夏休みです。

お昼を食べたら、ヒメハナはお昼寝の時間です。

遊びの約束をしているときは遊びに行きますけれど、そうでないときは、お昼からおやつまでは、お昼寝をします。

おねつっこさんにとろりんホットアイス

ヒメハナは学校に行っているとき、お昼寝の時間なんてありません。

でもカイトは、夏は暑いだけで体が疲れるし、ヒメハナはおねぼうさんもしないで朝早くから起きて、ずっといそがしくしているから、お昼寝をしないとバテてしまうといいます。

だからヒメハナは、お昼を食べて、学校のしゅくだいのひとつである『おうちのおてつだい』の、食器のおかたづけをしたら、ベッドのお部屋にいって、お昼寝をします。

ヒメハナが寝るときは、がくぽとカイトもいっしょに寝てくれます。

夜だけじゃなくて、お昼寝もです。

だから今日も、三人で寝室に行ったのですけれど――

「………あ」

「カイト?」

「ん?」

ヒメハナはいつもみたいに、ベッドにとびのって――

がくぽもわきに座ったのですけれど、カイトです。

なにかに気がついたみたいに、口をまるくして、手で押さえました。そのまま入口で立っているだけで、お部屋に入ってきません。

「ぅ………」

「カイト、どうした?」

こまったみたいに、お部屋の中とそとを見くらべるカイトに、がくぽがちょっとだけ眉をひそめます。

ヒメハナもふしぎに思ってカイトを見て、やっぱりきゅむむっと眉をしかめてしまいました。

「カイト、顔、あかくないあっついのぼせてる?」

ベッドのお部屋は、ちゃんとクーラーが入っているので、ひやひやとすずしいです。

でもそれは、あくまでもヒメハナ――『人間』であるヒメハナには、です。

カイトとがくぽは、ロイドです。ロイドの体のなかみには、キカイ部品もいっぱい使われているので、暑いのに弱いのだそうです。

だから夏は気をつけていないと、人間よりも先に、暑いのでたおれてしまうのです。

口元を押さえたカイトの顔は、ちょっと赤くなっているように見えました。お昼寝の時間は、いちばんそとが暑い時間ですし、クーラーを入れていても、カイトには暑いのかもしれません。

「その、マスター………ごめんなさい」

しょげた声であやまったカイトに、ヒメハナはぷるぷると首をよこにふりました。

そのうえで、ドアのそとを指さします。

「だいじょうぶよ、カイトいいから早く、クーラー室にいって!!」

「はい、えと………その、ほんとに」

「いいからヒメハナ、へいきよそれより、ひとりでだいじょうぶ?!がくぽ……」

「大丈夫ですがくぽは、マスターのことお願いねっ!」

「あ、………あ」

がくぽが返事をするより先に、カイトはあわてたみたいにお部屋から出て行きました。

人間のヒメハナと、ロイドであるカイトとがくぽの『すずしい』は、ちょっとちがうことがあります。

ふつうにしていたら大きくちがわないけれど、たまに『大きなしょり』をしていると、キカイ部品がいっぱい熱を出してしまって、ヒメハナがかぜをひいてお熱を出したときみたいになってしまうのだそうです。

よくわからなかったのですけれど、人間にはなんでもないことでも、キカイ部品にはとってもタイヘンなことがいっぱいあるんだといわれました。

そうやって、とっても熱が出てしまったときのために、おうちには『クーラー室』があります。

前はものおきとして使っていた、小さいお部屋です。休めるようにソファを置いたその小さなお部屋で、クーラーをとっても強くかけるのです。

ヒメハナにはれいぞうこみたいな部屋ですけど、熱が出てきてしまったカイトやがくぽは、気持ちがいいといいます。

だからそこで、『しょり』が終わるまで休んでもらうのです。

「………」

ヒメハナはカイトの足音がとおくなるまで、ドアのところをじっと見ていました。それから、となりに座るがくぽを見ます。

「がくぽ、がくぽはがくぽは、だいじょうぶあっつくない?」

「ん………ああ。まあな。俺は……」

ちょっとぼんやりとしていたがくぽは、いつもとはちがって、困ったみたいにつぶやきました。でもすぐに、ぶるると頭をふると、しゃっきりとした顔になります。

ヒメハナの頭を、ぽんぽんとたたくみたいになでてくれました。

「マスター、とりあえず寝ろ。カイトなら大丈夫だ。すぐに休んだからな。寝て起きて、おやつの頃には良くなっている」

「ヒメハナ今日、おやついらないわ!」

「マスター」

なぐさめてくれるがくぽにはわるいのですけれど、ヒメハナはそうさけびました。

「おやつなんか、一日くらいぬいたってへいきよそれより、カイトがちゃんと休んで、元気になるほうが大事ねえ、がくぽ。ヒメハナは、ひとりでもねむれるから、カイトのこと……」

