毒ドクうぃっぱー

ここここんと、がくぽの病室の扉が軽くノックされた。

が、がくぽの返事を待つことはない。扉は勢いよく、爆破される勢いで開かれた。

「じゃんっじゃじゃーーーーんっがくぽっ、お待たせぇっがくぽだけのナースさん、参上だよぉっ♪」

待っていない。

病院の、さらに言うなら入院病棟だ。

そういったところで必要とされる気遣いが皆無以上に絶無な、いけない方向での元気さに溢れた声とともに現れたのは、確かに『ナース』だった。

服装だけは。

ベッド上で座って迎えたがくぽは、自身の入院理由とはまったく別のところで兆す頭痛と戦いつつ、首を横に振った。

「すみません、カイト先生。白衣のほうが好みです」

がくぽは努めて平静な声で告げた。対して、間違った方向で元気いっぱい押しこんできた『ナース』は一転、不機嫌も露わにナナメを向く。

「ちっこの変態がッ!」

「舌打ち?!というか、俺のほうが?!」

痛烈な舌打ちとともに吐き出された罵倒に、がくぽは目を剥いた。

ごく客観的に見た場合、『ヘンタイ』と呼ばれるのは明らかに『ナース』こと、がくぽの主治医であるカイトのはずだ。

そう――そもそもカイトは『がくぽだけのナースさんvvv』以前に、がくぽの主治医だ。普段はドクターらしく、白衣に身を包んで院内を闊歩している。

ついでに言うと、『服装だけはナース』と表現したが、実のところ説明が足らない。

正確を期すなら、『服装だけは’AV仕様の’ナース』だ。

薄いピンク色の布地で仕立てられたその衣装は、太ももの際どいところまでが露わになる、極ミニ丈のワンピースだ。

今時、こんな服装で仕事をする本職のナースはいない。いや、今に限らず、古く遡ってナイチンゲールの時代から辿っても。

基本の型こそナース服だが、これを着て『仕事』をするのはあくまでも、AV嬢。もしくは、オトナの遊戯場で働く、無免許『ナース』。

どちらにしても、まともな病院関係者が着る衣装ではない。

ましてやカイトは、男だというのに――

「ていうかここ、先生の職場ですよね……?」

「夢のない男だな、がくぽそんなだから、必要もないのに入院なんかさせられるんだよ!」

「えっ、必要ないのに入院してたんですか、俺?!」

さらりと落とされた爆弾に、がくぽは目を剥いた。

しかしご自身の職場で、AV仕様ナース服を真昼間から堂々着用する主治医は、さっぱり悪びれない。

「ぜんっぜん専門外だし、入院理由とはきっぱりまったく関係ないけど、がくぽ、EDの治療もしようかコイビトがせっかく、こんなキワドイ格好して来てやったってのに、反応が『白衣のほうが好き』ってだけとか。だれがどう考えても、要治療だよな!!」

「あの、先生………少しは俺の話を聞いて……!」

不名誉な病名を推測でつけられたが、そこにこだわっている場合ではない。

専門外だろうがAV式ナース服に身を包んでいようが、曲がりなりにも『医者』が『治療』と言うともっともらしく聞こえる。

――からと言って、油断すれば悲劇は免れない。

自分でずけずけぶいぶいと主張したように、カイトはがくぽの主治医であると同時に、恋人だ。

そして八つ当たりでつけた病名だ。

治療方法など、ひとつしか思い当たらないではないか。

大事なことなので何度でもくり返すが、ここはれっきとした病院だ。

そしてカイトは、がくぽの主治医。この病院の勤務医だ。

たとえ現状、ぴんくコスをしていようとも。

「……もしかして今日、暇なんですか、先生手術もないし重体の患者さんもいないとかで、暇を極めた挙句にった!」

「つくづくとしっつれーな男だな、がくぽ!」

つかつかと近づいてきたカイトは、入院中の自身の患者に、容赦の欠片もないでこぴんをかました。

ちょっぴり涙目になったがくぽに、威風堂々と胸を張って見せる。

「今日はお休みですオフ仕事サボって、片手間にがくぽを構いに来てるわけじゃない真っ向真剣に、正々堂々コイビト俺の権利行使として、がくぽにご奉仕に来ました!」

「わあ、カイト先生………」

ぴんくコスだが、きっぱり言い切るカイトは非常にオトコマエだった。

思わず生温い感嘆の声を上げたがくぽは、だけでなく、どうしても温くなる目線をそっと脇に流した。

入院病棟を抱える病院の医師の勤務実態は、過酷を極める。たまのオフともなれば、家で寝潰れていてもおかしくはない。

が、がくぽの目の前には、明後日な方向への元気を力いっぱい掲げるカイトがいる。

「………タフですよね、お医者さんって。カイト先生も、華奢な見た目に因らず、……」

つぶやきながら、がくぽは仄かに目線を彷徨わせた。

なんだかんだとは言ったが、がくぽはこのキテレツな主治医のことを非常に愛していた。

その彼が、貴重なオフを削って自分のところに来てくれたのだ。

それも、これみよがしな格好で。

「……本当に、カイト先生は白衣のほうがいいと思いますけどね?」

つぶやきつつ、がくぽはちろりとくちびるを舐めた。腕を伸ばすと、ベッドのすぐそばに仁王立ちするカイトの、露わにされた太ももを意味を持って撫で上げる。

そしてカイトがなにか反論するより前に、素早く腰まで辿って強引に抱き招くと、ベッドへ転がしてくちびるを塞いだ。