「あ、王手」

「やれやれ」

カイトのつぶやきに、がくぽは肩を竦めた。きれいに勝負のついた将棋盤を眺め、かりりと首を掻く。

つむぎひろうさいわい

「五戦して、三勝二敗か、そなた。なにか褒美でも呉れてやろうか」

負けたにしては愉しそうながくぽの言葉に、カイトはちょこりと首を傾げた。

「ごほうび、ですか?」

「なんでも欲しいものを強請れ。どんなものでも呉れてやる」

笑って言うがくぽに、カイトはわずかに考えた。

ややして将棋盤を迂回してがくぽの前に座ると、上目遣いのおねだり顔で見上げてくる。

「あの……えっと、ぎゅーって、してほしいです」

「ん?」

「ぎゅーって、抱きしめて、『愛してる』って、言ってほしいです………」

恥ずかしそうに言うカイトに、がくぽはきょろりと瞳を回して、天を仰いだ。

「難しいことを言うな、そなた」

言いながら、抵抗を知らない体を抱き寄せる。

「難しい、ですか?」

「難しいだろう?」

胸の中から訊くのに、ぼやくように応える。

「抱きしめて、ささやくだけなのだろうそれ以上してはならぬのだから、このうえなく難儀だぞ」

「………ぇへっ」

沈黙したカイトが、ややして笑い解けて縋りついてくる。

受け止めて背を撫でるがくぽを、うれしそうに輝く瞳で見上げた。

「でも、ください。ごほうび、なんでもくださるって言ったでしょう?」

「やれやれ」

がくぽは再び天を仰ぎ、それからカイトをきつくきつく抱きしめた。