「却下だ」

「がくぽ!」

カイトのことを見ていてとお願いしようとしたのに、がくぽはヒメハナの言葉を、ぜんぶ聞いてくれもしませんでした。

でもきっぱりといってから、がくぽは身をのり出したヒメハナの頭をなでて、笑います。

「……なにもこのまま、放っておくとは言ってない。マスターが寝たなら、様子を見に行く。だがあくまでも、マスターが寝てからだ。起きている間は行かん」

「そんなの」

「マスターが寝てもいないのに放り出して来たと言ったら、カイトは休みもせずにこちらに飛んでくるぞ。俺の頭を張り飛ばしてな。それくらい、わかるだろう?」

「う………」

………がくぽの頭をハリトバスかどうかはわからないですけれど、カイトがヒメハナのことを見にきてしまうというのは、わかります。

ヒメハナは、カイトが来る前はずっとひとりで寝ていましたし、今はまだ、おそとが明るいうちの、お昼寝です。

ひとりきりで寝たって、さみしいとか、いやだなとか思わないし、それよりもずっとずっと、カイトのことのほうが心配ですけれど――

カイトが今、クーラー室にいったのは、ちゃんとがくぽがそばにいて、ヒメハナをひとりにしないでくれるって、信じたからです。

なのにがくぽが、ヒメハナを放って自分のことを見にきたりしたら――

「………がくぽ。ぜったい、ぜったいよヒメハナが寝たら、すぐにカイトのところにいってねちょっとでも早く、ぜったいぜったいね?」

がくぽに小指を出していうと、がくぽは笑ってヒメハナの小指に小指をからめてくれました。ちょんちょんと、軽く振ります。

「ああ、絶対だ。マスターが寝たなら、即行でカイトのところへ行く。マスターが起きる時間になったら、今度は即行でマスターのところに帰って来てやろう」

「それはいいわよ。カイトの具合がわるかったら、そっちにいて!」

「そうつれないことを言うな」

笑いながら、がくぽは小指を振りきって、『ゆびきった』しました。それから、ヒメハナのおでこにちゅっと、キスをしてくれます。

「今日のおやつは俺が作ることになるだろうが――だったらおやつはいらないなどとは、言うなよ。夕飯までには、カイトを元気にしてやるから」

「んーっ」

がくぽは笑いながら、ヒメハナのおでこからまぶた、ほっぺたと、ちゅっちゅとキスしていきます。

甘いものが好きじゃないというがくぽがつくるおやつは、いつもなんだかへんてこりんです。

おいしいし、見た目もちゃんとしているんですけれど、なにか、よくわからないのですけど、へんてこりんなのです。

食べていると、おいしいのにへんてこりんで、ヒメハナは目がシロクロしてしまいます。

でも――

「がくぽのつくるおやつ、きらいなわけじゃないわよ、ヒメハナ……」

「そうか」

ちゅっちゅとされながらいったヒメハナに、がくぽはうなずきました。

キスをやめるとがくぽは、やさしい笑顔で、でもちょっとらんぼーにヒメハナの頭をなでました。

「そうとなれば、マスター。三秒で寝ろ」

「三秒?!!」

とってもやさしい笑顔でいわれたことに、ヒメハナはぎょっと目をみはりました。

三秒って――三秒って。

いーち、にーい、さーんっていったらもう、寝ていないといけないことになります。

ヒメハナは寝つきがわるいほうではないですけれど、三秒で寝たことなんてありません。カイトだってがくぽだって、そのはずです。

がくぽも早く、カイトのところに行きたいってことでしょうけれど――

「三秒なんてむりよ、がくぽ!」

協力はしたいですけれど、むちゃくちゃです。

さけんだヒメハナに、がくぽは眉間にしわを寄せました。

「無理なことはない。の○太に出来ることだぞ」

「の………っ」

たとえで出てきた名前に、ヒメハナはぽかんと口を開けました。

たしかにそうですけど――

ぽかんとしていてなんにもいえないヒメハナに、がくぽはまじめな顔のままです。

「あの落ちこぼれに出来ることが、優秀なマスターに出来ないなどということがあるか。大丈夫だ、マスター。必ず出来る」

「えええ………っ?!」

がくぽのいうことは、たぶんなにかがちがいます。

なにかがちがうのですけれど、ヒメハナにはなにがちがうとはっきりいえません。

「でも、でも、がくぽ……っ三秒よいーち、にーい、さーんで、もう寝てるのよ?!そんなこと、ほんとにできるの?!」

そうじゃなくても今、ヒメハナはカイトのことが心配で、どきどきしています。そのうえ三秒で寝ろといわれると、あせってしまって、かえって目がぱっちりになってしまいます。

着物をぎゅうっとつかんでさけんだヒメハナに、がくぽはむっと眉をひそめました。

ヒメハナを抱えると、いっしょにばたんとおふとんの中に入ります。

「ふきゃぁっ」

思わず悲鳴を上げたヒメハナを、となりに寝たがくぽはきりりと見ました。

「いいか、マスター。最初から諦めるな。何事も成せば成る。ちょっと見ていろ」

「えがくぽ?」

なんのことだかわからないままに見たヒメハナの前で、がくぽはまぶたを落としました。

かぞえます。

「三、二、一、――」

「え?」

かぞえ――三まで、かぞえ、………て。

「が、がくぽぉおおっ?!だ、だめ、だめよっ!!がくぽがねちゃったら、だめよぉお!!え、おきておきておきて!!がくぽっ、がくぽったらぁあ!!」

『お手本』を見せて寝てしまったがくぽに取りすがると、ヒメハナはその体をゆさぶりながら、必死でさけびました。