そんなことを言っても、先にイったのは、要するに射精したのはがくぽのほうだ。

より正確に言うなら『した』のではなく、『させられた』だが。

踏みならされた道-2

一度目は、手で――上半身に散らされた愛撫からの快楽も相俟って、すでに反応していたものを掴まれ、挙句カイトの扱き方があまりに巧みで、がくぽにはまるで堪えようがなかった。

カイトのやり方は、がくぽが『知識』として持ち、『自分』で試しただけのものとは違う。実際に他人相手に経験し、場数を踏んできたうえに成り立つそれだ。

そうとはいえ、ほんの少し撫でられただけともいえる程度で達してしまい、さすがに堪え性やらなにから考えてどうなのかと――

がくぽが悩む暇は、ほとんどなかった。

「ん、いっぱい……俺の手、気持ちいでもね、がくぽ。もっと気持ちいーの、教えて上げるから……」

蕩けた表情で告げたカイトが次にしたのは、がくぽのものを口に含んで愛撫することだった。

がくぽは放ったばかりだ。さすがにしなだれるそれは放出したもので濡れそぼっていたが、カイトはティッシュやなにかで拭うようなことはせず、そのまま口に含んだ。

一度目の残滓をずるりと啜り上げ、とろりとまとわりつくそれを、舌を辿らせ丁寧に舐め取っていく。

「んー、ん、ちゅっ、ん……んぷ、ぁ、んー……」

外側から舌をまとわりつかせ、辿らせて舐めるだけではない。襞を伸ばされ、こそげ取られるかのような巧みなそれに煽られ、またもや勃ち上がったがくぽのものを、ぐぷりと音を立てて咽喉奥まで呑みこむ。

「ふ、く……っ」

堪えきれず、がくぽはぶるりと震えた。震えはしたが、なんとか二度目の射精は堪えた。

これで吐き出したりしたら、いくらなんでもあまりに早過ぎる。ましてやタイミング的に、カイトの口――咽喉奥に、放つことになってしまう。

カイトは覚悟のうえかもしれないが、がくぽはまるで覚悟ができていない。そんなことになれば、気まずさが募り過ぎてついうっかり、泣き出す自信がある。

ああだから道理でカイトにかわいいなどと言われてしまうのかと、益体もないことを考え、がくぽは蕩けるを超えた、灼熱地獄にも似た快楽から懸命に意識を逸らした。

さもなければ、いつまた早々に達してしまうかわからない。がくぽの経験値の低さを加味したとしても、それにしても巧みなカイトの舌遣いで、愛撫ぶりだった。

「ん、くふ……っぅ、はぷっ………」

「く、ぅ…、ふ、……っっ」

呑みこんだものに咽喉奥を突かせながら、カイトが上げる声がくぐもっているのに甘い。否、くぐもっているせいで、さらに甘く響く。

がくぽはシーツを掴んで拳を握りしめ、ぎゅっと瞼を閉じ、太ももを強張らせ、募り猛る感覚を堪えた。

「んく……っ」

ちゅるりと、糸引くものを啜りながら、カイトが顔を上げる。募り暴れる快楽を懸命に抑えこもうとするあまり、苦行僧のようになっているがくぽを眺め、呆れたように、しかしどこか愉しそうに笑った。

「素直に声、上げていーのに、がくぽ………どっちみち、かわいーからいーんだけど」

「っっ!」

「ねー………ほら、かわいい。こんなかわいーこ、あんまりほかに、知らないよ俺?」

微妙に衝撃的なカイトからの言葉に、迂闊な反応ぶりを示したものをきちんと捉えられ、がくぽはずすっと洟を啜った。

ぷるぷるしながら瞳を開き、足元に座るカイトをきっとして見る。

「あ、くしゅみ、にも、ほどが………」

「ヤだよ、この子はもう!」

苦情に、カイトはひどく愉しそうに笑った。口を離して代わりに添えていた手で、唾液と諸々で濡れそぼるがくぽのそれを殊更に撫で上げる。

力加減といい、撫で上げる手の触れ方、流し方といい、実によくツボを心得ている。

どれくらいよく心得ているかというと、がくぽがついうっかり、二度目の射精を迎えかけるほどの――

「……その、悪食さんを口説きに口説いて、とうとう口説き落としちゃったのは、どこのドイツさんって、話ー」

「ぅくっ、ふ……っ!」

ひたりとこぼして、カイトは限界を覚えるものの根元をくっと、軽く押した。

まるで電流を流されたかのような快楽が走ると同時に肝心の射精は抑えられ、がくぽは苦鳴に似た声を漏らす。眉をひそめ、瞳を閉じて感覚を堪えた。

視覚から聴覚からそのさまを堪能して、カイトは手を引く。濡れる指に、とろりと舌を這わせた。

「あー、んっやっば……がくぽのガマン声。――クる。かわいいし、かわいいのにヤらしいし、かわいいのにヤらしい挙句、いぢめたくなる。天才なの?」

「ぅ……っ!」

うれしいのかどうか、微妙な褒め言葉だ。がくぽは先までの、快楽を堪えるものとはまた種類の違う呻きを漏らした。

基本、『おっとりさん』で占められるカイト――KAITOシリーズに、まさか嗜虐心を芽生えさせるとは、確かになにかの『天才』かもしれないがしかし、褒められている方向性とを考えると、それなりに厳しい。

