弟の問いに、兄は力なく答えた。

「うむ、弟よ………。情報源が、情報源ゆえな……。多少は怪しいかもしれん」

――念のためにくり返すが、がくぽに『かわいいは正義』と吹き込んだのは、商店街の三河屋の息子だ。いわく説明し難い、悪癖持ちの。

Today's Fortune:Forever Ever-04-

がくぽの声にも言葉にも力はなかったが、精神状態に左右される意外に繊細な場所は、元気いっぱいだった。カイトの痴態に素直に反応した結果だが、ほとんど痛い。

「どう考えても、後で布団に篭もることになるぞ、嫁?」

「っぁっ」

突き抜けて苦笑を浮かべながら、がくぽは誘う場所に指を伸ばした。あられもないおねだりにひくついて欲張るそこに、つぷりと潜りこませる。びくりと、カイトが背を仰け反らせた。

「天岩戸ならぬ、天布団だ。固くも重くもないが、難儀に変わりはないのだぞ」

「んっ、ぁっ、あ………っぁんっんんっぁ、が………っひぁんっ!」

粘膜を探る相手を呼ぼうとしたカイトだが、意味ある言葉を発する前に、新たな刺激が与えられた。

差し込まれたのは、指二本だ。ただの指二本ではなく、意思もまた別々ばらばらにある、二本の指。

「せめても一日にしてくれ、嫁よ」

兄の言葉を引き取ってぼやいたがくだが、表情には力が戻っていた。差し入れた指を襞に引っかけ、殊更に中を開くようにする。

「っやっ、見ちゃ………っなか、なかは見ちゃ……っ」

「いやらしい色だ、カイト。表の肌はこうまでぬめるように白く、清純そのものだというのに………」

「まさにそなたの色よな、カイト」

がくぽもまた、襞に指を引っかけると弟とは反対方向へ開いた。未だ締まる入口だが、捲るようにされ、赤く熟れて蠢く粘膜がつぶさに見える。

「清純に見えて、淫乱。無垢そのものの面をしながら、ひと皮剥けば淫奔だ」

「うむ、この襞の様子………粘膜の具合。嫁のあられもなき本性を、隠すこともなく露わにしている」

よだれでも垂らしそうな様子で言って、がくぽとがくは空いている手を上げた。ぱんと、音高く打ち合わせる。

「「ぐっじょぶ」」

「おばかどもぉおお…………っ!」

する必要もないのにわざわざ意気投合したがくぽとがくに、カイトは全身を真っ赤に染めて呻いた。ぷるぷるぷるぷると震えるのは、好き勝手に与えられる快楽のためだけではない。

