がくぽは深刻な表情で考えこんでいた。懊悩と言い換えてもいい。

リビングの床に相対して座ったがくは、兄が口を開くことを辛抱強く待っていた。

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ややしてがくぽは、重い口を開いた。

「弟よ。我は最近、ひどく悩んでおるのだが…」

「応、兄者よ。我で力になれることなら、必ずや力になろう。ゆえに、なんでも言ってくれ」

頼もしく請け合う弟に、がくぽは懊悩著しく、頭を振った。

「なにゆえ我らの嫁は、ああも愛らしい…………?!」

「兄者………」

がくぽが吐き出した『悩み』に、がくは瞳を伏せた。ふるふると、首を横に振る。

「残念ながら、我では力になれぬようだ、兄者…………嫁の愛らしさは、我の力の及ぶところではない」

告げて、がくは窓の外を眩しげに見やった。

「悩ましいな、兄者………」

「うむ。悩ましいのだ、弟よ………」

懊悩する二人の額に、べたんべたんと手のひらが当てられた。

「……………この手はなんだ、マスター」

「マスター、気安く触れると弾けて飛ぶぞ。そなたが」

「いやおまえ、どんな危険物よ、子がくぽ!!」

戦慄して叫びつつ、マスターはがくぽとがくの額に当てた手を離し、ふるふると振った。

「熱はないみたいだな」

「なにゆえ熱なぞ計る」

胡乱げに訊くがくに、がくぽのほうも至極まじめに頷いた。

「そもそも、計り方が間違うておる」

「えぅおっ?!」

言うや、がくぽは中腰で覗きこんでいたマスターの顔を掴み、額と額を合わせた。

「正しい熱の計り方とは、こうだろう」

「いや、おまえね……」

「兄者………」

どこまでもまじめに主張するがくぽに、マスターは沈みこみかけ、がくも首を横に振った。

「それは子供相手の計り方だ」

「む。そうだったか」

「いやいや、てかね………」

脱力しつつ額を離し、マスターは二人の傍らに胡坐を掻いて座った。

「そういう計り方は、カイトにでもしてやんなさい。歓ぶから」

「阿呆か、マスター」

「阿呆だな、マスター」

がくぽとがくは揃って、マスターへと呆れた視線を送る。

「嫁に対しては、嫁用の計り方というものがきちんとある」

「嫁に対して、子供向けの計り方をするやつがあるか」

「嫁用?」

きょとんとするマスターからふと顔を逸らし、がくは玄関を見た。

「む、噂をすれば嫁が」

つぶやきと同時に、壁の薄いアパートに、外階段を上る足音が届く――ややして、がちゃりと玄関が開いた。

「ただいまぁ、がくぽぉ、がくぅー。あとついでにマスターも」

最初はハートマークでもついていそうに甘く、最後はケッと吐き出したカイトに、マスターは手をお祈りの形に組んだ。

「ついででも、ただいまって言ってくれるんだな、カイト…………!!」

不憫な悦び方をしているマスターには構わず、がくぽとがくは、靴を脱いでそのまま台所に行こうとしたカイトを手招いた。

「ん、なにおみやげでも欲しいのって、んんっ!!」

のこのことやって来たカイトを、がくぽは器用に転がして膝の上に抱えこんだ。頭をがっちりと押さえると、強引に口づける。

「ん………っんん…………っ」

舌を差し入れられ、口の中をねっとりと探られて、カイトはくぐもった声を上げながら痙攣する。

ややして唾液の糸を引きながら離れたがくぽは、こっくりと頷いた。

「うむ。平熱」

納得したような言葉に、赤く染まって震えるカイトは、霞む思考を払うように首を振った。

「なんの話………ぁ、がく………っ」

抗議の隙もなく、がくぽの腕にがっちり抱えられたままのカイトの口を、今度はがくが塞いだ。

兄に負けず劣らず、濃厚にしつこく口の中を探る。

カイトがすっかりぐたっとしたところでがくは離れ、頷いた。

「うむ。確かに平熱だ」

「ああ、『嫁』用……ざーんしーん………でもないか確か正しい体温ってのは口の中か、ごにょにょん」

語尾を濁し、マスターはがくぽの腕の中でぐったりと伸びるカイトを覗きこんだ。

「んで、カイト。がくぽと子がくぽの熱はどうよ平熱か?」

「…………………知ゆか、このむにょぉ…………っ」

濃厚なキス二連続によって、カイトの舌は激しく痺れていた。吐き出す罵倒が舌足らずにもつれ、なんの萌えキャラしゃべりかという状態になっている。

そんなカイトの状態にへらりとだらしなく笑み崩れてから、しゃっきりした顔へと一瞬で戻り、がくぽとがくはマスターを見た。

「そもそも、なにゆえ我らの熱なぞ計る」

がくぽに訊かれて、マスターは肩を竦めた。

「いや、なんか深刻な顔して話しこんでるからさ。具合でも悪いんかと」

ぽりぽりと頬を掻いて言ったマスターに、がくぽとがくは眉をひそめた。

「我らは、嫁が愛らし過ぎることについて、悩んでいただけだ」

「我らの嫁の愛らしさは、まさに天井知らずゆえな」

「がくぽ………がく…………」

生真面目に吐き出すがくぽとがくの頭に、抱えられて伸びたままのカイトは手を回した。

するりと髪を辿って後頭部を撫でると、がしっと掴む。

そのまま二人の額を、がつんと打ち合わせた。

「ぐぬぅっ」

「ぅぐぅっ」

「ひとのことを、『嫁』呼ぶなって言ってるでしょ…………っ」

未だに舌足らずに吐き出すカイトと、打ち合わされた額を押さえて屈むがくぽとがくを見比べ、マスターは生温く笑った。

「……………………これでも、悩むほどに『愛らしい』…………?」

そのマスターを、涙目の二人はきっとして睨む。

「この乱暴な照れ隠しが、また新たなる萌えだとなにゆえわからぬ!!」

「こういう手の早いところもまた、我らを萌え殺すのだ!!」

言い切ったがくぽとがくに、マスターは伸びきったカイトを見下ろし、やさしく笑った。

「愛されてんね、『およめさん』」