やはり悪趣味で悪食だと思考に過ったが、同時にカイトの指摘も蘇る。

その悪趣味で悪食な相手を、一歩間違えればまずかったほどの猛攻で落としたのは、がくぽ自身だ。初めは嫌がって、何度も袖にされたものを、どうしてもどうしてもと――

カイトがうまいこと絆されてくれたから良かったものの、絆されてくれなければそのうち、ストーカとして通報されていただろう。

そうやって落とした挙句こうして転がされて、今だ。

「ぅ………」

「んどしたの、がくぽ。なんか今、本格的に泣き入ったねつらい?」

「………ぅ゛」

衝撃から、隠しようもなく歪んだ表情を読み取られた。面白がるでもなく、あやすようなやわらかな声音で訊かれ、がくぽは潤む瞳でカイトを見た。

つらいかと言うなら、そうだ。

これ以上つらいことも、あまり経験がない。

がくぽは戦慄きながら、くちびるを開いた。

「すきすぎて、つらい………」

「………」

「カイトど……カイトが、悪趣味で、良かった………」

「……………」

ずすすっと洟を啜りながら言うがくぽの、感極まった様子を、カイトは空白に落ちた表情で眺めていた。

呆れられただろうか、否、完全に呆れられただろう。これが呆れずにいられるものか。

しかし言うなれば、今さらだ。呆れられる程度なら、いい。

呆れられることなら、袖にされても食いついていた片恋時代に、もう散々にやった。

これで見限られさえしなければ、がくぽはいいのだ。

カイトは呆れかえりながらも結局絆されて、がくぽの恋を受け入れてくれた。

そう、呆れかえったうえで――

「ああ、もう………!」

やはり呆れかえった様子で、カイトは慨嘆をこぼした。こぼして、なにかを堪えて歪んだ表情を隠すように、ぐしゃりと前髪を掴んで俯く。

ふるりと首を振ると、どこか情けないような顔を上げた。強い口調で、吐き出す。

「ほんっと、かわいい。かわいい。好き過ぎてつらいよく言うよ……こっちこそもう、がくぽ、かわい過ぎてつらいっていうの二回言うくらいじゃ治まんないよ、俺は?!なんなのこの子、ほんと!!」

「あー……」

二回どころでなく、カイトはひたすらずっと、数え切れないほど、数えたくもないほど、『かわいい』を連呼しているが。

だが言うなれば、カイトのこの傾向が最終的に、がくぽには有利に働いた。有利に働いて、絆されてくれての、恋人関係だ。

付き合い始めてもやはり、変わるものではない。これが幻滅する要因とはならないのだ。

男としてそれもどうかという話もあるが、よく考えるに――考えずとも、ベッドに転がされている最中だ。男としてだのなんだの、これも今さらだという話だろう。

「あー、も。がくぽやっぱ、ぜっっったい、気持ちいくして、とろんとろんにしてやる。蕩けちゃって、原型とか、なくしてやるから。それで………」

「かい、っふっ!」

悔しそうに吐き出したカイトは、がくぽがなにか応じるより先に、中断していた行為に戻った。ほんのわずかに置いた時間で、多少張り詰め感の弱くなったものを口中に含む。

「ん……っ、んぷっ、ちゅ……っ、ふ、んく……っ」

「ぁ、ふ、かい……っ」

迂闊に口を開けば、ついうっかりと『あんあん』言いそうだ。カイトにとってはかわいらしく響くらしいが、がくぽはあんあん言う自分をまだ、許容しきれない。

結果、ちゅぷちゅぷと、耳から犯されるような水音とともに施される愛撫に、ひたすらくちびるを噛んで堪えることになった。

幸いにして――と言うと情けなさが倍増するが、この時間はそう長いものではなかった。

「ん、っく………ぅぷ、ん……っ」

「……か、ぃ………っ、れま…、で、ます、くちっ………っ」

咽喉の奥深くにまで呑みこまれ、やわらかで熱い粘膜に包まれ、絞られる。口いっぱいで余裕もないはずだというのに、カイトの舌は巧みに蠢いて、がくぽの弱いところを刺激した。

手でされたときにもツボを押さえたやり方に堪えられなかったが、同じ堪えられないにしても、突き上げる衝動の強さが違った。啜り上げられるそれごと、腰から下腹から、すべてを持って行かれるような。

