「ん、んんんっ」

膝に抱き上げたカイトの体が、びくりと跳ねた。勃ち上がっていたものからわずかな精が飛び出し、腹の中に入っていたがくぽが、きゅぅう、と締め上げられる。

「ふ………っ」

「ぁ、んんっ」

誘われて、がくぽは何度目になるかわからない精を、カイトの腹の中に放った。力を失いかけていたカイトが再びびくりと跳ねて、震える。

「ぁ、も………おなか、いっぱい………」

虚ろな声でつぶやき、今度こそ、その華奢な体から力が抜けた。

金糸雀幸福金切り屋降伏

後ろ抱きにしているがくぽは、崩れるカイトの体に腕を回して支える。自分へと寄りかからせると、カイトの言葉どおり、暗闇にすら微妙に膨らんだように見える腹を撫でた。

「ゃ、あ………っ」

カイトの体は、自分で吹き出した精を被り続けてぬめっている。そのうえ今は達したばかりで、がくぽが入ったままの場所もさることながら、肌全体が敏感に尖っている。

やわらかに辿られただけでも激しく感覚を揺さぶられて、過ぎる快楽にカイトの瞳から涙がこぼれた。

くちびるをつけて涙を啜り、がくぽはカイトの体に散る精液を、くまなく伸ばしていく。

「ん、ねが……ぃ、ちょっと、やすませ………て」

息も絶え絶えな風情で懇願されて、がくぽはカイトの耳を咬んだ。

「ぁ、ぉねが………っがくぽ………っ」

「………………………………………仕方ない」

元々は騎士で、現在でも鍛錬を怠ることがないがくぽの体力と、前身がなにをしていたかは不明でも、現在はお気楽貴族であるカイトの体力には、かなりの隔たりがある。

一応は王国を揺るがす、決して捕まらない怪盗などをやっていたりするカイトだが、その武道の心得ぶりとは別に、体力的に特に優れているというわけではなかった。

いや、どちらかというと、繊弱だ。

一度、嘆願を聞くことなく立て続けにやったら、意識を飛ばしたまま三日ほど寝込まれた。

体だけが目当てなわけではなく、募る愛しさが体を求めるのだ。

それからは反省して、がくぽには余裕があるときでも、カイトが限界だと嘆願したら、とりあえず聞いてやることにしている。

「は、ぁつ…………」

「窓は開いている」

「ん、でも、ぁつぃ………」

がくぽに抱きしめられたまま、カイトは疲れ切って、ぐったりとつぶやく。

過ごしやすい季節だから、夜寝るときに窓を開ける必要もない。それでも、寝室の窓はすべて全開にされ、涼しい風を部屋の中に招き入れていた。

濡れた肌には殊更に夜気が冷たく感じられるはずだが、カイトには未だに感じられないらしい。

凭れかかっている体は、ひどく熱い。

それでもカイトの腹から自分を抜くことはなく、がくぽは膝の上に乗せたまま、軽く体を倒して、枕辺に置かれた小棚から水差しを取った。

「飲め」

「ん…………っふ、んくっ………んくっ」

がくぽは差し口から直接、カイトの口に水を流し込む。

カイトは咽喉を鳴らして水を飲みながら、腹の中のがくぽをきゅう、と締め上げた。

「……ん、も………っけほっ」

「ん」

わずかに首を逸らしたカイトの体に、間に合わなかった水がこぼれる。冷たさに震えたカイトは、またもや腹の中のがくぽを締めつけた。

眉をひそめたもののなにを言うこともなく、がくぽも差し口から直接に水を飲んだ。火照った体に水分が通る感触は気持ちいいが、それで熱が冷めるということもない。

