踏みならされた道-3

「ぅ、く………っ」

懸命に堪えながらも、がくぽの口の端からはきつさに呻き声が漏れる。

どうしてこうなったのか――がくぽは弾けそうな思考をなんとか保とうと、逃避の種を探す。

が、無理だ。

初めての感覚ということもあるが、相手が相手だということもあるが、――

「ぁ、はぅ……っ、ぁくぽ、ふと………んっ、ふとぃし、かたぃい………っ」

「かぃ………っ」

事態が意想外に展開し過ぎて、あろうことか新型の、それも情報処理能力の高さを謳われる機種でありながら、がくぽはなにがなんだかもはや、まるで思考が追いつかないでいた。

相変わらず、ベッドに転がされ、組み敷かれているがくぽだ。そしてがくぽをベッドに転がし、組み敷いたカイトだ。

腰に跨る形になったカイトは、再び盛り立てたがくぽ自身に軽く手を添え、自分の後孔に宛がい、呑みこむ途中だ。補記するなら、少々苦戦している。なぜといって、あられもなく喘ぎながらこぼしたように、がくぽのものは硬度としては十分だが、質量が過ぎ越していた。

ロイドの体だから人間より柔軟性は高いとはいえ、しかもカイトはそれなりに経験を積んで、呑みこむタイミングを読むことにも長けているのだが――

「ふ、ぇっ………っ、ぁ、んんんっ、ゃ、まだ、ぜんぶ、はぃらにゃ……っ」

「カイト、ど………かい、っ」

どこか途方に暮れてべそを掻くような声に、がくぽは手を伸ばした。がくがくと震えながら懸命に膝で立つカイトの、浮く腰を掴む。

なにかを深く考えるより先に、躊躇って止まるそれをぐっと、自分へ押しつけた。

「んんっ、ぁああっ!」

「っ………っ」

強引に根元まで呑みこまされたカイトが、ぶるりと大きく震える。同時に、がくぽの肌にぴしゃぴしゃと、温かなものが撒き散らされた。

根元まで呑みこまれる感覚の凄まじさを堪えようと反射で目を閉じていたがくぽだが、震えながらなんとか瞼を開く。

先までカイトが丹念な愛撫を施してくれて、ところどころに花痣を残すがくぽのその肌に、とろりとぬめる白い液体が新たに散っていた。

出先を辿れば、がくぽを呑みこみながら反り返っていたカイトのものが、しなだれて腹の上にある。

どうやら呑みこんだ衝撃で極めたらしいと察し、がくぽの未だカイトの腰を掴んでいた手に力が入った。

「ん、ぃた……っ」

「ぁ、すみま、っ」

やわらかな、そして淫靡な響きを持ちながらもあえかな苦情が入り、がくぽは掴んでいた手から慌てて力を抜いた。

が、離せない。

自分のものを根元まで呑みこんで、突き上げられたわけでもないのに達し、その余韻にびくびくと震える体――

姿勢や、しなだれるカイトのものもある。太いだなんだとこぼしていたがくぽのものを、根元まで呑みこみきったカイトの、そこの様子は見えない。

見たい、と。

「……っ」

強烈にも過ぎる欲望が突き上げ、がくぽは手を震わせた。

体を反し、カイトをベッドに這いつくばらせ、呑みこむその場所を光の下に大きく曝け出し、つぶさに、丹念にそのさまを見て、堪能したい。

欲望は強く、ともすれば腰を掴む手にはまた、力が入りかける。

眉をひそめ、くちびるを噛んで、がくぽは突き上げるそれを懸命に堪えた。

なにしろ事態が意想外な進み方をしている。ごく単純に、募る欲情ままに動くには、少々の躊躇いがある。

つまり、がくぽはそもそもカイトにベッドに転がされ、『される』ところであったということだ。

されるというのはつまり、本来であればカイトのものががくぽの腹の中に入っているはずだった。

少なくとも途中まで――寸前までは、カイトはその気でいたはずだし、がくぽも覚悟を固めていた。

のに、蓋を開ければこうだ。反対だ。逆転もいいところだ。どうしてこうなった。いつからこう――

そう、いつの時点から、だ。

がくぽの、その受け入れ場所となるところの襞を、カイトは濡らした指で撫で――

