におうのいろ、あかくれなひなせば

「みぁあ」

「ああ、よしよし。ごはんだねおいで」

すり寄って来た仔猫を手のひらに掬い、カイトはふわりと毛の立った頭にくちびるを落とした。

「み」

「………………カイト」

素早く伸ばしたがくぽの手は、虚しく空を掴む。

取られないようにと仔猫を抱えたカイトへ、がくぽはやさしく微笑んだ。

「寄越せ。一度ならず、二度までもそなたのくちびるを奪ったのだ。簀巻きにし……むぐ」

やさしい笑顔のまま駄々を捏ねていたがくぽの口に、仔猫のふんわりした頭が押しつけられる。

軽く触れてすぐ離し、カイトは無邪気に微笑んだ。

「これでがくぽさまも、同罪ですよ?」

「同罪って、そなたな…………」

どちらかというと、被害者だ。

眉間に皺を刻むがくぽに、仔猫を顔の前に掲げたカイトは、その小さな手をちょいちょいと振らせた。

ことんと首を傾げて、無垢な瞳ががくぽを見つめる。

「捨てちゃいやです……」

「………っっ」

カイトが言ったのは、『仔猫を捨てちゃいや』ということだ。

わかっているが、わかっていても、主語のないその言葉と、うるるんと潤んだ寂しげな瞳と。

まるでカイト自身が、捨てられるとでもいうような。

ここで捨てると言い張れば、カイトが――

「っええい、仕様のない奴めっ。捨てぬ、捨てたりせぬ、むぐっ」

「みぁあ」

「ぇへへ」

自棄になって叫ぶがくぽの口に再び仔猫の頭を押しつけたカイトは、うれしそうに笑うと、自分もまた、ふんわりした頭に口づけた。

うれしそうに輝く瞳が、乞う色を浮かべてがくぽを映す。

「がくぽさまが拾ったんですから、責任持ってかわいがってくださいね?」

――だから、仔猫だ。仔猫のことを――

がくぽはくちびるを歪めると、カイトを抱き寄せた。

「言われぬでも、一生、責任を取ってやるわ。生涯掛けて、かわいがり倒してやる」