「今日のしゅくだいは、ヒメハナひとりでやるのナイショだから、カイトとがくぽは入ってきちゃだめよ!」

なにやらひどく愉しそうに叫んだマスターが、そのまま躊躇いもなく、ぱったんと部屋の扉を閉める。

おしゃまさんをスウィート・サンドウィッチ加糖版

「え…………えええええっ、マスター………?!」

「………」

共に締め出された格好となった俺とカイトは、マスターの部屋の前の廊下でしばし、呆然と立ち尽くしていた。

過保護と言われるかもしれないが、これまで幼いマスターは、なにをするのでも俺かカイトか、さもなければ俺とカイトと常に一緒だった。

学校の宿題をやるのでも、そうだ。

解くのこそ自分でやるが、考えるのは俺たちと一緒。いや、共の空間にいるだけで、いいらしい。

だからこれまで宿題といえば、全員が寛ぐリビングか、食事の支度をするカイトがちょこちょこと顔を出せるダイニングでやるかと決まっていて――

もちろんマスターの親が用意した、マスターの部屋も勉強机もきちんとあるのだが、それは物置程度にしか使っていなかった。

だというのに、今日になって突然。

「………」

「……………っ」

――しまった。そんな場合ではないのに、顔がにやけた。

別に、カイトと二人きりで過ごせると、不埒なことを考えたわけではない。

俺がカイトを好きなことは確かだが、だからといってマスターが邪魔なわけではないのだ。

幼いマスターを愛おしみ、大切に育てるカイトを見ることはなによりも和む光景だし、そんなカイトから注がれる愛情を真っ直ぐ受け取って、いちばんに懐く素直なマスターもまた、俺にとっては癒しだ。

とはいえまあ、完全に潔白ともいえない。不埒は不埒だ。

俺とて、マスターから締め出されたことはショックだったのだが、隣に立つカイト――

俺も幼いマスターが愛しいが、設定上は『護衛』だ。

対してカイトは、マスターを愛し育むもの、『ナニー』。

護衛がちょっと締め出されるのと、ナニーが締め出されるのでは、その受ける衝撃が違う。

あまりに茫然自失状態のカイトを見て、こう――ショックが反って、笑いに変わってしまったと言おうか。

不埒だし、不謹慎だ。

カイトにとっては、さっぱり笑いごとではない。

「カイト。ここでこうしていても、仕方ない。行こう」

「ぁ…………ぁあ、うん………」

さりげなく腰を抱いて促したが、カイトは呆然としたまま、我に返る様子がなかった。

――いくら『ナニー』とはいえ、これは重症だ。

「そろそろおやつだろう今日はまだ、マスターのおやつを作っていなかったな。宿題を終えたなら、すぐに食べられるようにしておいてやったらどうだ?」

「……ん、ぁ………あ。うん………うん」

明確な目的を与えてやると、今度は先よりは多少ましな顔で俺を見上げた。

その手が、頼る先を探すように、俺の胸元にそっと縋りつく。

訴えるような眼差しで潤みながら見上げられ、俺は咽喉を鳴らしかけて懸命に堪えた。

ええい……………相変わらず、無闇と愛らしさを振り撒くやつだ。これが全部天然だから、性質が悪い。

俺はそっとくちびるを寄せると、潤んで見つめるカイトの瞳に口づけた。

瞳に触れる前に反射で閉じた瞼をくちびるで撫でて、腰を抱く腕に力を込める。

「行こう。な?」

「うん」

促すと、カイトはさらに俺に身を寄せ、歩き出した。

支えるようにしながら、二人でキッチンへと行く。

「今日はなんの予定だ?」

「えっと…………スイーツ・サンド。だから、フルーツとかクリームを盛り合わせるだけ」

「ああ。マスターが好きなやつだな」

というかまあ、マスターはカイトの用意するおやつなら、なんでも好物だが。嫌いなものを聞いたことがない。

俺はキッチンの戸口に立って、おやつの用意をするカイトを眺めた。

手伝わないのは、カイトの邪魔になるということもあるが、マスターが俺の作ったおやつをあまり好まないからだ。

いや、好まないというか――『おいしいんだけど、なんかヘンだわ、がくぽ………うまくいえないけど、おいしいのに、なにかがヘンなのよ、がくぽ………』と、ひどく真剣に悩むのだ。

