首のながいセーターと、いつもよりちょっと厚めのタイツ。

ダウンジャケットを着たら、きちんと上までチャックをしめます。

頭には、お母さんが編んでおくってくれた、毛糸の帽子。

ちょっとごわごわしている雪あそび用の手ぶくろをしたら、この間、カイトといっしょに買いにいった雪ブーツ。

足首のところの白いぼんぼんが、とってもかわいいそれをはいたら、ジュンビカンリョウです。

「がくぽ用意できたわ、はやく…」

「待て、マスター」

お外にいこう、といおうとしたヒメハナに、がくぽはきびしい顔で『待て』をして――

雪だるまさんホットミルク

「かぁああいぃいいとぉおおお!」

「どうしました、マスター?!……………って、……………ああもう………」

ちょっぴり情けない声で玄関からさけんだヒメハナに、キッチンで朝ごはんの用意をしていたカイトが、あわててとびだしてきました。

エプロンで手をふきながら眉をひそめるカイトに、ヒメハナはがくぽから逃げて、ぎゅうっと抱きつきます。

「カイトぉ~っがくぽに、がくぽになにかいってぇ!」

「こら、マスター。なにが不満だ」

「『不満だ』……ってね………がくぽ…………」

足にしがみついたヒメハナをだっこしてくれたカイトは、あきれたみたいに、玄関に座るがくぽを見ます。

がくぽの手にはヒメハナおきにいりの、春用でちょっとうすめの、ピンク色のセーターがあります。

そして、ヒメハナは――

「こんなにまるまるぶくぶくになっちゃったら、お外で雪あそびなんて、できないもん~っ!!」

だっこしてくれるカイトにしがみついて、ヒメハナはべそをかきながら、がくぽにさけびました。

そうなのです。

ヒメハナに『待て』をしたがくぽは、ちゃんと雪あそび用に厚着をしたヒメハナに、さらにおようふくを着させたのです。

厚いタイツをもう一枚、その上からうすいくつしたと、もこもこのくつした、そして冬用のズボンに、雪用のズボン、毛糸のはらまきに、シャツをもう一枚、さらに、うすいセーターを――

そのうしろには、マフラーと耳あてと、まだまだ山もり、おようふくがあります。

「あのね、がくぽ……。そんなに厚着しなくても、大丈夫なの何時間も外で過ごすわけじゃなくって、学校に行くまでのほんのちょっとの時間、遊ぶだけなんだし!」

「そうは言うが、カイト。雪を甘く見るなよ外の寒さは格段だ。万が一にも、マスターが風邪を引いたら………」

「この程度で風邪を引くような、やわな育て方はしてません!」

「っしかし、カイト……っ」

きびきびといいながら、カイトはヒメハナをろうかにおろして、がくぽが着せたおようふくをぬがせてくれます。

ヒメハナが最初に着ていたおようふくを用意してくれたのは、カイトです。これでヒメハナはだいじょうぶって、カイトはちゃんとわかっているのです。

でもがくぽは今日みたいにときどき、ヒメハナがものすごく弱い赤ちゃんみたいにすることがあります。

「そんな薄着で、雪遊びをするつもりか!」

さっきもそういって、がくぽは山もりおようふくをもってきて、ヒメハナに着せました――まるまるぶくぶくになってしまって、ひざを曲げるのも、おじぎをするのも、むりです。

