また、両手に花だと言われるのだろうか。

目を覚ましたがくぽは、布団の中でそんなことをぼんやりと考えつつ、両脇に手をやる。

がくぽを挟んで、KAITO二人――カイとイトが、一人用の布団の中にぎゅうぎゅうと入りこんでいた。

がくぽは伸び率に限界がある布団を出来る限り広げて二人をくるみ、のみならず、体を抱き寄せて中へと招きこんでやる。

冷えると風邪を引くからな――と、無意味な親心を発揮してから、かっと瞳を見開いた。

ロイドが多少寝冷えしたところで、体調不良を起こすものか。ましてや、風邪など。

メッサリーナの帰郷-05-

「寝惚けた」

ぼそっとつぶやく。

――スペックの高さゆえ、『寝起きがいい』がくぽのシリーズだ。寝惚けることなど滅多にない。

しかし、寝惚けたとしか――いや、単に現実逃避をしただけだろう。

昨夜からこちら『異常事態』続きで、不遜な態度に見合わない繊細さを極めるがくぽの精神は、疲弊しきっている。

「………いつ、潜り込まれた……?」

もろもろあってリビングで先に寝潰れたカイとイトを、マスター同士の話し合いが終わらないからと、がくぽの部屋に寝かせた。

もし万が一に途中で目を覚ましたとき、見知らぬ部屋で二人きりというのは、不安だ。

だがそこに、なにやらちょっぴり懐いたらしいがくぽがいれば、多少は違うだろう。

とはいえがくぽもロイドだから、隣のひとが起きた気配で目を覚ませる、人間のような器用さはない。一度寝に入ってしまうと、一定時間経つか、よほどの異常を検知しない限りは眠り込んでいる。

