ラグナ・ロック

控室に戻ったがくぽは、きれいな形の眉を跳ね上げた。

先に戻っていたカイトが、ソファですやすやぐっすりおねんね中だ。

いや、寝ていること自体はいい。問題なのは、眠る彼がくるまる『布団』だ。

衣装に着替えたあと、きちんとたたんで置いていった、がくぽの羽織――

それが、カイトのお昼寝ケットと化している。

「まったく……」

「むにゅー」

がくぽが小さく慨嘆したところで、件の無断借用主が気の抜けた声を上げた。じれったくなるほどゆっくり目を開くと、眠たげに瞼をこする。

「ふぁ、がくぽ……」

「起きたか、カイト。いい布団を見つけたな?」

「むゆ?」

未だ寝惚けている相手に、がくぽはつけつけと言った。

きょとんとして、曰く示された『布団』を確かめたカイトは、ややしてにこぱっと明るく笑う。

袷を持つときゅうっと抱き締めるようにしてさらにくるまり、得意げにがくぽを見た。

「んっいーでしょ!」

「悪びれない?!」

――ついでに、皮肉も嫌味も通じない。

一瞬は頭痛を覚えたがくぽだが、実のところこれは、いつものことだ。

いつものことで、決して通じないとわかっているのに、それでも言ってしまう己が愚かだという話だ。

気持ちを切り替えると、がくぽはわずかばかり厳しい表情を作り、のへのへと笑っているカイトへ片手を差し出した。

ぷいぷいと振って、手招く。

「起きたなら、返せ。っとっ!!」

――念のために補記しておくと、がくぽが『手招い』たのは自分の羽織だ。カイトが断りもなく『お昼寝ケット』としたそれを、返しなさいと。

しかし実際には、羽織を被ったままの『カイトが』招かれて、勢いよくぴょんこと抱きついてきた。

半ば予想していた事態だったため、がくぽは無様に転がることもなく、難なく受け止めたはものの――

「まったく、君は……少しは自分の年とか体格とか、」

「んっへへがくぽ、コートふあふあー。きもちいー」

こぼされた小言を右から左、もしくはまったく耳に入れることなく流して、カイトはご機嫌な声を上げた。

声だけでなく表情まで蕩けさせ、今日のがくぽの衣装の上着、ファーと模造の羽根とで盛大に飾り立てられ、『ふあふあ』なコートに擦りつく。

「まったく……っ」

『ふあふあ』で『きもちいー』のは、がくぽの衣装だけではない。今日のカイトの衣装もだ。

差し色の違い程度で、二人お揃いの衣装なのだ。カイトのコートももれなくファーや羽根で飾られて、それこそ『ふあふあ』だ。

しかしカイトの『ふあふあ』のコートはソファの背に脱ぎ捨てられ、そしてカイトは、まったく『ふあふあ』ではない、がくぽのデフォルト衣装である陣羽織を被って――

「まったく……」

「んっひゃっ!」

なにごとかの感情を抑えこむ代わりのように慨嘆の言葉をこぼし、がくぽは擦りつくカイトを抱き直した。懐く体を器用に抱えてソファに座り、膝に跨らせるようにする。

「ね、がくぽぎゅーーーーっぎゅーってして力、いっぱいいれて……」

「抱き潰すぞ」

無邪気な要望に、がくぽは多少の苛立ちを込めて吐き出した。

「俺が『力いっぱい』に抱きしめたりすれば、カイトなぞ……」

「うん」

がくぽがつけつけとこぼす途中で、懐いていたカイトが顔を上げ、頷く。

ふんわりと、笑った。

「うん、がくぽ。抱きツブして」

「………っっ」

笑みと、言葉の響きと――

堪えることも出来ず、がくぽはカイトをきつく抱きしめると、笑うくちびるに貪りつくようにくちびるを重ねた。