Happy Trick

膝丈まである黒色のスモックと、肩だけを覆うレースたっぷりの小さなマント。

肩から下げた小ぶりなポシェットは、茶目っ気たっぷりな黒猫型。

いつも結い上げている長い髪は、解いて垂らしたうえで毛先に軽くカールを入れ、ゆるふわ仕上げに。

そのうえで、てっぺんに大きな赤いリボンのついたカチューシャを乗せ、乱れがちな髪を簡単にまとめた。

足元は、尖った爪先に毛糸のぼんぼんをつけた靴、手には子供サイズの箒。

もしも中世に存在していたなら、西洋史の悲劇がひとつ減っていただろう、愛らしいの極みの魔女がそこにいた。

「ぁああああ、がくたんっ、かわぃいいいいっっ!!」

「か、かいちょっ!!いたいでごじゃるっおちつくでごじゃるよっ!!」

――託児室へと迎えに来たカイトの元に、がくたんはいつものように駆け寄ってきた。

いつもと違ったのは、保育士たちの手により、朝は普通だったがくたんがすっかりハロウィン仕様となっていたことだ。

そのあまりに愛らしい魔女ぶりに、カイトは興奮を隠せないまま、ぎゅぅうっとがくたんを抱きしめる。

加減もしない力の強さに、『ぎゅう』好きのがくたんも、さすがに慌ててもがいた。

「ぁ、ごめ………でも、がくたん、かわいい………っっ」

「んぬー………」

いつもなら、自分はカイトの婿なのだから、かわいいと言うなと抗議するところだ。

しかし今日の場合、かわいいと言われるための仮装でもある。

抱きしめられて頬ずりされながらわずかに懊悩し、ややしてがくたんは気を取り直した。

苦労してカイトの腕の中から抜け出すと、胸を張る。

「かいちょ、とぃっく・ぁ・とぃーちょでごじゃる!!」

「ぁは、もちろん……」

「しかしはやいもの勝ち、やったもん勝ちでごじゃるっ!!」

「へ?」

カイトが、保育士から事前に言われて用意してきた菓子を出す間もない。

叫んだがくたんは、黒猫のポシェットに引っかけていたねこ耳カチューシャを取って、カイトの頭に被せた。

「が、がくたん?」

「ねこねこかいちょの完成でごじゃるっ!!これでかいちょも、おばけの仲間でごじゃるっ!!おかし食べほーだいでごじゃるよ!!」

――甘いもの好きなカイトのために考えてくれた、『イタズラ』なのだろう。

胸を張って言うがくたんに、しばらく考えてから、カイトはにっこり笑った。

「つまりカイトは、お菓子を上げる側から、貰う側になったってことだよね?」

「うむ、そうでごじゃる!」

胸を張ってのがくたんの答えに、カイトは笑顔で手を差し出す。

「がくたん、『Trick OR Treat』?」

にっこり笑顔で要求したカイトはしかし、応えを待つこともなく、即座にがくたんの肩を掴んだ。

「やったもん勝ちなんだよねイタズラしちゃうから、がくたん!」

「ぬぁあああっっ?!

――黒猫のポシェットには、おそらく菓子が用意されていたのだろう。がくたんは手を伸ばしたが、取り出す間もなかった。

お返しとばかりに、カイトはあたふたとするがくたんへ速攻で伸し掛かった。