とはいえこの状況で、怒りに駆られて体に力を入れるのはかえって、墓穴というものだった。

きゅっと締まって指に絡まった襞に、がくぽとがくはこっくりと頷く。

「淫乱と呼ばれ嬲られて、感じたか」

「これぞまさに、嫁の真骨頂………想像を超える好きものぶり」

特に息を合わせた様子もないが、がくぽとがくの片手が同時に上がった。ぱんと、上がる破裂音は先よりも大きく弾む。

「「イイネ!」」

「カタカナ語使うな、このおばかサムライどもっ!!あとひとのこと、インランあつかい……っ!」

諸々積み重なり過ぎた挙句、ずれずれにずれたカイトのツッコミは、最後まで聞かれることはなかった。

二本の指がずるりと抜けたかと思うと、力を失いかけていた腰が掴まれ、引き上げられる。がくぽとがくへ、さらに突き出すような形だ。

カイトがぴくりと震えたときには、半ばおもちゃにされていた場所に熱が宛がわれていた。

「ぁ………っ」

なにか言おうとしたのか、制止か誘惑か――

定かにもならないまま、カイトは背筋を震わせた。

「んっ、ぁっ、ぁ………っ、ぁ、はいっ……ぉっきーの、ぼくのなか………っぁ、ぁあっ」

男でも、ロイドだ。前戯がなくともほどほどやわらかに受け入れるが、許容限界はある。軽く超えそうな質量に押し入られて、カイトはびくびくと痙攣した。

痛みと苦しさと、上回って全身を染め上げ冒す、痺れ――

「………イったか。まだ挿れたのみだぞ」

笑い声を吹き込まれながら腰を揺さぶられ、カイトは畳に押しつけた顔をほわりと綻ばせる。

「んっ、がくぽ………っの………っ」

告げる声は、どこか得意げだった。幼子があどけない自慢をするかのような、いたいけな。

「………正解だ、カイト」

ややして苦笑とともに正が与えられ、ご褒美とでも言うように畳に崩れる体が抱き起こされる。後ろから貫かれたまま座る形にされて、カイトの顔はますます陶然と蕩けた。

「っぁ、ふか………っ、がくぽの、ぼくのおなか、………ふかぃとこ、………ぁ、ふかぃとこ、ぐりぐり……っぐりぐり、や………っだいすき…………っ」

「どちらだ」

呆れたように吹き込まれながら、突き上げられる。カイトは恍惚とした表情で、背後の体に擦りついた。甘えるようでもあるし、さらなる深みを穿たせようとしているようでもある。

ひっきりなしにこぼす嬌声で閉じられず、とろりとこぼす唾液に濡れ汚れる口元に、てろりとなにかが張った。

「っぁんっ!」

びくりと、一際大きく反応したカイトのくちびるが、塞がれる。溢れる唾液が啜られ、痛いほどに舌を吸われた。

「ぁっ、ん、がく………っ」

「そうか?」

キスの相手を当てたはずのカイトに、空とぼけた声が吹き込まれた。顎を掴まれ、反論を紡ぎかけたカイトのくちびるが、またも塞がれる。

「んんっ、ん………っ」

苦しさと募る快楽と、過ぎる感覚にカイトの腹が限界を訴えて波打った。

「………『そう』か、カイト?」

ぎりぎりのところで見極めて解放され、耳朶を食むようにくり返される空とぼけた問い。

「そぉ、だも……っさきに、したのが、がく………あとが、っぁ、ひぁあああぅっ!」

弱いところをきつく抉られて、カイトは言葉を継げずに仰け反った。限界に、今日幾度目とも知れず破裂寸前になっているものが、ぷるんと震える。

冷たい空気の中で熱を失うことのなかったそれが、ふいに熱を篭もらせる粘膜にねっとりと押し包まれ、啜り上げられた。

「っぁ、や、きちゃ………っ、まえとうしろ、したら、ぉっきぃの、きちゃ………っ!」

悲鳴のような嬌声とともに、カイトの体が大きく痙攣した。同時に、腰を抱え突き上げていたがくぽの体が強張る。耳に吹き込まれたのは笑い声でも嬲る言葉でもなく、小さな呻き声――

「………もとより勝負になどなっておらんのだが、それにしてもな」

ぼそりとぼやく声とともに、弛緩したカイトの体から、ずるりと抜け出て行く感覚がある。

「や、だめ………っ」

反射的にきゅうっと締めたカイトだが、止めることは出来ず、一度は満たされた腹が無情にも熱を失う。

しかしそれも一瞬だった。寂しさに耐えかねたカイトが、おばかな亭主どもが手を打ち合わせて大喜びするようなあられもないおねだりをする前に、腹の中に再び凶器が捻じ込まれる。

