ラージャ・マハーラージャ

小さな夜をゆくための貨寓話集

くり返し、くりかえし、くり返して降る、降らせる、くちびる。

なぜなら暇だった。

――なにか、したいことはないか。

がくぽに訊かれて、カイトの選択がこれだ。

キスをたくさん。

たくさんのキスを。

――なんでもいいぞ。そなたが望むのであれば、望む限りに…

カイトがそう決める前に許可も出ていたので、こころおきなく。

ただキスを。

「いや待てカイト」

そのカイトの額に手のひらを当てて押しやり、なんとなし、ソファに押し倒され気味となっているがくぽが、慌てたように口を開く。

「確かに好きにやれとは言ったがな、これはなにか爛れておらんか。なにかというか非常に爛れてはおらんか陽気もいい平日の昼間にリビングでの暇つぶしがただひたすらキスにのみ興じるとか、待て違う爛れてない?!逆だ?!先に進むでもなく唾液すら交わさぬキスだけをただひたすら続けるとか、これはまさか新手の拷問かカイト?!」

――ただひたすらキスのみ交わすことに、それがカイトの選択した『暇つぶし』であることに、がくぽはよほど、動揺しているらしい。

普段、ぶれることのない花色の瞳が気弱におろついていて、言いたいことすらうまくまとまっていない。

押さえる手のひらの下からしばらくがくぽを観察し、カイトは軽く、頭を振った。

それで軛を解いて、軛は解けて、再び伸し掛かる。がくぽへ、大好きな恋人へ、最愛の男へ。

「かぃ……っ」

カイトは降らせる。くり返し、くりかえし、くり返して、がくぽのくちびるへ、くちびるを。

たまたまなにも予定のない午後の、暇つぶしに。

――なんて、贅沢。

――なんていう、贅沢…

なにかしらの罪悪感に苛まれているらしいがくぽを敷いて、好きなだけくちびるを降らせ、重ね、カイトはご満悦に笑う。

笑いが堪えられない。

建設的なことがなにもなく、深まるものも極まるものとてもなにもなく、見えるものも見なくてはいけないものもなにもなく、ひたすらなにもなく、ただキスを。

大好きな恋人と、最愛の男と、ただただキスを。

こんな時間を与えられることが、どれほど贅沢なことか。

こんな時間を過ごせることが、どれほど贅沢なことか――

とても過ぎて贅沢なので、毎日はいらないけれど。

「ああ、――まったく、儘よ!」

ご機嫌にくちびるを重ねるカイトへがくぽは叫び、それで割りきったらしい。

気がついたら、伸し掛かるようだったカイトはソファを背にがくぽに伸し掛かられていて、キスの雨に晒されていた。

ただキスだ。キスだけの、キス。

カイトのご要望通りの『新手の拷問』、キスというだけの、キスと、キスと、キス――