カイトは毒を見分ける。正確に言って、見分けているのは『毒』ではないらしい。

CHIMÉNE-06

最前、まだ迎えたばかりもほやほやのころだ。がくぽはカイトを伴って、近隣に出かけた。知り合いの屋敷を巡り、新しく娶った妻を紹介して回ったのだ。

そのうちの、一軒。

出された茶を見たカイトが、唐突に言った。つまり、『これはがくぽさまのお体には合わないから、飲んだらだめです』と。

咄嗟には意味がわからなかったがくぽだが、茶を供した相手の反応で気がついた。毒入りだと。

――そういったことを常日頃から平然とやらかす相手だったから、特に動揺もなかった。そもそも出されたものに手をつける気もなく、がくぽはまたかと罵っただけだ。

しかしそこで、反省皆無の相手が面白がり、いくつか種類を変えたものを出して来た。

カイトの言うことは、同じだった。『がくぽさまのお体には合わない』だ。

そのうちのひとつに、一般には薬として重宝されているが、実際のところ『がくぽには』合わないものも混ざっていたらしい。

つまりカイトが見分けるのは『毒』ではなく、あくまでも『がくぽの体には合わないもの』だ。

たとえば傷んだ食材で、正確には『毒』とは言い難いものだ。それでもがくぽが食べて、わずかにも体調を崩すのであれば、カイトはだめだと言い出す。

ある意味で単なる毒見役よりも、余程に細かで神経質であり、うるさいことになる。

見極めた相手といえば、この子は君の体に正確だねと、カイトの能力にお墨付きのようなものを与えてくれた。関係上、有り難いのか有り難くないのか、がくぽの心情は複雑で判然としない。

はっきり言うとうれしくはないが、家宰のカイトを見る目が変わったきっかけでもあるから、否定もしきれない。

その、がくぽの体に正確な、カイトが――

「ね、がくぽさま………のんでがくぽさまだけの………ぼくの、ぉっぱい………」

「………」

ごくりと、がくぽの咽喉が鳴った。

正直なところ、そうやって誘うカイトがもう、滴るなにかの毒だ。無邪気で愛らしいが、同時に人間ではありえないほどの色香を醸し出し、蠱惑的に過ぎて理性が飛ぶ。

カイトが毒そのものだが、自身を食べてはだめだとは、言い出さない。がくぽさまのお体には合わないから、僕を食べないでとは。

「………莫迦も極まったな」

己の思考を正常そうに腐したがくぽは、陶然と笑んで自分の胸を弄るカイトを胡乱に見た。

先に吸ったときには、肌の感触のみだった。出るようになりましたと、恥ずかしげに報告して誘っておきながら、それらしいものは一滴も舌に触れなかった。

「出るのか?」

「ん、はぃ………ぁ、あ、はや、くぅ………」

「………」

がくぽの咽喉は、またもごくりと鳴った。先とは意味が違う。

涎を啜った双子の魔女を、特殊性癖だと罵った。今もその思いに変わりはないし、よしんば誰かが語ろうものなら、やはり同じく特殊性癖だと罵る。はっきり言えば、『この変態が』だ。

他人のことを言えた義理かと言われようが、がくぽに迷いはない。

が、くり返すがカイトだ。普段からかわいいかわいいと、暇さえあれば構いつける愛おしい新妻だ。

まだ幼い妻が、愛するがくぽのために未だ至らぬ自分を磨こうと、なにかしら頑張って――頑張る方向が、なにをどう、どれだけ考えても理解不能だが――くれた、その成果だ。

しかし言うなら、すべては言い訳だ。つまり、カイトが愛らしい理由と同じだ。

すべての理屈は後付けに過ぎず、カイトが愛らしいのは単に愛らしいの権化だからだ。

カイトの体なら、すべて味わい尽くしたい。たとえば世間一般には特殊性癖に類されようとだ。

こうして夫に貫かれながら自分で胸を弄り、はしたなく吸ってと強請られたところで、断る選択肢が元からない。

「がくぽさまぁ………ぉっぱい………」

「ああ」

応えるがくぽの声は、多少の緊張から無様に潰れた。カイトは気にしなかったが、がくぽは自分で自分に眉をひそめ、軽く咽喉を鳴らしてから身を起こす。

「ふぁん………っ」

がくぽが動いたことで微妙に腹の中の角度が変わり、カイトはつまんだ乳首をきゅっと捻って喘いだ。

「カイト」

「ぁ、ん……ぁ、がくぽ、さま………」

くちびるを寄せ、がくぽは肝心の場所をつまんでいる指にふっと息を吹きかける。やわらかに牙を立てて促すと、カイトは素直に指を離した。代わってその手は、がくぽの頭を抱え込む。