そんなでは、それこそ雪あそびなんてできません。

カイトといっしょに買った、とってもかわいい雪ブーツだって、はけません。

ヒメハナをいちばん最初のカッコウにもどしたカイトは、こっくんとうなずきました。

「はい、いいですよ、マスター。ああでも、耳当てだけはしましょうか。耳をあっためると、体全部があったかくなりますから」

「うん!」

それくらいならヒメハナだって、キョヨウハンイというものです。

耳あては、この間カイトと雪ブーツを買ったときに、いっしょに買ったかいじゅうさんの耳あてで、とってもおきにいりですし。

ほんとうは、かいじゅうさんのおててみたいな手ぶくろとセットなのですけど、それは水をとおしてしまう手ぶくろなので、今日はおやすみです。

「……………カイト」

「はい、がくぽ。さっさと行ってマスターが学校に行く時間になっちゃうでしょぐずぐずしない!」

「ぅう………っ」

とっても不満いっぱいそうながくぽの背中を、カイトはぱんぱんとたたいて、玄関にむきなおらせます。

ヒメハナもあわてて、玄関におりました。もう一度、雪ブーツをはきます。

「マスター、三十分したら、ごはんですからね?」

「はぁい!」

おやくそくを確認したカイトに、ヒメハナはゴキゲンにうなずきました。

雪あそびです。

ヒメハナが住んでいるところは、あそべるくらいに雪がふることが、あんまりありません。

きのうの夜からずっと、ヒメハナは朝がまちどおしくて、わくわくして、タイヘンでした。

そして今日の朝は、いつもよりちょっとはやく目がさめて、でも起きる時間をまてなくて、がくぽとカイトを起こしてしまいました。

「仕方ない。子供は雪が好きなものだからな……」

がくぽはそういって、いつも以上にぼーっとしているカイトの目を、すぐに覚ましてくれました。

「上がって来たら、いいものがありますからね。楽しみにしていてください」

「えっ、いいもの?!なぁに?!」

「上がって来てのお楽しみです。……ほら、時間がなくなりますよ、マスター」

「わっわっわっ!」

カイトのいう『おたのしみ』もものすごく気になりますけど、そうです。今日は学校のある日なので、朝にあんまり、ゆっくりしていられないのです。

もちろん学校に行っても、雪あそびの時間があるでしょうけれど…。

それじゃ、ぜんぜん、たりません。

「がくぽ、はやくはやく!」

「ああもう………ほんっっっっとうに……」

「ぐずぐず言わないの行く、がくぽ!」

玄関に山もりのおようふくをまだ見ながら、カイトに背中をおされて、がくぽもしぶしぶとお外に出ます。

「寒くないのか?」

「さむいわでもあっついの!」

「どちらだ……」

お庭に出たところで、ヒメハナはすぐに、ちっちゃな雪玉をつくりました。ころころと転がして、おおきな雪玉にしていきます。

お空からは、まだちょっと雪がふってきていました。

ほっぺたや鼻にあたるとひやっとしますけど、ぜんぜん平気です。

「がくぽこそ、さむくないの?」

まずひとつ、雪玉をつくったところで、ヒメハナはがくぽを見上げました。

がくぽはいつもの着物に、いつものコートをはおって、いつものブーツです。ヒメハナが着たみたいな、雪用のトクベツなものじゃなくて、いつものです。

手ぶくろだって、していません。