だから安心とはいっても、顔見知りがいる安心、もしくは叩き起こせる相手がいる安心だ。些細だが、意外に重要な『安心』でもある。

がくぽもなにかあれば叩き起こされる覚悟で、並べて寝かせた二人の、さらに隣に敷いた布団に入った。

それが朝になって目を覚ましてみれば、並べて寝かせたはずの二人ががくぽを間に挟み、同じ布団にぎゅうぎゅうと詰まっていた現実。

昨夜の様子だと、カイは堪えるかもしれないが、イトは遠慮なく大騒ぎしてがくぽを起こしそうな気がしたのだが、騒がれた記憶がない。

つまり二人は途中で目を覚ましても特に騒ぐことなく、すんなりとがくぽの布団に――いやだからなぜ、同衾。

一人用布団だ。いくらなんでも成人男性三人は、無理過ぎる。

「…………考えたところで、無駄以外のなにものでもない気がしてきたな」

「んぁ………」

「ふにぃ………」

がくぽが投げやりな結論に達したところで、両脇からひどく愛らしい声が上がった。

見れば、カイとイトが目を覚まし、こしこしと瞼をこすっている。

KAITOシリーズはロイドの中でも初期型のため、割と低スペックだ。つまり、=寝起きが悪い。

すぐにも寝に戻れそうなぼんやりぼやけた表情で、カイはわずかに緊張して体を硬くしたがくぽへくちびるを寄せた。

「ぉはよぉ、がくぽ………ん」

「っ」

ちゅっと音を立てて、頬にキスされる。

ぴくりと肩を跳ねさせたがくぽに構わず、イトもくちびるを寄せた。

「はよー、神威がくぽー……んっ」

KAITOシリーズにはデフォルトで挨拶のキスの習慣があるが、がくぽにはない。ひたすら緊張する習慣なのだが、もちろんカイとイトは平然としたもの。

そのまま体を起こすと、二人はがくぽを挟んで互いにくちびるを寄せた。

「おはよ……いっちゃん」

「はよ、カイ」

そして、ちゅっと。ちゅっちゅと。ちゅっちゅっちゅ、と。

「待たんか己らっ!!」

「んゃっ?!」

「ふわっ?!」

軽やかながらもくちびる同士を合わせるカイとイトに、がくぽは叫びながら起き上がった。

のみならず、二人の頭を掴んで引き離す。

一度でもアレなのに、たとえ軽くても何度も何度も、ちゅっちゅちゅっちゅとくり返し――

「んっ、ぁ、ぃたっ、よ、がくぽっ?!」

「いったいぃっ、なにすんだっ、神威がくぽっ!!」

頭を鷲掴みされて引き離され、手の下でカイとイトはそれぞれにもがく。

それでもぎりぎりと力を込めて離さず、がくぽは厳しい顔で二人を交互に見た。

「昨日も言ったがな、己らっ………なにゆえ、口にキスする。そういう仲なのか?!」

「んっ、や、や………がくぽっいた、ん、なにいってるか、わかんないぃっ」

「やーやーやーっ!!離せばかばか、神威がくぽのばかぁっ!!」

話にならない。

がくぽは諦めて、二人の頭から手を離した。それでも用心深く、二人がくっつけないように目を光らせる。

「あのな、お主ら。昨日は訊く暇がなかったが、もしやして、そういう仲なのか。つまり、親密に口づけを交わすような――」

訊き直しながら、がくぽは朝から兆す頭痛に額を押さえた。

カイとイトは、同じKAITOシリーズだ。KAITOシリーズは亜種も豊富だが、そうではない。まったくの同型機。

それで『そういう仲』というのは、そもそもが双子機として造られた鏡音シリーズがいちゃつくのとはまた別の方向で、理解力を求められる。

高速で思考を空転させ、理解を及ばせようと無為な努力に尽力し傾注するがくぽに、カイとイトは無邪気に首を傾げた。

「いっちゃんとは、仲いいよ?」

「あったりまえじゃんおれ、カイのこと、ダイスキだよ?」

そういうことでは――いや、それとも二人のボキャブラリにおいては、そういうことなのか。

さらに無意味な悩みを抱えるがくぽに、カイがぱっと表情を輝かせた。

「あっ、わかったっがくぽも、口にちゅうがいいんだ?!」

「えっ、そーなの?!神威がくぽも、口にちゅうがいいの?!」

「違うっっ!!」

間違った方向のエウレカへ、即座に反駁したがくぽだが、無駄だった。

がくぽの寝間着をちょんとつまんだカイが、おずおずもじもじと、頬を染めて上目遣いに見つめてくる。

「えと、えとねうん、いーよ僕、がくぽなら、口にちゅう、してあげる………」

「いや待て、カイ」

朝から無駄にかわいさマックスだ。

だからカイの健気な可憐さは、がくぽのアレ的好みどストライクなのだと。というか、イトには平然とちゅっちゅちゅっちゅするくせに、なぜにがくぽには恥じらう。

つい、くらくらとよろめくがくぽに、反対側のイトが袖を掴んでぐいぐいと引っ張ってきた。

「そっかっ、神威がくぽっきのーから、なんかヘンだと思ってたら、ヤキモチかはぶんちょされてるって、スネてたのか!」

「己はさらに積み重ねて違うっ、イトっ!!」

間違ったまま突き進む新しい公式に、がくぽは慌てて叫んだ。

しかし、無駄もいいところだった。

頬を染めて恥らうカイが、きゅむんとかわいらしく寝間着をつまんだまま腰を浮かせ、がくぽへくちびるを寄せる。

「ん、がくぽ………おはよ。………ねん………」

「ちょ、………っ」

「しょーがないなっ、神威がくぽまあ、そーいうことなら、おまえはいーやつだし、トクベツなっ?!んーっ」

「いや、話を………っっ」

反論する間もない。

がくぽのくちびるには、カイとイトが交互にちゅっちゅとキスをくり返す。

触れるだけ、羽ばたくような軽いもので、キスとしてはかわいい以外のなにものでもない。今時、こんなキスをするのは小学生も遡って、幼稚園児――

だがキス。間違いなくキス。口にキス。

「~~~~~っっ」

「っぁ、がくぽっ?!」

「神威がくぽっ?!どーしたっ?!」

ばたんきゅうと布団に倒れたがくぽを、カイとイトは慌てて覗き込んだ。

がくぽは顔のみならずうなじからなにから、見える範囲の肌すべてを真っ赤に染めて目を回しかけている。

確認して顔を見合わせたカイとイトは、まるきり鏡のように首を傾げた。

「えっとぉ、…………勝負あった?」

「ん。おれたちの、勝ち?」

――とても大変、違う。