You See Me

片手に美振を携え、がくたんは居間へ入った。くるりと全体を見回した瞳が、一点で止まる。

そこには、ナス型の巨大クッション――もといぬいぐるみ、もといがくたんの『愛馬』、ヨイチがいた。

「んむ…っ」

こっくり頷くと、がくたんはたとたととヨイチへ歩み寄る。手をかけると、その背によじ登った。

確かにヨイチは大きいが、いつものがくたんなら『よじ登る』必要もなく、もう少し軽々と背に跨る。が、今日は美振で片手が塞がっていた。長細い棒を片手に持ったまま動くというのは、幼い身には難業だ。

「ん、んしょ、んっしょ……………ぷぁっ…………よしよし…」

ようやくヨイチの背に跨ることができたがくたんはまず、中綿が少々つぶれてきている愛馬の背をぽんぽんと叩いて、労う。

「んむっ!」

改めて気合いを入れ、美振を持ち直すと、がくたんはきっと前を見据えた。

柄をしっかり握った美振をかざし、勢いよく振り下ろす。指の代わりとばかりに一点を差すと、がくたんは轟と叫んだ。

「しょこにいるのは、わかっているでごじゃるよ、かいちょ!!」

「ぇえええっ?!」

確信に満ちたそれに、カイトは驚声を上げて顔を覗かせた。がくたんの――美振の差した方向の後ろ、若干斜めからだ。つまり、方向としてはまったく明後日な。

「え、ちょ、がくた、それファイナルアン……っ?!」

掃き出し窓の、床までの長さがあるカーテンの中に隠れたカイトだ。窓脇に寄せてあるそれは、カイトがくるまると下側がぽっこり膨れる。姿は見えずとも、どこに隠れたかは一目瞭然というもの。

自宅内で幼子相手のかくれんぼに妥当な場所はと、カイトが知恵を絞った結果だ。

だというのにあまりにも見当外れな方向を示され、ついうっかり顔を出してしまった。

顔を出してしまったのみならず、なぜかカイトのほうがあわあわと慌てている。

そのカイトに、がくたんはヨイチに跨ったまま上半身を捻って振り返り、満面の笑みを閃かせた。

「みっけでごじゃる、かいちょいま、ちかまるでごじゃるよ!」

「えっ、えっ、わっ、あぶな…っ!」

言いながら、がくたんはまたしても美振を片手に持ったまま、えっちらおっちらとヨイチから降りようとする。

動きは、乗るときよりよほど危なっかしい。カイトは慌ててカーテンから飛び出すと、がくたんを抱き上げた。

がくたんといえば、カイトの首に腕を回し、またもやにっこりと笑う。

「ちかまったでごじゃる、かいちょ!!」

「え、ええーえええー………っ?!ちょ、これ、ありなの……?!」

いくらなんでも納得がいかず、さすがにカイトも目を白黒させた。

複雑極まる心中を持て余すカイトへ、がくたんは軽く胸を張る。

「んむせっしゃのセンリャク勝ちでごじゃるせっしゃ、はいほーをおぼえたでごじゃるよ!!」

「は、はいほー?!」

カイトはきょとんとして、腕の中の幼子を見た。

幻覚だが、がくたんの頭に陽気な三角帽子が見える。ついでに、白もじゃなおひげもだ。

そういえばサンタコスで白もじゃおひげをつけたがくたんはかわいかったと、カイトの思考は束の間飛んだ。

大人の明後日な思考など露知らず、がくたんは真面目な顔となって続ける。

「せっしゃ、今はまだ、ちぃちゃいゆえ…こうして、かいちょに守られるしか、できぬでごじゃるが……いずれゆくゆく、かいちょを守れゆオトコとなるため、はいほーのべんきょーをはじめたでごじゃる!」

「がくたん…」

ぱっと瞳を見開いたカイトに、がくたんはこくっと頷く。

「せっしゃ、ほんとーはこういうのは、ヒキョウというのではないかと、思うでごじゃるよ。しかしはいほーをみると、こういうのはセンリャクというでごじゃるな。せっしゃ、まだまだみじくものゆえ、ヒキョウとセンリャクが、よくわからぬでごじゃるが…今のうちから、いっぱいはいほーをれんしゅーして、いずれかいちょを守れゆ、りっぱなオトコとなってみせゆでごじゃる!!」

「がくたん…っ!」

力強く誓約してくれる幼子と、その成長ぶりに、カイトは泣き笑いのような表情となった。堪えきれずに力いっぱい、ぎゅうううっとがくたんを抱きしめる。

「なんだかよくわかんないけど、かっこいい…おっきくなったらコビトさんでも、がくたんなら絶っっ対、かっこいいよカイト、楽しみに待ってるから……!」