「俺はロイドだからな。人間より、寒さに強い。俺たちが暑さに弱いのは、知っているだろう?」

「うん。夏はタイヘンね」

ヒメハナはまじめにうなずいてから、もうひとつ、ちっちゃな雪玉をつくりました。ころころと、転がします。

ふたつ雪玉をつくっても、ちゃいろい土がまざりません。こんなこと、生まれてはじめてです。

できあがったふたつめの雪玉は、がくぽがひとつめの雪玉のうえにのせてくれました。

まっしろできれいな、雪だるまです。雪国なら、めずらしくもないでしょうけれど――

ちょっとうっとりしてから、ヒメハナは思い出した話をがくぽにしました。

「あのね、がくぽ………この間、パパとお話したらね。アメリカの雪だるまは、三段だっていうの」

「ん……ああ。そうだな。三段だ」

「でもそんなの、おかしくない頭と体でしょあといっこって、なんなの?」

あたらしい雪玉をつくりながら、ヒメハナはききます。お父さんってたまにヘンなことをいうので、正しいのかどうか、ヒメハナひとりだとよくわからないのです。

がくぽは雪だるまを見ながらちょっとかんがえて、ぽんぽんぽんと自分の体をたたきました。

「頭に、上半身、下半身。西洋人は、上半身と下半身を別物と考えているんじゃないか?」

「ああ……!」

がいこくのひとと日本のひとは、かんがえ方がいろいろちがうと、お母さんもお父さんもいいます。ヒメハナもきっと、ちがうんだろうな、と思います。

がいこくで仕事をして、ながく暮らしているお母さんとお父さんのかんがえ方が、まわりのお母さんやお父さんと、ちょっとちがうことが多いからです。

なっとくしたところで、ヒメハナは雪玉から体を起こして、ちょっとまわりを見ました。

ヒメハナのおうちのお庭は、せまくないのですけど、木がうえてあって、あんまり平らなところがないです。

おじいちゃんのおうちのお庭だったら、もっといっぱい、平らなところがあるのですけど…。

「ねえ、がくぽ。夕方まで、雪ってのこってるかしら?」

「どうだろうな……天気予報を見る限り、今日も降ったり止んだりだ。溶けるとは思わんが…」

「じゃあカイトに、おじいちゃんに電話しておいてもらおうかしら………夕方まで、お庭の雪かきしないでって」

ひとつめの雪だるまにきれいなところをいっぱい使ってしまったので、ふたつめの雪だるまは、ひとつめよりちょっと小さくなってしまいました。

やっぱりがくぽに頭を乗っけてもらいながら、ヒメハナはお空を見ます。

雪だるまの首のところを、ぽんぽんとたたいてアンテイさせたがくぽも、お空を見ました。

「電話するのは構わんが、期待するなよ。マスターの爺は、言ってはなんだが、庭狂いだ。『雪だるまのある庭』という光景が嫌だと思ったら、いくらかわいい孫の頼みでも、雪遊びなんぞさせないだろう」

「そうよね……」

がくぽの言うとおりです。だったらカイトにいやな思いをさせないように、電話をしてもらうのはあきらめておいたほうがいいでしょうか。

「まあしかし、カイトだな………爺は、自分のカイトがアレなせいで甘く見ているが、うちのカイトはな………」

「がくぽ?」

ぶつぶつとつぶやいたがくぽのいっている意味がわからなくて、ヒメハナは首をかしげます。

ヒメハナのカイトが、なんだっていうんでしょう?

