しゃく、しゃく、とアイスを齧り取っていく白い歯。

「んにゅふふふふ」

怪しく笑いながら、舌が伸び、棒アイスに絡みつく。垂れる液体をちゅるりと啜って、咥えこんで、再びしゃくりしゃくりと齧り取る。

めちゃくちゃ怒られました。

「ふぁ、うまっwww」

今日のおやつはいつものカップアイスではなく、棒アイスだ。

そしてカップだろうが棒だろうが、カイトが自分の手を使って食べることはない。

カイトが齧りつくアイスの棒を持つのはがくぽで、さらに言うとそのカイトを膝に乗せて、親鳥のように給餌中だ。

お馴染みの光景になり過ぎて、もはやマスターもツッコまない。むしろ、

「がくぽに座るまで、カイトはお預け!」

とか言いだす最近。

そのマスターは、今日はひとりで仕事に出かけた。がくぽはカイトと留守番で、今はおやつタイムだ。

がくぽはおやつタイムの定位置であるリビングのソファに座って、カイトを膝に乗せ、棒アイスを給餌していた。

近くにはクーラーボックスが置かれていて、そこにはおやつ分のアイスが入っている。

基本的にアイスは冷凍庫から出すと溶ける。

とはいえひとつ食べるたびに、膝に乗せたカイトをいちいち抱えてキッチンへと新しいものを取りに行くのは面倒なので、クーラーボックスに入れてリビングまで持って来ているのだ。

