「………っ、っっ」

こくんこくんと唾液を飲み込んだカイトだが、手がずるりと性器から離れた。そろそろと体が起き上がり、しかし立つことはできない。

腰が抜けたままに畳を這いずって、見つめる長持ちの傍に行った。

陰淫噺-03-

「ぁ………っ」

だめだ、と意識がつぶやく。

つぶやくが小さく途切れ、濡れる手が長持ちの蓋を掴んだ。

開いて、カイトは咄嗟に顔を逸らす。

昼日中に、それもひとりで見ると、中身のおぞましさと罪深さに、吐き気が起こる。

これらのものでがくぽにされた、あれこれ――

どれも奥手なカイトには、正気の沙汰とは思えない。

あまりに淫らがましくて、ひどく恐ろしい。

がくぽが笑いながら、怯え震えるカイトを抱え込んで用途を説明し、『試してみようか、そなたの体で?』と――

「…………こ、れと…………こ、れ?」

こくんと唾液を飲み込み、カイトは中からいくつかを取り出す。

そのうちのひとつ、小瓶を手に持ったカイトは、不安そうに瞳を揺らがせた。

「………」

軽く蓋を開け、中身のにおいを嗅ぐ。

ひどく甘い香りがした。座敷に満ちる、花の香りにも似た――

「………ぅ、ん………これ、だよ、ね………たぶん」

長持ちの中は、あまりまじまじと眺めたくない。特に、今は。

そうでなくても体に火が灯っているのに、それらでがくぽにされたあれこれを逐一思い出せば、さらに収拾がつかなくなる。

今からやろうとしていることだとて、カイトにとっては十分に正気の沙汰ではないのに。

「ぁ…………ぅ」

長持ちの蓋を閉め、背を向けてそこに凭れると、カイトは取り出したものへ恐る恐ると視線を投げた。

すぐにさっと瞳を逸らすが、長くはない。

体が疼いてもう、気が狂いそうなのだ。

「…………がくぽ、さま」

夫が帰ってきてくれたなら、これ以上のことをしないで済む。

ひとり乱れたカイトに驚きはするだろうが、強請ればすぐさま触れてくれるだろう。

それが怒り狂ってであれ、淫蕩に歓んでであれ、どちらにしろ、体に点いた火はこのうえない形で、鎮火する。

けれどこういう日に限って、がくぽの帰ってくる気配がまったくない。

「………ぐすっ」

洟を啜ると、カイトは閉まったままの障子を恨みがましく見つめた。

「がく、ぽ、さまが………お悪いんですから、ね。俺を、こんなふうに、して………こんな、こと………教えて。だから………」

喘ぎ喘ぎ詰ると、カイトは手を伸ばした。

長持ちから取り出したものを掴み、出来る限り直視しないようにしながら、自分の体に添わせる。

「………ぁ、これ………」

小さくつぶやくと、カイトは一度手を離し、小瓶を取った。

傾けて、中身をこぼす。

とろりとした蜜のような液体は、甘い香りを放ってそれ――男のものを象った性玩具に滴って、濡らした。

「………っ」

禍々しい形のそれを見つめ、カイトはこくりと唾液を飲み込む。

もれなく、これでも『遊ばれた』ことがある。恥ずかしいことこのうえない、遊びだった。

あんなことを思いついて大喜びでやるのががくぽだから、自分でもいい加減、自分がどうかしているとしか思えない。

「………でも、後ですっごく、やさしくって…………」

印胤家新当主の『遊び』に付き合い切った後のことを思い出し、カイトは別の意味で頬を染めた。

瞳が甘く蕩け、吐息がやわらかな重さを持つ。

もはや過酷と言っていい『恥ずかしい』のあとに与えられた、蕩けるようなやさしさの記憶。

募るのは、愛おしい気持ちと、愛されている幸福感だ。

――カイトは間違いなく、駄目男に引っかかって騙され続け、貢ぎ尽くす性質だった。

幸いなのかどうか、がくぽは心からカイトのことを愛している。それは真実だ。疑いようもない。

過酷な遊びにカイトを巻き込んでも、それは愛情からだ。

なおのこと、悪い。

しかしそこにツッコめる輩も今はおらず、しばし幸福に酔ったカイトは、疼く体の求めるまま、濡らした張りぼてを掴んだ。

「………っ」

さすがに緊張して、躊躇う。

がくぽが求めてするならともかく、自分ひとりで、己のためだけに、それを使うのだ。

「………」

垂らしたのは、確かがくぽがこれを挿れるときにも使っていた――香油だ。

滑りがよくなる、と言って。

ひどく甘い香りで、頭が眩むような気がした。

「…………がくぽ、さま」

救いを求めるように名前を呼んでから、カイトは目を閉じた。

張りぼてを掴む手にきゅ、と力を入れると、そろそろと奥に宛がう。

「ん………っ」

本物とは違う、硬質なだけの感触。

緊張にわずかに鈍る場所を、めりめりと割り開いて中へと入っていく。

「ゃ………っ、ぁ、…………っ」

カイトはほろりと涙をこぼし、わずかに手を浮かせた。

戻るなら、今――の、ような気がする。

今なら、なにもなかったことに――

「………ぁ、はぁ………っぁ」

しかし躊躇いは長く続かず、結局奥の奥まで、飲み込んでしまった。

「ん、ぁ………ぁ、がく、ぽ………さま、ぁ………っ」

罪悪感に苛まれ、そのうえ圧迫感にも苛まれ、カイトはへたへたと長持ちに凭れる。

どう謝ればいいか、わからない。

いや、これで快楽を極めず、今からでも抜き去って、がくぽの帰りを待てば、まだ。

「…………っ?!」

悩みに小さく身じろいだ瞬間、そこに走った鋭い痺れに、カイトは息を呑んだ。

「ぁ………ゃ、うそ………っ、ん、ぅそぉ………っ?!」

驚きに体を跳ねさせれば、痺れはさらに激しくなり、疼きが募って気が狂いそうになる。

大人しく座っていることなどとても出来ず、カイトの手は押し込んだものを掴んだ。

「ぁ、あ…………っ、ゃ、んんっ…………ひ、ぁあん………っんぅ………っっ」

手が勝手にそれを出し入れして、中を掻き回す。

掻き回されて体に走るのがもう、堪えきれないほどの快楽で、待ち望んでいた刺激でもある。

なおのこと手が止まらず、激しさを増して、カイトはそこを蹂躙する。

「ゃ、や、だめぇ………だめ………っ、こんな、こんなの、だめ………っ、ぁ、ぁああっっ」

さっきまでの苦労はなんだったのかというほどにあっさりと極めて、カイトはがくがくと痙攣した。