でもきく前に、お庭に面したまどが、からりと開きました。

「マスター、時間です。ごはんですよ、上がってください!」

「はぁい!」

たぶんカイトだから、五分くらいは早めにいっているでしょうけど、あそぶのをすぐにやめるのって、むずかしいのです。

だからそれくらい時間がないと、ごはんにまにあいません。

ヒメハナはぽんぽんと体をたたいて、おようふくについた雪を落としました。

おうちにもどろうとして、もう一度、まっしろくてきれいな雪だるまを見ます。

ふたつ並んだ、おっきい雪だるまとちょっと小さい雪だるま、どっちもまっしろで、とってもきれいです。

「がくぽとカイトね!」

「あんなにがだ?」

「雪だるまよおっきいのががくぽで、ちっちゃいのが、カイト!」

ヒメハナがつくった雪玉の形がまんまるじゃないせいで、ちょっとおたがいによりかかるみたいになっているのが、ますますそれっぽいです。

ヒメハナは笑って、家に入りました。

「おかえりなさい、マスター」

「ただいま、カイトねえ、おたのしみって、なぁに?!」

「雪遊びをしたあとには、とーっても、おいしいものです。でも、その前に………」

ブーツをぬいだだけでキッチンにとびこんだヒメハナに、カイトはくすくす笑いました。まずはコートをぬがせてくれて、帽子と耳あて、ぬれてしまった手ぶくろもとります。

カイトにだっこしてもらって、キッチンの水道で手を洗ってから、そのまま朝ごはんのテーブルに移動しました。

ほかほかのスープに、ピーナッツバターたっぷりのトーストと、ツナサラダ、目玉焼き、フルーツヨーグルト。

どれもこれも、とってもおいしそうです。

ヒメハナをいすに座らせると、カイトは一度、キッチンにもどりました。

帰ってきたカイトは、ヒメハナのマグカップをもっています。

「はい、どうぞ。ハチミツとシナモンたっぷりの、ホットミルクです」

「わあ!」

カイトのつくるホットミルクは、とっても甘くっていいにおいで、とってもおいしいのです。

牛乳はニガテなヒメハナですけど、カイトがホットミルクにしてくれたら、1リットルだって飲めます。

ほかほかと湯気のたっているマグカップをうけとると、ヒメハナの体は、ぶるるっとふるえました。

「あら?」

ちょっと首をかしげてから、マグカップに口をつけます。

こくんと、ひとくち。

「ふわぁっ!」

ぶるるるんっと体がふるえて、ヒメハナはわかりました。

雪あそびをしている間ずっと、体がぽかぽかしていて、あっついと思っていたヒメハナです。

でもほんとうはやっぱり、体は冷えていたんです。あったかいマグカップをもって、手が冷たくなっているんだっていうことがわかりました。

それから、ほかほかのミルクが体にはいって、体の中も冷たくなっていたんだって。

カイトのつくる、ハチミツたっぷりの甘いホットミルクは、いつ飲んでもとってもおいしいです。

でも、こうやって体が冷えているときに飲むと、もっともっと………。

「お外でちょっと遊ぶくらいなら、そんなに厚着なんかする必要、ないです。こうやって、あったかいおうちに入って、ちゃんとあったかいものを摂って、体にたまった『寒い』をすぐに追い払えば、風邪も引きません」

「うん!」

向かいに座ったカイトににこにこと笑って言われて、ヒメハナはこっくりとうなずきました。

ほんとに、そうです。カイトがこうやっていろいろしてくれるから、ヒメハナはめったにカゼなんて引かないのです。

「っと、………それにしても、がくぽは?」

「あら………いっしょに………」

あがって………きて………いないような?

ヒメハナはピーナッツバタートーストにかじりつきながら、お庭のほうを見ました。

がくぽの姿は、ありません。

「?」

「ああ、いいです、マスター。気にしないで。がくぽのことだから、マスターが登校なさる時間には、姿を見せます。それより、ごはんを食べることに集中です。気を散らしていると、おなかはちゃんと動いてくれませんよ」

「ん、はいっ」

カイトがそういうなら、きっとそうです。

ヒメハナは、目の前のごはんに集中することにしました。

よくかんで食べるのも大事ですけど、食べるときは食べることに集中すること。

それがいちばん大事だと、カイトはいいます。

だからヒメハナは、ごはんに集中して、食べ終わったあとは歯みがき、お着がえ――

「……がくぽはカイト」

ヒメハナが学校に行く時間になって、かばんをもって玄関に立ってもまだ、がくぽはいませんでした。

きいたヒメハナに、カイトはちょこんと首をかしげます。

「さっき、庭にいるのをちらっと見ました。たぶん、マスターが遊んでいるのを見て、雪遊びが愉しくなっちゃったんでしょうけど。――お外に出て、声をかけてみましょうね」

「うん…」

ヒメハナはカイトといっしょに、お外に出ました。

「がくぽどこ?」

「こっちだ、マスター」

「?」

呼ばれて、ヒメハナはカイトを見上げてから、お庭にまわります。

「がくぽヒメハナはもう、学校に……」

お庭にまわっていいかけて、ヒメハナは口をとじました。

さっきつくった雪だるまのそばに、がくぽが立っています。

ヒメハナは、雪玉をふたつ重ねただけでしたけど、今、ぜんぶの雪だるまには、目と、鼻と、口、それに手があって、帽子もきちんとかぶっていました。

みっつ、ぜんぶ――

「俺だろうカイトに、マスターだ」

いちばん最初につくった、いちばんおおきながくぽだるま。

そのとなりに、ちょっと小さいカイトだるま。

よりかかるみたいなふたつの雪だるまの間に、もっとちっちゃい雪だるまが、ひとつ、ふえていました。

三人で、手をつないで――

とくいそうに笑うがくぽに、ヒメハナはかけよって抱きつきました。

「がくぽ、大好き!」