そう、カイトの亭主どもは、だから『ども』なのだ。複数形で、常にカイトを愛して欲する。

「がく………っ」

「ああ、正解だ、カイト」

兄から嫁を受け取ったがくは、やさしく吹き込んだ。裏腹に、腹に突き込んだものは容赦もなく、狭い筒を押し広げ、絡みつく襞を掻き乱す。

カイトは背筋を震わせ、嘆願するように首を横に振った。

「ぁ、待って、まって………まだぼく、イったばっかりで………」

「どれだけ待ったと思う。そなたに散々に煽られ誘われながら、ここまで堪えた。実際のところ、我らの堪え性も甲斐性も、十全に過ぎると思うぞ」

「ぁんんっ」

やわらかな声できっぱりと懇願を拒み、がくは膝に抱いたカイトの体を突き上げ始めた。

「んんんっ、んんっ、ぁ、め、だめ………っ、がく、め………っぼく、イっちゃ………また、すぐ、イっちゃ………っこんな、こんなされたら………っ」

「……っつ……っ」

惑乱するカイトの様子ままに複雑に蠢く粘膜に、がくは堪え切れない呻きをこぼす。顔を苦痛に歪めながら、しかし動きを止めることはなく、容赦なく奥まで抉り続けた。

「っぁ、あっ、あっ、き…………っ」

言葉も失われるほどの感覚に襲われ、カイトは天を仰ぎ全身で痙攣する。硬直する体を支えながら、がくはより深く、より奥へと己を突き込んだ。

快楽なのか苦痛なのかわからなくなっていたものが、カイトの腹の中で爆ぜる。

「………っ」

瞬間的に、がくは縋るようにカイトを抱きしめた。

煽られた想い分だけ、カイトの腹に吐き出して埋めると、抱きしめる腕から力が抜ける。

だからといってカイトを取り落とすことはないが、失った力を補うように、支える手が伸びた。

「………兄者」

「いや、なに」

疲労を隠せないまま、胡乱な目を向ける弟に、兄のほうはしらりと爽やかいっぱいに微笑んだ。さりげなくもはっきりとした目的のもと、がくの手からカイトを取り上げる。

「ふぁ………」

立て続けに過ぎた感覚に晒されたカイトは、されるがままだ。もともと抵抗らしい抵抗はしないが、だとしてもほとんど人形に近い。

意識を失いかけにも見えるカイトを、がくぽは丁寧に抱き直した。しぐさは丁寧だ。表情もやさしい。

やろうとしていることは、丁寧でもやさしくもない。

「………どうせしばらく、布団に篭もられるだろう目的を明確にしておこうと思ってな」

「兄者………」

弟のじっとりした視線にも負けることなく、がくぽは爽やかいっぱいに微笑んだままカイトを膝に乗せた。さらりと落ちた手が緩くなっていた縄を解き、ようやくカイトに自由を赦す。

赦されても、カイトの腕は力なく、だらりと落ちたままだ。

がくぽが構うことはない。愛おしさを堪えることも出来ないまま、カイトにキスの雨を降らせた。

「んっ、んふっ、……っゃあぁん………っ」

重い動きだが、カイトはくすぐったいと笑って、小さく首を竦めた。すぐに顔が上がって、がくぽの顎や頬をちゅっちゅとついばみ、お返ししだす。

突き抜けて健気で、献身的な姿だ。

軽く首を振ると、がくは胡坐を掻いて畳に座り直した。膝に肘をつくと、自堕落に頷く。

「そうだな。兄者の言う通りだ。どうせ布団に篭もられるなら、理由が明確であるのがいい。腰が立たぬなら諦めもつこうし、我らとて反省のしがいがある」

事後にカイトが布団に篭もるのは、最中の己の言動があまりに恥ずかしいからだ。

羞恥に堪えかねて、穴を掘って埋まる代わりに布団を被って、篭もる。

がくぽとがくには、意味不明もいいところだ。彼らは淫乱で淫猥で好きものな嫁が、かわいくてかわいくて仕様がない。

あれだけかわいらしいものを、恥ずかしがることなどないと――

理解不能な理由で布団に篭もられるのは、困る。

が、たとえば『過ぎて足腰が立たない』となれば、布団に篭もられたとしても、がくぽにもがくにも理解が可能だ。

意味も明確で、困惑することもない。むしろ、そういう状態ならばゆっくり休めと、無理をさせて悪かったと、思う存分に労わってやることが出来る。

兄の目指すところをきちんと言葉として発してから、がくはわずかに表情を改めた。

もはやまったくまともな思考が働かず、ひたすらに与えられる愛撫に応えるだけとなったカイトだ。これだけ間近で、アレにもアレ過ぎる計画を吐露されても、いつものような罵り言葉すら返って来ない。

そこまで追い込んだかわいい嫁を、完璧に抱き潰そうと企んでいるがくぽへ、がくは身を乗り出した。

「なあ、兄者………ごく頻繁に思うが、もしや兄者は天才なのか?」

至極真面目な弟の問いに、兄はほのかな笑みを浮かべると、首を横に振った。

「いいや、なに――ほんの嗜みの程度だ」