「は………」

締めつけられるたびに脈打って、大きくなるものが腹の中に入ったままだ。

カイトは疲れて虚ろになった瞳で腹を見つめ、微妙に膨らんだような気がするそこを撫でた。

その先には、暗闇にあってすら遮るものもなく性器を覗かせてしまう、恥ずかしいばかりの特殊な肌が続いている。

小柄ではあっても、きちんとオトナとなった身長。

童顔であることは認めるが、絶対的に子供だとは言いきれない、適度に肉の削げた頬。

けれど、体の毛だけはつるんとしていて、子供のままだ。

髭も腋も生えなかったが、なによりいちばん疎ましかったのは、下半身の性器を隠す毛が生えなかったことだ。

――最初は、気がつかなかった。それが異常なことだということに。

常識というものが存在しない世界にいたせいで、ずいぶん長いこと、気にも留めなかった。そんなことに構いつける余裕もなかったとも言える。

けれど、「そと」に出て、他人の体を見て、知って。

気がついた。

もしかして自分の体は、異常であり、もっと言うなら、かなり恥ずかしい状態ではないか、と。

――ねえ、俺の体、おかしい。どうして?

泣きながら訊いたカイトを、起ったばかりの女王は冷たくせせら笑った。

――あたしが呪いを掛けてやったのよ、カイト。あんたが絶対に、あたしに逆らったりしないように。あたしの邪魔をせず、すべてに言いなりになるように!

当時、女王として起ったばかりの彼女の地位は、かなり危ういものだった。

そもそもが、「英雄王」と称されて崇められ、長らく国に君臨した先々代王が崩御して、わずか半年余。

その息子である王太子が、王位を継いだ途端に病を得て崩御して、間もなくだった。

一年のうちに二人の王を失った王国の動揺は激しく、そのうえに女王の生い立ちが、危うさにさらに拍車を掛けた。

その危うさは、明日をも知れぬと言ってもなお、控えめなほどだった。

――いちばんの障害で邪魔はあんたよ、カイト。でも、知っているでしょうあたしはやさしいの。あんたに生きる機会と権利を上げるわ…………あたしの言うことを、なんでも聞くならね!!

それからは、女王の地位を盤石のものとするための、いわば隠密稼業生活だった。

女王が盗んで来いと命じたものは、単純な宝飾品という理由に留まらない。

それらには目障りな有力貴族の秘密が隠され、もしくは権力の象徴があった。

カイトが盗んで来たことで掴んだ証拠や権力によって、女王は邪魔者を押さえこみ、あるいは断頭台へと送り、その地位を揺るぎなくした。

そして最終的に、諸外国にすら一目置かれる女傑として、名を馳せるに至ったのだ。

言うことを聞け、と強要した女王は、カイトが「いいこ」であったら、いつか呪いを解いてやる、と言った。

そのいつかが、いつなのかはわからない。

カイトのそこは、うっすらとも毛が生えないままに、今日もなめらかな肌を晒している。

「ん………」

「………カイト」

「ぁ………」

肌をなぞる指の動きに、なにかしら煽られたのだろう。

がくぽの声が堪えきれない熱に潤み、殊更にカイトの腰を抱き寄せる。手がそのまま肌を辿って、つるんとして障害もないそこを過ぎ、しんなりと力を失っている性器に絡みついた。

