大人しく飾られたカイトに、がくぽは微笑んで筆を置き、代わって鏡を差し出した。

「ほれ、かわゆう出来た」

「…」

鏡を覗きこみ、カイトは瞳を瞬かせた。

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かわいらしく作る、と再三宣言していたとおり、化粧はどちらかというと、大人しい。

ピンクを主体にして、ところどころにパールを散らした。くちびるだけは少しぽってりとボリューム感を作り、グロスで艶めかせている。

基本がカイトなのは確かだが、そこにいるのは、ベビーチックな愛らしさを伴う『少女』だった。

だからといって、まあコレがワタシなんてキレイ――とは、思わない。

どこか不思議そうに鏡の中の自分を覗きこみ、微笑むがくぽへ視線をやって、カイトは納得したように頷いた。

「やっぱり、がくぽさんはキレイです」

「これこれ」

飾り甲斐のない感想に、がくぽは鏡を置いた。

呆れたようながくぽに縋りつくように、カイトは手を伸ばす。

「だってがくぽさん、ほんとにキレイだから…………」

「ぬしとて、十二分にかわゆい」

胸元を掴むカイトの手を取って甲に口づけ、がくぽは微笑んだ。

丈を伸ばそうと無駄に足掻いて皺の寄った短いスカートを、軽く撫でる。

「っ」

「きれいな肌ぢゃ。だけでなく、形も美しい」

「っそんなの……」

「手触りも申し分ない」

「っ」

カイトはびくりと震えて、硬直した。

微笑んだまま、がくぽが剥きだしのカイトの足を撫でている。

「っぁ、のっ」

「絹のようなとは言うが、そのような感じぢゃ。吸いつくようで、心地よい。肉も締まっておる」

「っん、んくっ」

評しながら、がくぽの手が短いスカートの中に潜りこんでいく。肌を辿る手は、あくまでやわらかく、やさしい。

硬直したまま、カイトは肌を朱色に染めていく。

背筋が粟立って、腹が疼く。こんな感覚が自分にあるとは、思っていなかった。

「が……くぽ、さん」

緊張に、声が咽喉に絡む。苦しいほどに駆動系が暴れ、視界が眩んだ。

がくぽは赤く染まり上がった耳朶にくちびるを寄せ、軽く食む。

「ひぅっ」

竦んだカイトに、笑い声が吹きこまれた。

「一週間で、声もずいぶん丸うなって、愛らしうなった。まさに耳に心地よい」

「ゃ………ぁう………っ」

カイトは弱々しく啼くのが精いっぱいだ。スカートを押さえるが、がくぽの手は構わずに中を探る。

くすぐったさともどかしさと、なにをされるのかわからない恐怖と。

滑らかながくぽの指が、際どいところを撫でている。

その先へ進んでほしいのか、止めてほしいのかも、わからない。

「が………がくぽ、さ………だめ………っ」

裏返る声を懸命に堪えて言ったカイトに、がくぽは瞳を細める。探る指が、肌にわずかに爪を立てた。

「ひぁ……っ」

「啼かせとうなるの」

「っ」

耳に吹きこまれた言葉の響きに、カイトは涙目で俯いた。

背筋が粟立って、体の奥が震えて、どうにもできない。

「ふ………っ……んく………っ」

「カイト」

「っっ」

名前をささやいて、笑うがくぽの指が伸びる。カイトは硬直しきって、

「がっくんがくこっっ!!」

「のわっ?!!」

「ひぅ?!!」

怒声とともに、新しいティッシュの箱が投げられ、がくぽの顔面にクリーンヒットした。

「なにをするのぢゃ、マスター!!」

高い鼻を押さえて抗議したがくぽの頭に、ティッシュの箱に遅れてやって来たへきるが、軽く平手を入れる。

「そりゃこっちの台詞だ、がっくんナニしてんの?!」

「なにとは………」

憤然と叫ばれて、がくぽは膝の上で小さくなっているカイトを見る。

その顔が、にんまりと性悪に笑み崩れた。

「カイトをかわゆらしうしておった。どうせ動画を撮るなら、よりかわゆいほうがよかろ」

反省皆無のがくぽの言葉に、へきるは片手で顔を覆う。

「エロ動画なんてうpできるわけないだろ!」

叫ぶと、小さくなっているカイトへ目をやる。

「カイトもカイトだよ。抵抗しろって言っただろ?!」

責められて、カイトは赤い顔で、瞳をうるうるに潤ませてへきるを見つめた。

「ごめんなさい、マスター………」

「ぅぐ」

泣いているような弱々しい声で謝られ、へきるは思わず後退さる。

がくぽは笑って、カイトのおとがいを撫でた。

「童貞のマスターには毒ぢゃの」

笑われて、へきるは態勢を立て直した。マスターらしく厳然と、がくぽを見下ろす。

「いやいやいや、がっくん反省まじがくこすんよ?!」

「やれやれ」

肩を竦め、がくぽはいたずらばかりする手を掲げた。

へきるはきりきりと眉をひそめたまま、カイトを覗きこむ。

「カイトも、もうそこから下りる。そんなとこに大人しく乗っちゃったりするから、がっくんに好きなようにされるんだからさ」

「んく」

怒られて、カイトは小さくしゃくり上げる。今にもこぼれそうなうるうるの瞳で、弱々しくへきるを見上げた。

「おりられません…………」

「え?」

まさかの反論に、へきるは瞳を見張る。そのへきるへ、カイトはくしゃりと顔を歪めた。

「立てないです………足に力が入りません……………」

「………」

それはつまり、腰が抜けたとか。

呆然としながらも、へきるは無意識のうちにティッシュ箱を掴み、がくぽへと突きつけた。

がくぽはティッシュをまとめて何枚か鷲掴みにすると、口元を覆う。みるみるうちに、ティッシュは赤く染まった。

「愛いのう………なんとも愛いのう………!!」

「ひきゃっ?!」

鼻にティッシュを詰め込んだがくぽにぎゅううっと抱きしめられて、カイトは小さく悲鳴を上げる。

しばし天を仰いでいたへきるは、されるがままのカイトの肩を掴んだ。その瞳を、真剣に見つめる。

「カイト、滝行だ。精神力を鍛えるんだ」

「ええ…………えええええ?!!」

もっともなのだが極端過ぎるへきるの言葉に、カイトは瞳を見張った。