夢色噺-10-

濡れた手をカイトの下半身へやって、探る。

「んく………っ」

「………くそ」

十日触れなかっただけできつく締まるそこに、がくぽは舌打ちした。

久しぶりなのだから、丹念に解してやる必要がある。

いつもなら、カイトが泣きながら「いれて」と縋るまで、しつこくしつこく馴らす。それもまた、愉しみのひとつだからだ。

だが、今日は。

「幾つの餓鬼だっ」

「ぁ、ひぅ………っ」

小さく罵り、がくぽはくちびるを噛んだ。

気持ちよくなりたいのではない。

カイトを気持ちよさに蕩かしてやるのが、なによりの醍醐味なのだ。

蕩けたカイトに己を差しこむのがいいのであって、自分本位なだけの交わりを持ちたいわけではない。

なのに、我慢が利かない。

早くカイトの中に入りたくて、粘膜に包みこまれ、そこを激しく掻き回したくて――

「くそっ」

「ぁ、がくぽ、さま………っ?」

もう一度吐き捨て、がくぽはカイトから離れて立ち上がった。足音も荒く、部屋の隅に置かれた小箪笥へと歩く。

「がくぽさま………?」

わずかに身を起こして、目で行方を追ったカイトの元へ、がくぽは小瓶を持って戻ってきた。

「………あの、ぁ……んぅ」

それはなにかと訊こうとしたくちびるが、がくぽのくちびるに塞がれる。頭が霞むまできつく吸われて探られ、カイトは再び畳に転がった。

しどけなく横たわる体を眺め、がくぽは濡れたくちびるを舐める。

「馴らしてやりたいのは山々だが、堪えが利かぬ」

「………」

「香油だ。使えば滑りが良くなる」

どこの、と言われずとも、使われる場所がわかって、カイトは羞恥に顔を歪める。

閉じるように動いた足を割って体を挟み、がくぽは瓶の中身を指に垂らした。

「ひぁ………っ」

冷たい感触が窄まりを撫でて、カイトは身を竦ませる。

構うことなく、がくぽはきついそこに指を呑みこませた。

「んくぅ…っ」

カイトの体が大きく震える。

香油の滑りを借りて、指は抵抗もなくすんなりと入って来た。

一本はすぐに二本へと増やされ、性急に中が探られる。

「ふぁ……っ」

久しぶりの感触に、忘れるわけもないと思っていても体が強張り、カイトは惑乱して頭を振る。

「今、悦うしてやる」

「ひぁっ」

がくぽは入れた指を伝って香油を垂らし、濡れることのないカイトの秘所を、わずかな動きでも水音が立つほどに濡らす。

そうやって滑りをよくしてから、がくぽは覚えているカイトの弱点を刺激した。

「ひぁあっ」

瞳を見開いて、カイトは仰け反る。

「ぁ、そこ、だめ………っぁあっ、ん、や、がくぽさま………だめっ」

「なにが駄目だ。こうまで悦んでおいて」

弱いとわかっているところばかり揉まれて、カイトは激しく首を振る。舌なめずりするがくぽに、潤んだ瞳で手を伸ばした。

「また、でちゃぅ…………俺ばっかり、また………っがくぽさま、も………っ」

「っ」

爪で掻くようにして縋られ、がくぽはくちびるを噛む。

餓鬼ではないはずなのに、この飢えは容易く、我慢の緒を切る。

「カイト、済まぬ」

「んくっ」

耳朶を食みながらささやき、がくぽは指を抜いた。硬く屹立した己のものを掴むと、そこにも香油を垂らす。

ひくつく襞に宛がうと、一息に腰を進めた。

「ぁああっ」

割り入られる感触に、カイトは悲鳴を上げる。がくぽに縋る指が爪を食いこませて、衝撃に耐えた。

半ば強引に押し切って己を収め、がくぽは強張るカイトの体を抱いた。

「押さえられぬ。そなたが欲しくて狂いそうだ。身も世もなく泣かせたい」

「っく」

欲張るあまりに掠れる声でささやき、がくぽはカイトの首に牙を立てる。

馴染むまで待たなければ、カイトが辛い。

そう思う先から、カイトを味わいたいと腰が動きそうになる。

「くそ………っ」

今日何度目になるかわからない、己への罵倒を吐き出したがくぽに、カイトは懸命にくちびるを寄せた。

触れるだけの口づけをして、涙をこぼしながら、笑う。

「すきにして」

「っ」

「がくぽさまの、好きにしてそれが、俺も、好き、だから」

「カイト………っ」

舌足らずに吐き出された言葉に、がくぽは呻いた。動きも依らず、その言葉だけで精を吐きそうな己がいる。

こうまでがっつく年でも、経験値でもない。

そのはずなのに。

「がくぽさま」

甘い声が強請るように名前を呼んで、がくぽは泣き笑いのような表情を浮かべた。

「カイト」

「ふぁっ」

呼び返しながら、腰を使う。きつい粘膜の中を擦り上げ、弱いとわかっているところを攻める。

「や、ん、ぁ、ぁあっ、ひぁっ」

「カイト…っ」

甘い声で啼くカイトの首に、がくぽは咬みついた。

「ぃぁあっ」

牙が立った瞬間に、粘膜の締めつけがさらにきつくなって、がくぽは笑った。

強引に着物を崩し、くちびるを移動させる。鎖骨を辿り、胸の突起を口に含んだ。

「ゃぁあ、がくぽさまぁ………っ」

痛むほどに強く吸い付くと、カイトはがくぽの髪を引っ張った。

「厭ではないだろうが」

「んぁぅ………っ」

胸を含んだまま笑われて、カイトは首を振る。がくぽの頭を掻き抱くと、自分からも腰を揺らした。

「ぁ……くぽ、さま……………っ、ん、もぉ………っ」

「イきそうか。イきたいなら強請れ。存分に精を吐き出させてやろう」

「ふく………っ」

体のあちこちに咬みつかれながら言われて、カイトはしばしくちびるを空転させた。

痺れる舌を伸ばし、懸命に言葉を吐き出す。

「ぉ、ねが…………がくぽさ、ま……………っイかせて…………俺のなか、に……………がくぽさま、の…………吐き出し、て……………」

「ははっ」

締めつけながら強請られて、がくぽは笑った。きちんとおねだりの出来たくちびるを塞ぎ、耳朶へと辿る。

「中に、注いでやろう………たっぷりと、膨らむほどに」

「ひぁうっ」

そうでなくとも弱い耳を舐めながらささやかれ、カイトはびくりと引きつった。

くちびるはそのまま耳朶を食むと、きりりと牙を立てる。

「ゃ、ぁああっ」

「っく」

限界に来ていた体には十分な刺激で、カイトは震えながら快楽の頂点に達する。わずかに遅れてがくぽが腹の中に精を吐き出し、束の間の熱に内腑が灼かれた。

「ぁつ、ぃ………………がくぽ、さま、の…………っ」

震えながらこぼされる言葉に、がくぽは笑う。

まだひくつくカイトの体を掴み直すと、再び腰を使い始めた。

カイトは瞳を見張って、伸し掛かるがくぽを見上げる。

「ぁ、がく、ぽ、さまっ?!」

「一度や二度で済むと思うな。言ったろう、腹を膨らませてやると」

「ひ、ゃ、まって…………っ」

達したばかりで鋭敏な感覚を容赦なく追い上げられて、気持ちいいというより、苦しい。

苦しいが、求められることがうれしい。

カイトは泣きじゃくりながらも拒めず、ただがくぽに縋った。

その夜、宣言どおり、がくぽは一度や二度ではカイトを解放してくれなかった。