悪戯にマスターを混乱させるのも本意ではないし、甘味が得意でないのも確かだ。味見もしていない。

だから余程のことがない限り、おやつには手は出さない。

とはいえ今日のカイトは、遠くで眺めているのでは不安だ。

そう思って戸口に立っていたのだが、どうやら杞憂だった。なにはあれ、さすがにマスターの面倒を見て、長い。

先までの態が嘘のような手際のよさで、カイトはフルーツ缶を開いて水気を切り、生クリームを泡立てて絶妙な加減のホイップクリームを作った。

さらに貯蔵用の冷蔵庫から、自家製ラムレーズンとクリームチーズを混ぜたラムチーズと、ヨーグルトから作ったサワークリームを出し、きれいに形を整えて、皿に盛る。

こちらもお手製の、少し酸っぱいベリー・ジャムをその脇に飾ると、ハチミツを入れた小さな器も置いた。

カイトのスイーツ・サンドは、好きなものを好きなだけ、自分でパンに乗せながら食べるスタイルだ。

材料のすべてを適宜皿に盛ったら、あとはパンと、材料を盛りつけるためのスプーンやらフォークやらを添えて、出来上がり。

「……」

時間を見て、家の中の音を窺い、まだ当分おやつにはならないと判断したのだろう。

カイトは盛りつけた皿に蓋を被せると、丁寧に冷蔵庫へと仕舞った。

一通りキッチンがきれいに片付いたところで、俺は中に入る。

「終わったな」

「うん。…………えがくぽ?」

念のために確認したうえで、俺はカイトを抱き上げた。

不思議そうにしながらも、カイトは素直に俺の首に腕を回す。――反射でこうするまでにかかった、あの紆余曲折と苦労の日々よ。

懲りもせずに感慨深さに襲われつつ、俺はカイトへと微笑みかけた。

「少し休め。俺がきっちり慰めてやるから」

「………」

きょとんとして俺を見ていたカイトだが、その頬が徐々に赤く染まり、子供のようにぷくりと膨れた。

拗ねたように瞳を逸らしながらも、カイトは俺に身を凭せ掛けると、肩口に顔を埋める。

「別に、そんな………慰めるとか、へーきだもん………。マスターがおっきくなったら、俺たちの手から離れて、ああやってナイショとかヒミツとか、出来るものだって、ちゃんとわかってるし………」

