金剛杖

「………くぽさま、がくぽさま……っ」

「っっ」

呼び声に縋るようにして、がくぽは瞳を開いた。

仄明るい。明け方だろうか。どちらにしろ、起きるにはまだ早い刻限なのは確かだ。

「がくぽさま、ごめんなさい。うなされていたみたいだから………」

傍らで寝ていたはずのカイトが、半身を起こして心配そうに覗きこんでいる。

がくぽは無理やりに笑った。

「餓鬼の時分の夢を見た」

吐き捨てると、カイトはそっと眉をひそめた。

そのカイトへ、がくぽはあくまでも笑顔を向ける。

「過ぎたことだ。今さらどうでもない。今さら…………」

言い募りながら、声がどうしようもなく震えた。声と同じように震える手で、歪む顔を覆い、くちびるを咬む。

カイトに弱い姿など、晒したくない。

それでも――

「はい、がくぽさま。今さら、過ぎたことです」

静かな声とともに、額に口づけが落とされた。

手を退けて見つめると、カイトは穏やかに微笑んでいた。

「小さながくぽさまに、俺はなんにもしてあげられないけれど………今のがくぽさまをお守りすることなら、出来ます」

穏やかながらも力強く、きっぱりと言い切られる。

「俺が傍にいます。今も、これからも。これから先は、ずっと。だから、大丈夫……………」

ささやきとともに、瞼にくちびるが落とされた。

反射で閉じた瞼から、ひと雫、過去がこぼれて流れる。

くちびるが離れて瞳を開くと、がくぽはいつもの強気な笑みを取り戻してカイトを見つめた。

勢いよく起き上がると、カイトの体をひっくり返して布団に転がす。

「そなたを感じたい。今、そなたが確かにここにいることを」

求められて、カイトははにかんだ笑みを浮かべる。

手を伸ばすとがくぽの首にかけ、引き寄せた。

「いっぱい感じてください。他事なんか考えられなくなるくらい、俺に溺れて――」