「やっは、がっくん☆」

廊下でばったり出くわした、生徒会副会長の初音ミクに愉しげに声を掛けられ、がくぽは無言で見下ろした。

他校生との乱闘騒ぎがひきも切らない問題児の、その威圧感たっぷりの態度も気にすることはない。

ミクはちょちょいと気安く、がくぽの頬をつついた。にんまりと笑う。

「君さ、最近、生徒会長の『犬』だって、もっぱら噂♪」

ドギー・ドッグ・ドック

「――らしいぞ」

生徒会資料室で、探し物をするカイトの傍らに漫然と立ちつつ、がくぽはミクから聞いた話を告げる。

棚に雑然と並ぶファイルの背表紙を睨んでいたカイトは、ひょいと顔を上げた。

がくぽの不品行に目を瞑る代わりに、生徒会が突きつけた条件のひとつが、週に二回、生徒会室を訪れて『監視』されることだ。

だが、がくぽは連日生徒会室に入り浸り、暇さえあれば、生徒会長であるカイトの後を追いかけ回している。

誰にも彼にも愛想を振り撒くことなく、ぶっきらぼうながくぽが、生徒会長の前でだけ、大人しい――

特に含みがあるわけでもなく、端然とした表情のがくぽを見つめ、カイトは首を傾げた。

「首輪が欲しいってこと?」

「………おまえな」

がくぽは壮絶に顔を歪める。

そもそもがくぽが問題児とされたのは、他校生との乱闘がひきも切らないせいもあるが、風紀上の理由も大きい。

いくら括っていても、腰まで届く長髪。

そしてなにより、いつでもだらしなく崩れているネクタイと、首元を大きく開いたワイシャツ――

別にきちんとした格好が嫌なわけでも、悪ぶりたいわけでもなく、首元を締めるのが苦手なのだ。日常生活に支障を来すレベルで。

だが、そういった弱みを、誰にでも彼にでも話すわけではない――から、がくぽは無闇とだらしない恰好をしている、問題児、という評価になる。

けれど、カイトにはそこのところをきちんと、告げてある。

告げてあるというより、妙に察しのいい会長は、がくぽがなにを言うより先に、気がついたのだ。

――がくぽ、君、首だめなんだね。じゃあ、しょーがないか。

で、お目こぼしされて、現在に至っているというのに、首輪など。

「ぁは」

「っ」

カイトは笑うと、伸び上がった。がくぽの肩を掴んで引き寄せ、晒された首にくちびるをつける。

掻痒感にも似た軽い痛みが走り、華奢な体は離れていった。

「はい、首輪」

「……」

笑うカイトを見下ろし、がくぽは首を撫でた。

おそらく、『痕』がついた。きちんと襟を閉じてネクタイを締めれば隠れる――か、どうかも、微妙な場所に。

見下ろすがくぽに、カイトは自分のくちびるを指差した。

「外れたら、言うんだよ。付け直すから」