ナニをとは明言しない。しないが、言いたいことは明らかだ。

せつらの妨害だけのせいでは決してなく、主に重度のオタクで変態であることが原因で、二次元にしか嫁がいたことがないへきるだ。

その童貞は――否、処女は、虎視眈々とせつらに狙われ続けている。

が、逆に言って、未だに奪われていない。がくぽに『犯罪録』、キヨテルに『キ○ガイの所業』とまで言わしめるようなことをしておいても、まだ。

ピンクハウスブルーマガジン-14-

せつらはにっこりと笑った。素敵にも、可憐な美少女そのものの笑顔だった。

「大丈夫。まだ、処女も童貞も健在

「………そうなのか?」

疑わしげながくぽに向ける、せつらの笑顔はあくまでも清楚で淑やかだった。

「イき過ぎて、放心してるだけだよ。前も後ろもまだ、きれいなもんだ」

「その状態で、『前』がきれいかどうかは甚だ疑問ぢゃがのう」

楚々とした風情のままに野卑な口を利くせつらに、がくぽは軽く天を仰ぐ。

このせつらのギャップごときで、今さらどうこう言いはしないが。

がくぽの言いように、せつらは瞳を大きく見張った。

「きれいだって。ほんっとに爛れてないピンク色で」

「マスターのアレなど、詳しく知るのはぬしだけで良い」

ジェスチュアまで交えて説明しようとするせつらを、がくぽは鷹揚なしぐさで止めた。

真実本当に、心の底から、知りたくないこともある。

「うんまあそうだな」

変質者は機嫌よく話を引っ込めた。

今の話ぶりだと、せつらは『本懐』を遂げていないはずだが、それにしてはさっぱりした顔をしている。

がくぽは首を傾げて、そんなせつらをしげしげと観察した。

「ぬしは別に、枯れているというわけでもなかろうに…」

「現役だよ永遠の十七歳だゼ☆」

「マスターが永遠に学生であるような戯言はともかく」

さらりと切って捨てて、がくぽは眉をひそめる。

「なにゆえヤらぬのぢゃ?」

「ど直球だね!!」

瞳を見張るせつらに、がくぽは鼻を鳴らした。

「迂遠に訊いたとて、同じことぢゃろう」

「いやでも、日本人の美徳的に」

「変質者相手に発揮する美徳ほど、無駄なものはない」

「それもそうだ!」

納得したらしい。

せつらはしきりと頷いてから、にんまりと笑った。

「るーちゃんが三十歳になるまでは、ヤらないって決めてんの」

「………三十?」

がくぽはきょとんとする。

日本の法律上、成人して、あれやこれやといたしても大事に至らなくなるのは、二十歳だ。

そしてマスターであるへきるはまだ学生で、あとしばらく学生を続けるつもりらしいが、二十歳は超えている。

二十歳になる前から成人指定ゲームも本もDVDも買っていたから、年齢という区切りがなんだ、と思わないでもないが。

不思議そうに瞳を瞬かせるがくぽに、せつらは怪しく手を蠢かせた。その目が、変質者らしく、遥か彼方にイってしまっている。

「るーちゃんを三十歳まできれいな体で残しておいて、魔法使いになったところを、おいしく頂くんだよ……!」

「ああ……」

そういえば、世間にはそんな伝説があった。

三十歳まで清い体だと、魔法使いになれるとかなんとか。

せつらの答えに、がくぽは納得して微笑んだ。

「この変質者が」

「だからそうだって言ってんじゃん」

へきると違い、せつらはがくぽのやさしい笑みにも心挫けることはない。

数ある特性の中で、この打たれ強さはせつらが毛嫌いされる理由のひとつとなっている。

「じゃ、俺たちはこれで失礼するから。ほらテルゾウ、復活しないとがっくんに起こしてもらうぞ☆」

「っっ」

「おお、凄まじき反射ぢゃ」

ロイドどころか人間にも不可能な動きで跳ね起きたキヨテルに、がくぽは他人事の風情で感嘆する。

「マスター、私は」

なにか言おうとするキヨテルに手を閃かせて言葉を封じ、せつらは床に座り込むレンを指差した。

「はいはい。レンちゃんおんぶおんぶ」

「せんせのおんぶ」

「うんうん、いいねー、レンちゃん」

「いーの」

しゃべるようにはなったが、相変わらず微妙に表情が乏しいレンだ。

レンをおんぶするキヨテルを眺めながら、がくぽは首を捻った。

「なんぢゃ、『レン』といえばショタっ子ぢゃし、まづ間違いのう、テル蔵は淫○教師なのぢゃが…」

「ツッコミどころが多過ぎる!」

一言ではツッコミきれなかったらしい。

叫んだキヨテルに構わず、がくぽは珍しくも、本気で引いている顔で微笑んだ。

「………その『レン』相手ぢゃと、犯罪度の割り増し感が、ハンパないのう………」

「っっ」

まさかがくぽに本気で引かれるとは、ダメージは計り知れない。

揺らぐキヨテルの背にしっかりとしがみつくレンの、他人事のようなその頭へ、がくぽは手を伸ばす。

かわいらしく頭を飾っていたねこみみカチューシャをつまんで取った。

