tooth teeth chooth

しゃがみこんでがくたんと目線を合わせたカイトは、非常に真剣な顔で言った。

「あのね、がくたん。もうカイトとお口ちゅっちゅできなくなっても、いいの?」

「んなっ?!

カイトの衝撃の宣告に、がくたんは仰け反り、長い髪を逆立てた。

「い、いやでごじゃるっ!!いやでごじゃるぅうっ!!せっしゃはこれからも、ずーっとずーっと、かいちょとちゅっちゅするのでごじゃるぅうっ!!」

「ん、よしよし………」

涙目で取り縋ってきたがくたんをきちんと受け止めてやり、カイトはにっこりと笑った。

「じゃあ、がくたん。おやつを食べたあとは、ちゃんと歯みがきしようねじゃないと、ムシバになっちゃうんだから」

「う………っ、う、ううう………っ。せ、せっしゃ、ちょびっと、いたいくらい………」

「がぁくたぁあん………」

途端に体を引いて視線を移ろわせたがくたんに、カイトは悲しそうな声を上げる。

手に持ったままの子供歯ブラシを、逃げるがくたんにふりふりと振ってみせた。

「あのね、がくたん。ムシバって、移るんだよがくたんがムシバになるでしょそしたら、がくたんとお口ちゅっちゅしたカイトにまでムシバさんが移っちゃって、カイトまで痛いいたいになるんだよがくたんは、カイトに痛いいたいしたいのそれとも、ちゅっちゅ止められる?」

「!!!」

丁寧に説明したカイトに、がくたんは大きな瞳をさらに大きく見張った。

「ね、がくたん?」

「は、歯みがきするでごじゃるっ!!」

さっきとは打って変わって、がくたんはカイトからむしり取るように歯ブラシを貰った。

食材パンヒーローが描かれた子供用のそれをぎゅっと握りしめ、決然としてカイトを見る。

「せっしゃ、かいちょにいたいいたいなど、決してさせぬでごじゃるっ!!ちゅっちゅもやめないでごじゃるっ!!せっしゃはかいちょの婿でごじゃるっ嫁にかなしー思いなど、させぬでごじゃるよっ!!」

「わあ、がくたん、オトコらしいっ!」

堂々宣言したがくたんに、カイトはまんざら芝居というわけでもなく、頬を染めてぱちぱちと手を叩く。

「うむっ!!」

がくたんはもう一度頷くと、歯ブラシをごぶっと口の中に突っこんだ。

「あ、がくたーん。あんまり力いっぱい、やっちゃだめね歯茎から血が出ちゃったら、ちゅっちゅが血の味になっちゃって、カイトが悲しくなっちゃう」

「んみゅっ」

「歯の裏側もきれいきれいしてねそこにムシバさんが隠れてたら、カイトがムシバになっちゃうよー」

「んみゅっっ」

「わー、がくたん、じょぉずじょぉずー☆」

「んみゅっっ!!」

カイトにいいように指示されつつ、がくたんは懸命に歯みがきをした。

ある程度まで行ったところで、カイトは水を汲んだコップをがくたんに渡す。

「はい、じゃあがくたん、ぶくぶくぺーっ、しようね。歯みがきしてこそげ取ったムシバさんたちを、お口からバイバイしようね!」

「んみゅっ!!」

がくたんは素直にコップを受け取り、がぶっと水を含んだ。

「んむんむんむっ」

含んだ水を口の中で転がすがくたんに、カイトはわずかに心配そうに身を乗り出す。実際のところ、子供の歯みがきでいちばん神経を使うのはここだ。

放っておくと、そのまま飲みこんでしまうのだ。

「ぺーってしてねごっくんしたらだめだよ。ぺーっね。はい、ぺーっ」

「ぺーーーーっ」

カイトに言われるまま、がくたんは素直に水を吐き出した。

ほっとしつつ、カイトはさらに数回、がくたんにうがいをさせる。

「はい、がくたん、おしまいししまい!」

輝く笑顔で言ったカイトに、がくたんもまた、きらんきらんに輝く顔を向けた。

「かいちょかいちょかいちょ!!せっしゃ、はみがきしたでごじゃるっムシバさん、いないでごじゃるよ!!ちゅっちゅするでごじゃるっ!!」

「あ、うん。そうだね、ちゅっちゅできるね」

「ちゅーっっ!!」

「んっ」

自分で言いながら、がくたんは尖らせたくちびるをぶつけてくる。

避けようもなく触れ合ってから、離れたくちびるを見つめて、カイトはほんのりと目元を染めて笑み崩れた。

「がくたん…………ちゅう、いちごあじ」