「が、くぽ………」

まだ、もう少し休ませてほしい。

もうひとつ言うなら、今日はもう、男性器を弄らないでほしい。腹の中を掻き回されるのには付き合うが、それ以外はもう、容赦してほしい。

がくぽはまだまだのようだが、カイトはすでに限界を超えている。触れられても、気持ちいいというより、すでに狂うような感覚しかない。

「………ぁ」

複数の嘆願を込めて呼ばれても、がくぽの手は止まらなかった。濡れたまましんなりと項垂れるものを、激しく煽るでもないが、弄り続ける。

「ぁ………っ」

ようやく治まりかけていた息が荒くなり、体に熱が戻る。

腹の中のがくぽを締めつけると、限界まで付き合いきれたことのないものが、やはり元気いっぱいに脈打った。

「………ぁは」

性器が訴える痛みと、限界を超える体に、カイトの瞳からは反射的な涙がこぼれる。けれど顔も声も笑っていて、それ以上にはがくぽを制止しようとはしない。

が、ふとがくぽが手を止めた。窓の外を訝しげに見やる。

「………………うた?」

「………」

つぶやきに、カイトはす、と瞳を細めた。熱に浮かされかけた頭を振って、耳を澄ませる。

開いた窓からは、涼しい風だけでなく、か細く可憐なうたごえが流れて来ていた。

夜中だ。

すでに家僕ですら寝に入っていて、起きているのはこうして夜遊び中の当主たちと、張り番くらいのもののはず。

けれど確かに、うたごえは屋敷の敷地内から響いていて――

「ミク殿…………か?」

「ああ、もう……仕様のない………」

首を捻ったがくぽが結論をつぶやくのと同時に、カイトが深いため息をつく。

疲れ切ってがくぽに凭せ掛けていた体を起こすと、ベッドに手を突いて、窓へと身を乗り出した。

そうやっても、ベッドの上に違いはない。窓は遠いが、心理的な問題だ。

「金糸雀がないてる…………」

「金糸雀ミク殿だろう?」

疲れて虚ろな声でつぶやくカイトに、がくぽは首を捻る。離れた体を戻そうとしたが、カイトは首を振って抗った。

「金糸雀だよ。おとうさまのかわいい金糸雀…………」

「カイト?」

吐き出したカイトが、顔を上げる。背を仰け反らせると、大きく息を吸い込んだ。

「『』」

「……………」

さんざんに「啼いて」よがって、掠れ気味の声。

そこから、放たれるうた。

がくぽはミクだと思うのに、「金糸雀」だと言い張られるその声ときれいに唱和し、カイトは窓の外へとうたを放つ。

ミクの声はそもそもがおっとりと可憐で、そしてカイトはがくぽにとって、声まで含めて愛らしいの化身だ。

唱和される声は甘く、心地よく、耳を蕩かせる。

はずだった。

「………っ」

ざらりと神経を撫で上げられて、がくぽは顔をしかめる。

「『』」

カイトはがくぽを腹の中に収めたまま身を乗り出し、窓の外へと無心にうたう。そして窓の外の声もまた。

夜闇に紛れても、窓を開け放している。入ってくるのは夜気のみならず、月明かり、星明りもだ。

精を吹きかけ、自分でも吹き出し、そして唾液をまぶして舐め辿って濡れ、さらになめらかさを増す白い肌が、不安定に浮かび上がっている。

尖る肩甲骨に、片手で折れそうな細い首に、続く背筋に、がくぽはごくりと唾液を飲みこんだ。

「………カイト」

「『』、っ」

うたうカイトの声が、一瞬途切れる。

肩甲骨にがくぽが牙を立て、そのまま背筋を舐め辿って行った。

「……っ、『』」

震え、息を上げながら、それでもカイトはうたを続ける。がくぽは構うことなく、カイトの腰を掴み直した。

カイトはちょうど、ベッドに腕を突いている。がくぽは自分も膝を立ててカイトの腰を持ち上げ、四つん這いにした。

そうやっておいて、入れたままの腰を使い始める。

「『』っ、は、ぁあっ、ぁん、ぁ……っ」

「ふ………っ」

抜かれないままに、中に放出され続けている。がくぽが動くたびに、カイトの秘所は激しい水音を立て、収めきれない精を外に撒き散らした。

「ぁ、ゃあ、あ、ぁああっ、ふ、ぁああっ」

激しい突き上げに、カイトはとうとう、うたえなくなった。すでに疲れ切って力無い腕が折れて、ベッドに体を崩す。

腰だけはがくぽに掴み上げられて、殊更に尻を突き出したような格好になりながら、カイトの手はシーツをきつく掴んだ。

「ぁああ、がくぽ………っがくぽ………っ、ぁんっ、いい………っきもちい、よぉ………っ」

かん高い嬌声と、尻を打つ音。

そして抜き差しのたびに上がる水音。

卑猥な音に満ちた部屋に、ひとりうたい続ける「金糸雀」の可憐な声は、掻き消された。