなら、………………上手じゃ、ありませんけど」

黙ったままのがくぽに、カイトは俯いた。骨ばった指が、がくぽの胸元にすがりつくように爪を立てる。

俯いたカイトのつむじを見つめ、がくぽは考えるでもなく考えていた。

閃いた舌、小さく開けられた口。

こくりと唾を飲みこみ、がくぽはカイトの顎に手を回した。顔を上げさせると、どこか拗ねたような光を宿す瞳を覗きこむ。

「……………頼もう」

低く吐き出された言葉に、カイトはぱっと表情を輝かせた。

「はい」

うれしそうに頷くとがくぽの膝から下り、畳にへちゃんと座って身を屈めた。

そっとがくぽの下半身に手を伸ばし、袷を割る。

「んく………」

下着を解いて熱く硬いものを取り出すと、唾液を乗せた舌を伸ばした。

「………っ」

久々の湿った粘膜の感触に、がくぽはびくりと体を震わせた。

「んぅ…………ぅく…………んんっ」

カイトはがくぽのものを口に含み、丹念に舐めしゃぶった。

添えた手で唾液を伸ばしながら竿を扱き、襞のひとつひとつを伸ばすように舌を這わせる。水音を立てながら吸い付き、痛みを与えない程度に軽く歯を立てる。

「んぷ……………ふくぅ………はふ」

「………」

ぴちゃぴちゃと音を立ててしゃぶるカイトは、夢中で水を飲むねこにも似ていた。

甘い鼻声を上げて、だんだん太さと硬さを増していくものを、懸命に口に含む。

見下ろす光景に、がくぽはくちびるを噛んだ。

そうしなければ、呆気なく果てそうだ。

まさか筆下ろしも済まぬ餓鬼でもあるまいに、わずかにしゃぶられたくらいで精を吐きたくない。

それでも、十日ぶりのカイトの感触は、思ったとおりに気持ちよく、思った以上に心身が痺れた。

「………カイト………」

「んく………っ」

愛おしさの募る名前をささやきながら、頭を撫でる。カイトはふるりと震えて、がくぽを咥えたまま、上目遣いに見つめてきた。

「…気持ち良い」

「んふ………」

咥えたものの反応でわかりそうなものだが、きちんと言葉にしてやったがくぽに、カイトはほんの少しだけ笑った。

上品な口に含んでいるには大きくなり過ぎて辛いそれを一度出し、先端だけを啜る。

「ん………んぷ……ふ…っ」

堪えきれずにぷくりと浮いた先走りも、カイトは丁寧に舐める。口の中に広がる苦味に、カイトは軽く首を振った。

なによりも、がくぽがカイトの口に感じてくれている証拠だ。

瞬間的に表情を緩めたカイトだが、すぐにしかめられた。

がくぽのものを捧げ持っていた片手が、己の下半身へと伸びる。小さく尻が浮かび、物欲しげに揺れた。

「んくぅ…………ふぁ…………っ」

がくぽのものを夢中で舐め啜りながら、カイトの片手は己の下半身を探っている。

ごくりと唾を飲みこんだがくぽは、一瞬だけきつく瞼を閉じた。

「ぁく…………ふぁあ………」

「カイト!!」

ますます甘さを増す声に、がくぽは強引にカイトの頭を引き剥がした。

「がくぽさま?!」

「くそっ」

突然の乱暴な態度に驚くカイトへ口汚く応え、がくぽは肉付きの薄い体を畳に押し倒す。

「ぁ、がくぽさまっ…………がくぽさま、ゃ、あぅっ」

「………カイト、そなたな………っ」

抵抗する体を押さえつけ、下半身を割る。性急に中を探って、がくぽはくちびるを歪めた。

「俺のをしゃぶって、こんなにしたか」

「ぁ………っ」

「しゃぶるだけで、こうまでしたのか」

「ぅく………っ」

怒っているような、責めているような声音に、カイトは震えて瞳を揺らす。

がくぽの手が探り出したカイトのものは、熱を帯びて硬く勃ち上がっていた。

「ごめんなさ…………っぁ?!」

「カイト………っ」

「ひ、ぁ、ぁう………っ、だめ、がくぽさま、ぁ、や、ひっ」

謝ろうとしたカイトのものを、がくぽは乱暴に扱き上げる。ともすれば痛むような愛撫に、カイトは首を振って仰け反った。

「だめ、ぁ、でちゃぅ、でちゃうぅ、がくぽさまぁ………っ」

「出せ」

「ひぁあ………っ」

大して持つこともなく、カイトはがくぽの手に精を吐いた。全身がびくびくと痙攣し、久しぶりの快楽に爪の先まで痺れる。

がくぽは手に受けたカイトの精を眺め、くちびるを舐めた。その瞳が痛みを堪えるように険しく歪み、苦渋の表情でカイトを見つめる。

「…ぁ………ぁふ………」

快楽の余韻に引きつるカイトに、がくぽは奥歯を軋らせた。

「…………カイト」

呼ぶ声は、低く低く這った。

潤む瞳で見つめるカイトに、がくぽは精に濡れる手を示す。

「強請れ、カイト。俺に犯して欲しいと。俺に犯されたいと」

「がくぽさまっ」

あまりにあからさまな言葉に、カイトの表情が羞恥に歪む。

そのカイトへ伸し掛かり、がくぽは奥歯を軋らせた。

「強請れ。そなたが強請るなら、なんでも叶えてやろうから……」

「………」

軋りながら吐き出された言葉に、カイトは瞳を見張った。

ほんのわずかに沈黙が落ち、カイトは一瞬、がくぽから瞳を逸らす。くちびるが震えて空転し、それから手が伸びて、がくぽの着物を乱すように掴んだ。

欲に潤む瞳が、揺らいでがくぽを見つめる。

「………がくぽ、さま…………ぁ………俺の、こと………犯して………がくぽさまの、で………俺を、貫いて………犯して…」

「っ」

躊躇いがちに、けれどはっきりと口にされた言葉に、がくぽはくちびるを噛む。

しかしそれも一瞬で、表情はいつもの強気を取り戻して、組み敷いたカイトを見下ろした。

「がくぽさま………っ」

着物を引かれて、がくぽはカイトへ沈みこむ。

「んぅ………っ」

ここしばらくなかったほどに激しく口の中を漁って離れ、がくぽは笑いながら舌舐めずりした。

「そなたが望むままに、犯してやろう」

「……っ」

耳に吹きこまれた言葉にカイトは震え、さらにきつく、がくぽの着物を掴んだ。