あまりに強い感覚に、視界がちかちかと瞬く。ああこれが星が飛ぶと言われる現象かと、がくぽの思考の片隅はとても冷静に、状況を分析した。

隅も隅の片隅の、楊枝でつつくも苦労するような、片鱗の思考だ。

逃避できるまでに至らず、がくぽは白く弾ける視界とともに、カイトの口の中に二度目の精を放った。

「ん、く………っ」

「ぅ……っ」

二度目だというのに、それは先よりも長く、しかも量が多かった。

なぜよりにもよってカイトが口に含んでいるときにこうも大量に出すのかと、快楽に背を震わせながらも、がくぽは自分を罵った。

が、受け止め側のカイトの反応は、もちろん違う。

「ん、くふっ……んぷっ、ふぁ……あ、んーーー」

警告されても口を離さず、かえって深く呑みこむようにしたカイトは、噴き出すものを咽喉を鳴らして呑みこんだ。だけでなく、ずるずると音を立てて先端を啜り、舌を絡めて割り入れてとして、残るものまですべて搾り取るような真似までする。

「かぃ……っ」

後悔しても、刺激されれば弱い。カイトは残滓をこそげようとしているだけなのだが、それが新たな愛撫と感じられて、がくぽは逃げるように腰を引いた。

愛撫だと感じはするが、過ぎ越した感覚は痛いようでもある。

そうでなくとも経験したこともないほど強い快楽とともに、吐き出したばかりだ。過負荷に駆動系が飛ぶほどではないが、それなりに処理が重い。

加減してくれと懇願する心地で引いたがくぽを追うことはせず、カイトは舌なめずりしながら体を起こした。

「んー、……いっぱい」

「ぅ……」

自分でも驚きました、などと言える場面ではない。どう謝罪したものかと、痺れる思考を空回すがくぽに、カイトはとろんと蕩けきって、笑った。

「気持ち、いかった、がくぽいっぱーい、濃いの………おれのくちに、出して……。あー、も……、ガマンできないで、おれのくちに、いっぱい出すがくぽ………かわいい」

「ぅ゛…っ!」

嫌われる要因とならなかったようで、本来は重畳と思えばいいのだが、がくぽは複雑な胸中を持て余して呻いた。

がくぽの中で、コレとソレとが『かわいい』で繋がる理由がまるでないのだが、いったいカイトの頭の中というのはどうなっているのか。

蕩けきったカイトには、まるで疑問がない。むしろその語尾に、大量のハートマーク的なものがついて見えたし、背後からもそれ的なものが桜吹雪もよろしく舞い飛んでいるのまで見えた。幻視で幻覚というもので、そろそろ追いこまれ感が厳しいのかもしれないという話だが。

動揺と衝撃とともに『冷静に』状況を分析するがくぽに、カイトはちろりと舐めた指を伸ばした。

その指でするりと撫でられる、場所だ。

「……っ」

下半身の、カイトがしゃぶっていたがくぽのものの、さらに奥――男同士で繋がるために使う、その場所。

表面の襞をすりすりと撫でるカイトの指をひどく強く感じて、がくぽはどう反応して良いかもわからず、ひたすら身を強張らせた。

「ん。こわい?」

カイトは相変わらず蕩けきった表情で緩く笑みながら、訊く。

この表情を見るに、理性などすでにないに等しいのではないかと思うが、これが経験の差というものなのか――カイトがいわゆる『野獣』と化して、がくぽに伸し掛かってくることはない。襞の表面を撫でる指を、なし崩しに中に入れて来ることも。

きちんとがくぽの反応を見て、窺って、思いやってくれている。

対してがくぽの不甲斐なさだ。いくら初めてとはいえ、そういえば先から転がってされるに任せているだけで、カイトになにもし返してやれていない。

し返す暇も与えられていないといえばそうだが、だからと甘えているばかりなのは矜持が赦さない。

「……いえ、大丈夫、で……っ」

意を決して勇を奮い起こし答えようとしたがくぽに、カイトはさらに一段と蕩けきった、緩く甘い表情で、しかし撫でる指にはくっと力を入れた。

潜りこむほどではないが、完全に『押された』という感覚がある。

思わず黙ったがくぽに、カイトはちろりと舌を出した。一度離した指に、出した舌から伝う唾液をとろりと載せる。

くちゅくちゅと殊更な音を立てて指を擦り合わせ、カイトは載せた唾液を延ばした。

あからさまに隠しようもなく緊張しながら、けれどなんとか威勢を張ろうとするがくぽを、どこかおかしそうに、微笑ましそうに見る。

「うん、まあ、だいじょぶなんだよね、実際……人間だと、仕様がアレだから、初めてはタイヘンだし、馴らしも時間がかかるけど。ロイドだからねえ……仕様上、初めてでもあんあん言って、よがり狂えちゃうから、うん。ええと、なんだっけ、がくぽふね……ふねまあいーや。ええと、だからね、舟みたいななんかに乗ったつもりで、おにぃさんに、どーーーんとお任せなさい☆」