「えっとねー、なんか、火事になってー、おうち焼け出されちゃった!」

「ほらぁ、こげこげなんだよー!」

「えー、こげこげてないよぉ、れあれあだもんっ」

「えー、れあれあ?」

「なまなまー?」

「なまなま!」

「「「なまなまぁっ!!!」」」

メッサリーナの帰郷-01-

きゃっはと女子高生のノリで笑って手を打ち合わせた三人を、がくぽは戦慄きながら指差した。

傍らに立って額を押さえ、懸命に頭痛を堪えているマスターを見る。

「三つ子?!」

「なわけないでしょう!」

瞳を見開いて怯えるがくぽ――己のロイドに、マスターであるミトトシはとりあえず叫んだ。

思わず叫んだものの、ミトトシは己のロイドに頭痛を覚えていたわけではない。

かわいそうなほどに動揺しているがくぽのため、『三つ子』のうちの真ん中一人の襟首を掴んで、輪の中から引きずり出した。

「ほら、これは人間でしょう。だいたいにして、髪色も目の色も」

「染色でカラコンでっす☆」

「マスター……!」

「余計なこと言うな、海斗だから落ち着きなさい、がくぽ。普段の冷静さはどこに行きました、サムライマン。よく見れば、人間とロイドの区別くらいつくでしょう?!」

そう言われても――

がくぽは改めて、リビングの床に固まって座り、にこにこと無邪気に笑う三人の来訪者を見た。

マスターと、ロイド二人という組み合わせのはずだ――が。

現在、時刻はすでに夜の十一時を過ぎている。深夜と言っていい時間だ。

そんな時間に前触れもなく強襲をかけてきたのは、がくぽのマスター:ミトトシの昔の知り合いだという青年と、そのロイド二人だった。

端的に言って、『カイト』三人だ。

ミトトシの知り合いである青年は、名前を『志麻海斗』――カイトと、名乗った。

そして共に連れて来たロイドは、まったく同じシリーズのボーカロイド、それもKAITO二体だった。

ボーカロイドを複数体所有するマスターは珍しくもないが、同じ機種を揃えるのは珍しい。

しかも、自分と同じ名前の。

混乱必至だ。

さらに悪いことに、この三人は同じような背格好で、ついでにノリがまったくいっしょだった。

同型機であるKAITOシリーズ二人のノリが同じだけなら、がくぽにもまだわかる。

しかしマスターである海斗のノリまでも、まったく同じだった。

まさかそんな『陽気』(註:隠喩表現)な人間がいるとは、ついぞ思わなかったがくぽだ。

「で、一応訊くがな、海斗。なにをしに来た?」

普段の丁寧な口調をかなぐり捨て、ぞんざいに訊くミトトシに、『カイト』三人衆は身を寄せ合って手を握った。

「泊めておうちなくなっちゃったの俺たちかわいそう!!」

「かわいそー!!マスターかわいそー!!」

「え、ちがうよ、いっちゃんみんなかわいそーなんだよマスターだけじゃないよ!」

「そーなの?!おれもかわいそーなの?!カイも?!」

「そーだよー。俺たちみんな、おうちなくなっちゃったんだよー。みぃんな、ヤドナシ!」

「わああ、かわいそー!!おれかわいそう!!マスターかわいそう!!カイもかわいそう!!」

「「「かわいそー!!!」」」

がくぽはがたぶると震えながら、一歩下がった。眉間を押さえて懸命に頭痛と戦っているミトトシに、滅多になく怯えた瞳を向ける。

「ますたー……………っ」

「落ち着け、落ち着くとき、落ち着きなさい、サムライマン。いつもの、冷静で不遜なおまえを思い出しなさい、がくぽ」

「しかし…………っ」

『カイト』三人でぴーちくぱーちくやり出すと、もはや誰が誰だかまったくわからない。そして姦しいことが、天井知らずだ。

言っていることの理解できなさが、女子高生の会話と同レベルだった。目の前にいるのは間違いなく男三人で、しかも全員が年齢的には、成人しているはずだというのに。

KAITO二人の調声が同じで、聞き分けができないというなら、まだ理解も及ぶ。

しかしここには確実に人間が一人入っていて、服装も身に纏う色も一人だけ違う。おそらくカイト二人の調声も、多少違うはずだ。

それでも、見分けることができない。

普段は落ち着いていて、いみじくもミトトシが言ったように不遜なまでに冷静なのが、がくぽだ。

だが今は、目の前の三人組に完全に呑まれ、表情を引きつらせてがたぶるしていた。

「………まあとにかく、このままでは話にならないということだけは、理解しました」

ため息をついて結論し、ミトトシは『カイト』に完全に埋没している海斗の首根っこを掴んで、引きずり出した。

「がくぽ、私たちはちょっと、別室で話し合ってきます。おまえ、その二人の面倒をお願いできますか」

「………ぅ、了解、した」

命令というほど厳しいものではないが、マスターの『お願い』だ。できればあまり関わりたくなかったが、そうとも言っていられない。

がくぽは咽喉を鳴らして唾液を飲み込み、頷いた。

ミトトシはそのがくぽへと頷くと、海斗の首根っこを掴んで引きずり、リビングから出る。

――ところで、ふと思いついた顔になり、振り返った。

「そういえば………まだ、聞いていない。そのKAITO二人、個体別の呼称は?」

「んなになんかむつかしーこと、言ってる?」

ねこの仔でもあるまいに、首根っこ――襟を掴まれて引きずられるに任されている海斗は、無邪気な表情で首を傾げた。

ミトトシは再び軽く額を押さえて頭痛を堪えてから、ため息も噛み殺した。さすがに寿命が縮み過ぎると懸念したのかもしれない。

「おまえのその、ロイド二人だ。まさか二人とも『カイト』ではないだろう。それぞれ、なんて呼んでる?」

「んああ……」

やさしいにも程がある言葉に直されて、ようやく理解が及んだらしい。

海斗は、きゅるんとした瞳で自分を見ているロイド二人に目をやった。ロイド二人も、マスターと目を合わせる。

三人が、にっこり笑った。

「「「『カイト』ー!!!」」」