ちなみに、どんなアイスでも一個では満足しないカイトと、がくぽが交わした約束は、おやつのアイスは一回に三個まで。

どうして三個までかというと、どう教えても、カイトが三以上の数を数えられるようにならなかったからだ。

約束出来て、妥協できる最大数が三個。

カイトはなにかしら損をしているが、それがなにか、がくぽにも明確には言い表せなかった。

「んん~ふひゃっ」

ゴキゲンに、カイトは一本目のアイスを食べ終わった。濡れたくちびるを、べろりと舐める。

「カイト」

「んっ」

棒をローテーブルに放り出し、がくぽはカイトの後頭部に手をやって、顔を近づけた。笑みの形のくちびるに舌を伸ばし、ぺろりと舐める。

「がくぽがくぽ」

無邪気に開くくちびるに、がくぽは舌を差しこんだ。

「ん、んん………っふぁっ」

アイスの余韻で冷えて甘い口の中を丹念に弄り、がくぽは眉をひそめた。

「冷たい」

わずかにくちびるを離した瞬間につぶやく。カイトは楽しそうに笑った。

「アイス食べたもん」

キスの余韻で、わずかに舌足らずに返す。着物の襟を掴むと、強請るように引っ張った。

「がくぽ、つぎ。つぎの……」

「冷たいのはいやだ」

っふぁ?」

どこか駄々っ子めいた口調で言ったがくぽは、再びカイトの頭を抱えこんだ。開いたくちびるに舌を差しこみ、今度は本格的に口の中を弄る。

「ん、んん…………っふ、ぁ、あふっ…………ん、がくっ」

快楽を呼び覚ます触れ方に、カイトは抗議するようにがくぽの着物を引っ張る。だががくぽが離れることはない。

それどころかカイトは、押されるキスのままに、ソファに倒されてしまった。

「がくぽっ!」

くちびるが離れて、カイトはかん高い声を上げた。

「アイスまだいっこしか………んゃっ」

抗議する途中で、声が甘く掠れた。

体を撫でるがくぽの手が、服の上から胸の突起をつまんだのだ。

引っ張られても、押し潰されても、服の上からだと感触がもどかしい。

「ぁ、あ、んゃ、ゃだ、がくぽっ!!」

「服の上からではいやか」

「ん、ちがっ、そじゃ、なく、てっ、ぁあっ」

言ったがくぽはカイトのコートを肌蹴ると、シャツをまくり上げた。覗いた、つんと尖る胸先に、くちびるが落ちる。

つままれるだけでなく、口に含まれて、カイトは仰け反った。

「がくぽ、がくぽぉっ」

「ここも熱くなってきているな」

「んぁうっ」

下半身を撫でられて、カイトの腰は素直に跳ねた。

下へと沈んでいくがくぽの髪を掴み、カイトは頭を振る。

「がくぽ………アイスっアイス、まだ…」

「きちんと反応しておる」

「ひぁっ」

ファスナーを開けられ、キスと胸への刺激で熱くなっているものを取り出される。

直に触れられるだけでびくりと脈打ったものを、がくぽは躊躇いもなく口に含んだ。湿って熱い粘膜に包まれる感触に、カイトはびくびくと太ももを引きつらせる。

「ぁ、あ…………ゃ、がくぽ…………んっ、アイス………アイス、まだ、いっこ………」

派手に水音を立てながらしゃぶられ、吸われ、カイトは涙目で仰け反る。掴んだがくぽの髪を引っ張り、下半身に埋まる頭を太ももで挟みこんだ。

「ぁ、ぉやつ、だって…………アイス…くれるって…………ぃったのにぃ………………ふぁあっ」

もがく足を掴んで押さえ、がくぽは好き勝手にカイトのものをしゃぶる。抗議もさっぱり聞く気がないらしい。

きつく吸われて押し包まれる感触に、カイトは足を引きつらせて頭を振った。

「んぁ、ふぁあ……………ぁあ、ゃ、ふぁ、っくぽ、がくぽぉ……………っ」

呼ぶ声が甘さを増して、髪を引っ張っていた手がかえって、頭を押さえつけるように動く。

重く痺れる腰に、足らないと疼く場所。

そこに欲しいと腰が浮きかけて、けれどカイトは未練がましく、ローテーブルに置かれたクーラーボックスを見る。

まだ一本しか食べていない。

三個は食べていいのが約束なのに。

三個食べたあとなら、いくらでもがくぽの好きにされるけれど――

「がくぽ…………アイス…………とけちゃぅ…………ぁ、とけちゃ…………っ」

一際きつく吸われて、カイトは言葉も継げずに仰け反った。

「溶けちゃう」のが、アイスなのか、がくぽの口に含まれた自分なのか、わからなくなる。

「も…………っくぽ………………ふぁ、でちゃう…………でちゃうぅ………っ」

きつく瞳を閉じて訴えたカイトに、がくぽはさらに強く吸い付いた。咽喉奥まで咥えこんで、カイトをきつくきつく絞り上げる。

カイトはびくびく震え、堪えきれずにがくぽの口の中に精を放った。

「…………っぁうっ」

「……」

放出の余韻に震えるカイトから、がくぽが顔を上げる。咽喉がこくりこくりと嚥下に動いて、粘つく舌が、濡れるくちびるを舐めた。

ひどく満足そうに瞳を細め、がくぽは行儀よく頭を下げた。

「うまいおやつだった」

***

しゃくしゃくしゃくと、棒アイスが齧り取られる。

「っもぉ、がくぽはがくぽはがくぽはっ」

「なんだぁ?」

大好きなアイスを食べているにも関わらずぷんすか怒っているカイトに、帰って来たマスターは瞳を見張った。

「どうした、カイト。がくぽとケンカか」

それもないわな、と思いつつ訊いたマスターに、カイトは尖った瞳を向けた。

「がくぽがアイス食べさせてくれなかった!!」

「はあ、そりゃ」

だが今は食べている。いつもどおり、がくぽの膝の上で、がくぽに給餌されて。

怒っていてもそこのところは変わらないのかと呆れながら、マスターは給餌しているがくぽを見た。

「も、がくぽはがくぽはがくぽはっ」

「………」

しゃくしゃくしゃくとアイスを齧り取り、舐め啜り、覗く白い歯を、閃く舌を見つめる、がくぽの瞳が妖しい。

「あー……棒アイスだから……………」

それだけで事情を察して、マスターはやれやれとため息をついた。

棒アイス、それもミルク味など選ぶからだ。

呆れて見ていると、がくぽの舌が閃き、くちびるを舐めた。カイトを見つめる瞳が濡れ濡れと光り、咽喉がこくりと動いて、堪えきれない唾液を飲みこむ。

マスターは唐突に拳を握り、突き上げた。

「うん、がくぽ俺はこれから夕飯の支度にキッチンに篭もる。なんだか料理をがんばりたい気分だから、今日の夕飯は特製手捏ねハンバーグと、マッシュポテトにしよう。デミグラスソースから手作りするからな、しばらくキッチンから出て来ないデミグラスソースを煮込んでいる時間は有効利用で風呂に入ろう、そうしよう!」

白々しくまくし立てると、マスターは回れ右して、そそくさとリビングから出て行った。

閉められた扉を見つめ、がくぽは呆れたようにくちびるを歪める。

「相変わらず、こと細かに気を遣うな。微妙に気が殺がれるというのに…………」

もし狙ってやっているならアレだが、本気で気を遣っての残念な結果だ。

呆れた視線を送っていたがくぽだが、ふいにその瞳がびくりと見張られた。

「ん、んん………」

アイスを食べきったカイトが、そのまま舌を伸ばして、がくぽの指を含んでいる。ぴちゃりと水音を立てて舐め啜られ、じゃれつくようにしゃぶられる。

「………カイト」

こくりと唾液を飲みこんだがくぽに、カイトは瞳を細めた。

「がくぽ、つぎ三個目アイス約束やくそく!!」

「………」

三個目を食べても、カイトはきっと駄々を捏ねる。まだ食べたい、もっと食べたいと。

だが、三個目を食べれば、代わりに与えるキスを受け入れる。キスだけでなく、その先も。

わかっていて、けれどがくぽは我慢出来ずにカイトの後頭部を掴んだ。

「がくぽっ?」

「うまそうに食うからだ」

「んんっ?!」

釣られて、こっちまで『食べたく』なる。

つぶやきは、キスで塞いだ口の中に消えた。