「ま、武士の情けぢゃ。今日はこれくらいで堪えてやろう」

偉そうに言われて、キヨテルは瞳を尖らせてがくぽを睨みつけた。

「誰が武士だそしてどこをどう堪えた!!」

がくぽは微笑み、つまんだねこみみカチューシャを振る。

ねこみみ男の娘をおんぶして往来を歩きたいと」

「お邪魔しました!!」

キヨテルは素早く靴に足を突っこみ、玄関扉にへばりついた。

「我の情け深さがわかったようぢゃの」

うそぶくがくぽは、自分の肩から羽を生やしている。ちなみにねこみみをつけたまま、コンビニにも行く。

「じゃ、がっくん、おばさんに…」

「マスター、ですから」

少年奴隷系の服と小物のカタログよろって」

「っっ」

よろめいたキヨテルは、扉に頭をぶつけた。上手い具合に記憶が飛んでくれるといいのだが、そうもいかないのが現実というものの厳しさだ。

「奴隷用の服と小物ぢゃな。『主人』のほうは良いのか」

平然と受けたがくぽの確認に、せつらも平然と頷いた。

「や、ふっつーのスーツリーマンが奴隷踏んづけてるってほうが、燃える」

「理解したくない変態ぶりぢゃ!」

罵ってから、がくぽはひらりとねこみみを閃かせた。

「ま、母御殿にはそのように伝えておこう」

「ん、よろ☆」

「ますたぁあああっっ!!」

キヨテルが悲鳴を上げる。高速で説教を始めた彼を従えて、せつらは悠々と出て行った。

「――思うに、なにより目立つのは、テル蔵のあの凡庸な恰好ゆえぢゃの」

奇抜なだけの集団なら、意外と目を引かないものだ。目を引くのは、集団の組み合わせが異様なときだ。

平凡なスーツ姿の男が、黄色頭のゴスロリ少女をおんぶし、メアリー・○グダレンのワンピースを着たツインテの(見た目)美少女に説教しながら歩く――

いったいどういう知り合いで、なにを話しているのかと、ひとの好奇心を刺激せずにはおれない。

「早う、観念すれば良いのぢゃがな」

笑いながら、がくぽはねこみみを弄んだ。くるりと踵を返し、リビングへ向かう。

「カイト」

リビングへ入り、呼びかけたがくぽの声はやさしかった。

「………ぁ」

ソファの上で、俯せでぐったりしていたカイトが、茫洋と顔を上げる。もぞりと身じろいで、その顔が歪んだ。

「んぅ………っ」

小さく呻くカイトは、乱されはしたものの、まだ服を引っかけている。しかし短いスカートはまくり上げられて、かわいいお尻が丸見えになっていた。

そのむき出しにされたお尻に生える、優美な――ねこしっぽ。

しっぽの先を辿れば、それは――

「んく………っ、がくぽ、さ……っ」

上げる声は、掠れて甘い。

「よしよし、寂しうしたの」

笑いながら傍らに行ったがくぽは、弄んでいたねこみみをカイトの頭に嵌めた。

「ぁ………?」

快楽に霞む頭では、がくぽの行動が追えないらしい。

わずかに訝しげな顔になったカイトに、がくぽは満足げに頷いた。

ねこねこカイトの完成ぢゃ」

「ふゃ………んんっ」

違和感に振ろうとした頭を捕えられて、がくぽにくちびるを塞がれる。

容赦なく口の中を探られて、カイトはがくぽに縋りついた。

正直なところ、客を見送らなければならないという礼儀より、ねこみみを取り返すことだけを主体に行ったがくぽだ。

どうにか無事に取り返せて、そしてようやく完成させられたねこねこカイト。

「ぁ……っんむ………んんぅ………っ」

カイトはがくぽの舌に懸命に応える。

散々に嬲られたせいだけでなく、下半身がずっと違和感を訴えて落ち着かない。絞り取られた性器だというのに、治まる隙もなく痺れ続けて、痛いくらいだ。

「ぁ……っ」

「よしよし………いいこぢゃの。にゃあと鳴いてみよ」

「………にゃあ?」

茫洋と霞む頭は、がくぽの言葉をうまく追えない。

細い声に、がくぽは笑った。ソファに伸びるカイトの体を抱き上げると、抜けかけているしっぽをきっちりと押しこむ。

「ひぁっ」

びくりと引きつったカイトの頬を、がくぽはべろりと舐めた。

「にゃあと鳴け、カイト。さすれば我がねことして、存分にかわゆがってやる」

「ん……っ、かわぃ……?」

「とろとろに蕩けるほど、愛してやる」

「んぅ……っ」

ささやきは蠱惑的で、魅力に満ちていた。カイトは熱に潤む瞳をがくぽに向ける。

「にゃぁん…っ」

「よしよし」

笑いながら、がくぽはカイトを抱えてリビングから出る。

「にゃあ……にゃぁ……ん、んんっ」

甘い声で啼くカイトのしっぽを揺らし、がくぽは自分たちの部屋へと向かった。

どこでもそこでも、カイトがかわいいことに変わりはない。

だがやはり、集中してじっくり愉しむなら、自分たちの部屋だ。なにしろ、せっかくのねこねこなのだから。

「♪」

「にゃぅ」

がくぽがこぼすはなうたに、カイトの甘い啼き声が重なった。