けれど過ぎる緊張に痙攣するようなそこに、無理に突き入れれば与えるのは痛みと恐怖だけだと、カイトは表面を撫でるだけで一度、指を離した。

『もいっかい、トロけよっか、がくぽ』

とてもやさしい、憧れの『おにぃさん』は少しばかり笑ってそんなふうに言い、情けなく縮こまるがくぽのものを、再び口に咥えた。

『ここがいくなると、いー感じに力も抜けるし……さっきより、もちょっと、とっろんとっろんにしてあげるから、がくぽ。アタマ、よけーなこと、考えられないように……』

いや、先のも十分に蕩ける心地を味わわされたわけで、それ以上と言われてもと、考えたがくぽは迂闊だった。

そもそも先とは違い、がくぽはその直後のことを考えて緊張し、感度が落ちている。精神的なものが大きく影響する場所でもあるし、勃ち上がるのがまず困難――

の、はずだった。

結果は、先よりむしろ早く、しかも先よりも質量を増して、勃ちましたという。

だというのにカイトは根元を抑えて射精させてくれず、また、愛撫自身も絶妙にタイミングをずらして、もう堪えきれないという寸前で、感覚を逸らされる。

逸らされるが、いよいよ絶頂だという期待感は残る。残った、裏切られた期待感が何度もなんども積み重ねられ、解放されないそれが、がくぽの思考を一色に塗り替えていく。

カイトは『もちょっと』などと言ったが、ちょっとどころではない。謙遜も過ぎる。

蕩けるを超えてどろけた思考で埋まったがくぽの体はもはや、緊張のきの字もなかった。ひたすらに、苦しいばかりの積み重なる快楽に埋め尽くされ、それが解放されるというならなんでもやる、なにをされても良いと――

『んー………がくぽ、かわぃ………そんなに、イきたいんだくるしくって、ラクになりたいイって、ぜんぶ吐き出して………』

くふくふと笑いながら、カイトが訊いた――

そこまでは、なんというか、理解が追いつく。おそらくあのときなら、カイトががくぽの腹内に指を入れても呑みこんだだろうし、指以上のそれをも、やすやすと呑みこんだだろう。

それでこの感覚が解放されるなら、どうということもないとまで、がくぽは思っていたのだ。あまりに募らされた感覚の解放のほうが重要で、それ以外のことは大した問題とならなかった。

が、くふくふ笑ったカイトはどういうわけかがくぽの腰の上に跨り、すっかり反り返ったそれに手を添え、あまつさえ自分の腰を落として来た。

カイトの後孔に、こぼれる先走りで十分にぬめるがくぽのものの先端が、呑みこまれる。

『ぁ、ふ……っぅ、きつ……っ』

カイトがこぼした言葉の意味が、初めがくぽにはわからなかった。自分のものがいったいなにをされ、どうなっているのか――

やがて理解が追いつけば、新たな理解不能のどつぼに叩きこまれることとなった。

きつい。

きつく、熱い。

きつく、熱く、ぬめりながら蠢き、カイトの後孔ががくぽの勃起したものを呑みこんでいく。

先までにも十分、十二分に蕩けていたカイトの表情だったが、がくぽのものを呑みこんでいくそれはもはや、正気の欠片も窺えない、完全に熱に浮かされたものだった。

淫靡で、淫蕩で、淫猥で――

「ぇ、ぇふ……っ、ふかぁ………っ、おく、おくまで、とどぃ………っ、ふとぃし、かたぃし、ふかぃしぃ………っ」

根元まで受け入れて、いわば串刺しのような状態のカイトは動きも取れないまま、がくぽの腰の上でぷるぷる震える。

そうやってべそべそとこぼしているがカイトの、がくぽのものを突き入れただけで放ってしなだれていたものは、ことに再びの愛撫も必要とせず、ゆるゆると勃ち上がっていく。

いや、確かに手や口といった外部器官では、『再びの愛撫』に類するものは与えていない。

が、がくぽを呑みこんだ、腹の内だ。

絡みつくようにうねり、蠢き、締め上げてと、休むこともなくがくぽを味わっている。刺激されればもちろん、がくぽのものそれ自体が痙攣を起こすなり、跳ねるなり、あるいはまた、さらに漲るなどと、反応せざるを得ない。