平らかで骨すら浮かぶ胸の中、そこだけ色づいてぷっくりと膨らんだ粒に、がくぽはそっと舌を絡めた。すでに必要もないが、咥えやすいようにと絡めた舌で引き、軽く牙を立てて口に含む。

「んっ、ぁんっ……っぁ、あ………っ」

「ふ……っ」

それだけの刺激でも、感覚が鋭敏に尖ったカイトは悶えて、きゅうっと腹を締めた。絞り上げられたがくぽは荒い息をつき、無意識に逃げる腰を掴んで引き戻す。

「ぁあん……っ」

奥まで捻じ込まれたカイトが、びくりと痙攣しながらまたもがくぽを締め上げた。

「ん………」

痛むほどに誘われ、顔をしかめながら、がくぽは咥えた粒をちゅうっと吸った。尖端を舐めて促すようにしながら、ちゅぷちゅぷと、はしたなく音を立てて吸い上げる。

こくりと。

「………っ」

「ふ、ぁあん……っぁ、ぁあ………っ」

自分で咽喉を鳴らして、がくぽは衝撃に束の間止まった。

もう一度、含んだものに舌を絡めて可能な限り口の奥へと咥え、ちゅぷりと啜り上げる。

「ぁ、あ………っぁ、あぁんっ……っぁあ、あー………っっ」

「………っっ」

こくりこくりと咽喉を動かして、がくぽは戸惑いに瞳を見張り、眇めて止まった。

ゆっくり離れると、味を確かめるようにちろりとくちびるを舐める。

「甘い」

つぶやいた。

家畜の乳なら、朝食の席に出されることが多く、今でも飲む。その他にも料理の隠し味だの加工品だの、口にする機会は多い。

家畜の種類によって香りや味が微妙に変わり、食材に詳しくないがくぽでも、これはヤギだ牛だと、なんとなく当てることができる。

そのどれとも、違う。

カイトは家畜ではなく、『カイト』だ。違って当然と言えば当然かもしれないが、いくら種族は違え、共通項というものはある。

こと乳に関して共通を言うなら、微妙に生臭く、苦い。

しかしカイトに関しては、ひと言で言って、甘かった。味、香り、共にだ。

幼いころ、料理長がよく作っては飲ませてくれた、砂糖入りのものに味がよく似ている。

温めたものに砂糖を溶かし入れるのだが、それだけだと臭いがきついことがある。情けない顔をする幼いがくぽが飲みやすいようにと、料理長は菓子作りに使う甘い香りの香辛料をいくつか混ぜて、臭いを誤魔化してくれた。

それに、非常によく、似ている。

が、カイトの胸を直に啜って、出てきたものだ――加工の余地などない。胸にあらかじめ、砂糖や香辛料をまぶしていたわけでもなく、天然で味も香りも甘いと。

「がくぽ、さま………?」

止まって考え込んだがくぽに、カイトは微妙に不安げな声を上げた。きゅううっと、雄を咥えこむ場所が締めつけられる。快楽ゆえの反応ではなく、不安に駆られて縋る動きだ。

「ぁの……」

「うむ」

がくぽは、甘いものが好きではない。幼いころはそうでもなかったが、大きくなるにつれて苦手となっていった。

老いてもなお、くまをも倒すという頑丈な鉄鍋を片手で操る料理長だ。料理場の最古参にして猛者である彼がいちばん好きなのは、蕩けるように甘く、かわいくふんわりとしたお菓子を作ることだった。