「はいはい」

ぶつぶつと言い訳をつぶやくカイトを抱いて、俺はリビングへと行く。

ソファに座ると、しがみついて離れない体を膝の上に乗せた。やわらかな髪を梳いてやりつつ、頭頂部にくちびるを落とす。

「だが、突然のことだったろう徐々に離れていくなら覚悟も出来るが、ああまで唐突だと、ショックを受けても仕方があるまい?」

「………」

宥めるように言った俺に、カイトは縋りつく腕に力を込めて応える。

短い髪から覗く耳朶を指で弄びつつ、俺は仄かに笑った。

――実際のところ、ああいった唐突な『ナイショ』が少しずつ回数と頻度を増し、こちらに何度もショックを与えて馴らしながら、最終的に子供は大人になるのだろう。

体が大きくなって、ある日突然に内緒や秘密が出来るのではない。

少しずつ、少しずつ――ある意味、育てる側が子供に気を遣われながら、進化と進歩を織り交ぜて日々を積み重ね、大人というものに成っていく。

まあおそらく、次に同じようなことがあればもう少しましに考えられるだろうが、なにしろ今日は『初めて』だ。

お互いに激しく動揺したところで、おかしいことなどなにもない。

「………がくぽも、ショックだったの?」

ややして顔を上げたカイトは、瞳を揺らしながらそう訊いてきた。

俺はくちびるに仄かな笑みを刻んだまま、頷く。

「ああ。驚いたし、何事かと思った。――けれど、楽しそうでもあったからな。大事ではないだろうと判断した」

「……………冷静」

「当たり前だ」

瞳を眇めて詰るように言われたが、俺は悪びれることもなく肩を竦める。

ようやく顔を上げたカイトが俯いてしまう前に、後頭部をさりげなく掴んで押さえ、責めるように尖る瞳の際に口づけた。

そのまま頬を辿り、くちびるに軽く触れる。

ぴくりと揺れたカイトを逃がさないように注意深く抱いて、抗議しようとするくちびるを舐めた。

「俺は『護衛』だ。如何なる状況であっても、事態を冷静に分析して判断し、対処法を考えるのが役割だ。そうでなくては務まらない」

「ぁ………」

なにか言おうとしたカイトのくちびるに、俺はくちびるを重ねた。開いているのを幸いに、言葉を封じるためにも舌を押しこむ。

「んぅ………っふ………っ」

震えながら、カイトの手は俺へ縋ろうかどうしようかと惑っている。

マスターが家にいるときには、出来る限りこういう振る舞いは控えようというのが、一応はルールだ。

なにしろ、マスターは幼い。俺たちの行為は少々――まあ、かなり、刺激が強過ぎる。

それでも軽い口づけくらいならば、有耶無耶のうちにやってしまうが――

舌を絡めるまでとなれば、『軽い』で済ませられるかどうか、微妙だ。

「ぁ…………っんん………っぁ、あ、ゃ………っっ」

「………っ」

それでも抵抗されないのをいいことに丹念に口づけていた俺だが、カイトは急激に暴れ出した。

耳を澄ませても、マスターが動いた気配はない。

とりあえずくちびるを離して膝上のカイトを見ると、深いキスの余韻だけでもなく、服から覗いた肌のすべてが、扇情的に赤く染まっていた。

「ゃ、もぉ………っ、俺、どうして、こう………っ」

「………………ああ。なるほど」

自分を詰る言葉に、俺はカイトには聞こえないほどの声で小さく頷いた。

膝の上で、もぞつくカイトの足。

俺が堪えが利かないのはいつものことだが、カイトのほうから昂ってしまうのは、珍しい。それも、マスターが家にいるのに。

染みが出来るほどまでではないが、カイトのスラックスの前が、微妙な膨らみを見せている。

「なんで、今日………っ」

「動揺しているんだ」

「ぁ、がくぽ、だめ………っ」

『理由』をささやいてやりながらスラックスの前を寛げると、カイトは慌てて手を伸ばしてきた。

俺の手を止めようとしてのことだが、それを逆に掴む。

指を絡めてくすぐると、有耶無耶のうちに、芯を持ち切らない場所を共に握らせてしまった。

「ゃ、がく………っ、マスターがっ」

「大丈夫だ。まだ動いていない」

「まだって、引けないとこで来ちゃったら、っ」

「すぐに済ませてやるから」

「ゃ………っ」

言葉では抵抗しつつも、カイトは自分の熱を握る手を離せない。押さえる俺の手を振りほどき切ることも出来ず、身を苛む疼きに苦しげに顔を歪める。