これが直接の愛撫の代わりとなって、カイトは兆していく。

そして、そういう具合に貪欲に、雄を味わわれているがくぽだ。

もっと激しい刺激が、欲しい。

もっと激しい刺激は、欲しい。

が。

「かぃ、と………な、ぜ……」

感覚を逃がそうとしてか、カイトの腰はほのかに揺らめく。ほのかだ。激しさには足らない。掴んで思うさま突き上げ、貪り尽くしたい。

がくぽが覚えた衝動は強く、初めての身としてはとても堪えたい種類のものではなかったが、主に相手へ懸ける思いというものだ。

カイトはがくぽにとって高嶺の、憧れと尊敬を同時に抱いて、恋する相手だった。

そして言うなら、がくぽは忍従する犬としての傾向が強く、いわば『あるじ』と定めたカイトのためなら、猟奇的な意志の強さを発揮することができた。

『貴方がいるから、発揮できる力です。いなければ、できないのですよ。かわいそうでしょう、憐れみの念が湧くというものでしょう、絆されませんか?!』

『いやそれね、がくぽ……口説いてる相手に、脅迫で使っちゃだめだめ系の、アレだよねうん、そういう意味で、ほんとかわいそうな子だとは思うなあ、がくぽ………』

片恋の時代に何度か交わした会話だが、晴れて想いが通じても習性は残っていたらしい。

良かったと、重箱の、楊枝でもつつきにくいようなほんの片隅の思考で安堵しつつ、がくぽは言葉を継いだ。

「どぅ、して………」

逆転したのは、いったい、いつなのか。

ある意味ではっきりしているが、まるで不明なそれを訊くがくぽに、カイトはぐすりと洟を啜った。ぷるぷるとした震えを止められないまま、泣きべそを掻いたような、そんな顔で、けれど笑う。

「ぁの、ねだって、おれ………がくぽ、ほんっと、かわいー、の」

震えているのは腹だけではなく、快楽に侵されるのは全身だ。カイトは戦慄くくちびるを開き、呂律も回らない舌を懸命に繰って、吐き出す。

「ほんっとーーー、に、かわい、から………だから、いっかな。って………こわぃの、むり、させなくても………まずは、おとこのこらしー、きもちぃーでも、………ちょっとくらぃ、ぃたい、も、おれは、へーき、だし……から、まずはがくぽ、こわぃくないの、から………」

「かい………っ」

へにゃんと笑って言うのは、ずっとくり返されていることだ。

カイトは言う。がくぽがかわいいと。かわいくてかわいくて堪らないと。

かわいいから抱くねと先に言って、そしてその感情が過ぎ越した結果、抱かれることを選択した。

『がくぽ、ちぇりたんなんだし、どうせ、俺が馴れてても痛くするでしょう。痛いのは嫌だもの』と忌避しておきながら、結局、がくぽかわいさに許容した。

片恋の数か月、猛攻を掛けた。

つれなくされて、何度も袖にされて、がくぽはこうして両想いとなった今も、どこかで恐れていた。

好きなのは、自分のほうだ。

好きという感情で勝るのは、自分のほうで、カイトは絆されて、折れてくれただけだ。

――まあ、絆されて折れてくれただけというのは、あながち間違いでもないだろう。

けれど、そこからだ。

がくぽの『絆される』とカイトの『絆される』はレベルが違い、そこから派生する愛情の度合いもまた、レベルが桁違いだった。

カイトは徹底していた。

絆されて折れただけにしろ、愛すると決めた以上は、とことんまで愛するし、尽くすのだ。

なんたる失態で、なんたる僥倖――

がくぽは自分の上で、ぷるぷると震えながらへにゃんと笑うひとを眺め、自分の未熟さと至らなさとを噛みしめるとともに、また改めてこの相手への尊敬の念を強くしていた。もはや過ぎ越して、崇敬に近い。

憧れた。

相手は間違っていなかった。

そしてその相手と、こうして繋がることができた。

これを僥倖と呼ばず、なんと言うのか――