が、肝心の領主が食べてくれないので、たまさか来る客用程度となり、腕を振るう機会とともに生きがいのひとつが減って、尚のこと老いた。

がくぽとしても、幼いころから世話になった料理長に申し訳ないという気持ちはある。

しかしカイトという妻を迎え、そのおやつに付き合うようになった今でも、やはりひと口も食べれば十分だと思う。

「なににつけ、例外はあるな旨い」

「え?」

なにごとか真面目な顔できっぱりと言い切ったがくぽに、カイトはきょとんぱちくりと瞳を瞬かせた。

もう一度、確かめるようにくちびるを舐めたがくぽは、笑ってカイトを見る。

「旨い。癖になる。堪らん」

「ぁ………」

意味を悟ったカイトが、ほわりと表情を綻ばせた。瞳に熱と欲が戻って潤み、離しかけたがくぽを抱く腕に力が込められる。

「もっと……ね、がくぽさま………もっと……?」

「ああ。もっと飲みたい。そなたのこの薄っぺらい胸が、さらに薄っぺらく、空っぽになるまで」

「ぁは……っ」

笑って、カイトはがくぽをきゅっと抱きしめた。されるがままのがくぽを、カイトはすぐに離す。

胸を張って突き出すと、蠱惑的に微笑んだ。

「どうぞ、がくぽさま………がくぽさまだけの、ぉっぱい、……ですから………好きなだけ、のんで……?」

「ふ………」

堪え切れず、がくぽのくちびるは歪む。欲を宿して、熱に爛れた笑みだ。

「ぁ………っ」

ぶるりと震えたカイトは、きゅうっと腹を締めた。先とは違う。縋る動きではなく、快楽を貪るものだ。

「がくぽ、さま………ぉなか、も………ぐちゃぐちゃ、かきまぜて………ぉくまで、ついて………それで、ぉっぱい、すって………」

「貪欲な」

腰をくねらせながら強請られて、がくぽは吐き出した。募って突き上げる欲は際限がなく、妻を娶って鍛えられたと自称する我慢が、容易く切れる。

腰を掴み直したがくぽに、カイトはびくびくと震えながら涙声を上げた。

「ふ、ぁあ………っぁ、まだ、ふと、く………ぅっ、ぁあん、も、ぉなか、こわれちゃ………っ」

「あまりに貪欲で淫乱で、どうしようもないぞ、カイトもう少し慎ましい子になるよう、躾けられたいのか?」

「ぁあん、がくぽ、さまぁ………」

耳に意地悪く吹き込まれ、カイトは背筋を仰け反らせる。きれいに反り返るやわらかさは、鍛えたゆえのものではなく、未だ発達しきらない筋肉のゆえだ。

がくぽは目を細めて、反り返ったことで突き出されたような形の胸と腹とを眺めた。どちらも薄く、ぺったりとした肉づきだ。あばらも浮くが、腰骨も浮く。

腹が歪ツに膨らむのは、捻じ込まれた凶器的な雄の形。

丸みもやわらかさもない胸だが、一部が赤く色づきぷくりと尖るのは、がくぽがきつく啜った証。

絶え間なく与えられる快楽に、胸の尖端はやわらかく解けることもなく、硬くしこって男を誘う。

「………しかしまあ、俺がこれまで躾けた結果が、今のそなただな」

しらりと嘯くと、がくぽは笑ってカイトへ身を寄せた。尖る乳首をてろりと舐め、予感に震えた腰を力づくで押さえこむ。

「ぁ、あ………がくぽさ………っぁ、………っ」

「案ずるな、責任は取る。そなたに否も応もない。俺が生涯懸けてそなたの欲を鎮め、満たしてやるからな………もっと貪欲に、淫乱に育てよ。我が愛おしの幼き妻」

「ふっ、ぁ、あ、ぁああっ!」

言うや、がくぽは尖る乳首にむしゃぶりついた。びくりと震えたカイトの腰も逃がすことなく、きつく奥へと突き込む。

口を満たす味は、やはり甘い。癖になって、このまま離せなくなるような気すらする。

そうとなると『中毒』と称される状態で、つまりカイトは『毒』だ。

しかしカイトは己を食べるなとは言わず、むしろもっと貪ってくれと差し出す。

「ぁあんっ、ぁあ……っ、ぁ、ぃい……っ、きもち、ぃい………っぃ………っぉしり、ぐちゃぐちゃされながら、ぉっぱい、すわれるのぉ………っヘン、なる………ヘンなっちゃぅ、きもちぃ………いっ………!」

惑乱して叫ぶカイトの体は激しく痙攣をくり返し、何度も極みを味わっていることを教える。構うことなくがくぽは胸をしゃぶって啜り、きつく締まって閉じる場所を割り開いて突き上げた。

「ぁあ、あ……っぁあっ、ゃ、ぉっぱい………がくぽさま、のんでる……ぼくの、ぉっぱい………ぁんんっ、ちくび、ぃたいくらい、すって………っがくぽさま、ぁ………っ」

啼きながら、カイトは胸に埋まるがくぽの頭を掻き抱く。縋るように抱いて、突き上げられる腰を合わせてくねらせた。

「がくぽさま………っ、がくぽさまぁ………っ、も、だめ……っ、め………ぉしりと、ぉっぱい………りょぉほぉしたら、ぁああっ」

「ふ………っ」

一際大きな波が来たのか、カイトはこれまでになく仰け反った。胸から顔を離したがくぽも、瞬間的にくちびるを咬む。

束の間の逡巡はあったが、がくぽは結局素直に、波に身を任せることにした。

締め上げ、絞り取る動きに合わせて、己の欲を放つ。

「ひぁ、あ、………っぁあ、あ………ん………っ」

腹の中が熱で満たされる感触に、カイトは瞳を見開いて固まる。息を継いでいるかも怪しい間があり、華奢な体が力を失ってがくりと崩れた。