俺はくちびるを舐めると、カイトの体を抱き直した。

向かい合わせになるように置くと、煽られて熱を持ち出した俺のものも取り出す。

「がくぽ……っ」

「抵抗すると、長引く。大人しくしていろ」

「………っ」

笑いながら吹きこむと、カイトは瞳を見開いて口を噤んだ。

大人しくなったところで、自分のものだけを掴んでいるカイトの手を開き、俺のものと諸共に二本、握らせる。

「ぁ………っ」

「……っ」

それだけで、カイトの声の甘さが増した。

耳から蕩かされるとは、こういうことを言うのだろう――どうしようもなく興奮したのは、あからさまに脈打ったものからはっきり伝わったはずだ。

素直なのも善し悪しだ、息子よ。

「んん、がくぽ………がくぽ、の………っん……」

「カイト……」

余計なことを言われる前に、片手をカイトの後頭部に回し、くちびるを塞いだ。

なにを言わずとも、カイトは両手を俺と自分に添えて扱きだした。俺はそのカイトの上から、手を押さえるように撫でる。

「ん………っん、は、ぁあ……っん……っ」

マスターが家にいると思えば、カイトは懸命に声を殺そうとする。

しかしキスひとつで昂ってしまった今日の体事情と、マスターが家にいるのに、という微妙な背徳感、そして声を殺すことで身の内から逃がせずに募る快楽は、常以上のものだ。

「ぁあ、ゃあ………っぁ、いっちゃぁ……っぁんんんっ」

「………っ」

くちびるを解くと迸る声はかん高く響き、俺は昂るものを扱くことはほとんど、カイトに任せた。替わりに、膝の上で激しく身悶える体を抱えこみ、キス責めにして声を塞ぐことに専念する。

「んん………っんーっ………っ」

「………っ」

押さえこんだ体が一際強く痙攣し、くちびるを塞がれたまま仰け反って固まる。

寸前で手を回して、なんとか吹き出すものを防いだが、垂れるものを遮る術はない。

上着はなんとか汚さずに済ませたが、下はどうでも着替えないと駄目な状態にしてしまった。

先に、ティッシュかタオルを近くに置いておけば良かった。

微妙に舌打ちしたい気分で濡れる手を舐めると、噴出が治まって力が抜けたカイトは、ずるりと体を落とした。

「おい、っ」

そのまま膝からすら落ちるので慌てたが、手が汚れている。せっかくきれいに保った上着を汚すわけにもいかず、支えきれないカイトは床に腰を落とした。

しかしそもそもがカイトは、自身で意図して床に降りたところがある。俺が支えるまでもなく、激しく腰を打ちつけることもなく座りこむと、すぐさま顔を寄せてきた。

躊躇いもなくくちびるを寄せるのが、カイトのもので濡れてはいるものの、未だ達していない俺だ。

「ん……っ」

「………っ」

ちゅぷりと口の中に含まれて、俺は咄嗟にくちびるを噛んだ。

敏感に尖り過ぎたカイトが達したのは、常よりかなり早くだった。ある程度煽られていても、そこまでではなかった俺が頂点を極めるには、微妙に足らない。

カイトの懸念もわからないではないので、俺としては自分に関しては治まるのを待つか、手っ取り早くトイレで抜くか――と、思っていたのだが。

「ん………んん、ふ…………っん、……」

陶然とした表情で熱心に俺をしゃぶっていたカイトは、わずかに先端を含んだ状態で、上目に見つめてきた。

「ぁくぽ…………ちょぉだい………おれの、くちに………のませて………?」

「……っ莫迦がっ」

堪えようもなかった。

呻くと、俺はカイトの頭を押さえつけ、請われるがままに口の中に放っていた。

***

洗面所やら自室やら、身支度を整え直す間に窓を開けてリビングの換気をし、戻って窓を締めてからは念のため、空気清浄器のスイッチを入れた。

手も洗い、下半身もきれいに拭ったうえで汚れた服を替えた俺たちは、打ち合わせたわけでもなく、再びリビングのソファに座った。

カイトは自分から、俺の膝の上だ。

いい傾向だ。このまま押して行こう。

密かな企みを知る由もないカイトは、怠さの残る体をそっと凭せ掛けてくる。

「忙しかったね………」

「ああ。慌ただしかった」

ぼやくように言う俺のくちびるに、カイトのくちびるが触れる。

しなだれかかってくる体を抱いてキスをくり返しながら、俺はカイトと仄かに笑い合った。